前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

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第1章

セレナ

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「王女……?」

  記憶にないとばかりに、私は首を振る。

「何も覚えていないのですね……」

  若い男は困惑しているようだった。

  だが、困っているのはお互い様だ。

「教えていただいてもいいですか? 私について」

  記憶喪失の件について、変なことを聞かれる前に尋ねる。

  ここで、2回目の人生で良く見た物語にある、記憶喪失した者に対する質問なんてされれば、私は答えようがない。

  例えばここで、

「今は何年の何月何日ですか?」

  と聞かれれば、詰んでしまう。

  1回目の私がとうに死んだ時間軸だから、昔のことなど答えてしまえば変に思われるだろうし、2回目の時間軸を答えてもそうだ。

  その質問に対し、わからないと答えることも出来ないだろう。

  現時点で私は彼らの質問に対し、かなりはっきりとした答えを示しているからだ。そんな人間が、日にちのことを全く覚えていないということは、傍から見ればやはりおかしいだろう。


  だが都合の良いことに、目の前の男はそのような知識は全く持っていないようだった。

「ええ、良いですよ」

  と、気軽に答えてくれた。

「正直、今回のが我々の責任になってしまえば、私たちの首は簡単に飛んでしまうでしょう。あの人はすぐに報告しに行きましたが、俺はまだ死にたくないんだ」

  要は、嘘をつけと言っているのだ、と気づく。

  この男には王族をあまり尊敬していないようだ。

  記憶喪失であるとはいえ、その一族の娘に安易に協力を要請している。

  少しその態度を不快に思うが、

「わかりました」

  私は殊勝に頷いた。

「よろしくお願いします」

  私の返事を聞いて、男は嬉しそうに微笑んだ。

「それは良かったーーで、肝心のお話ですが」

  男は話し始める。


  私、セレナ王女の過去を。
  
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