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第2章
前世
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「言い訳にしか聞こえないと思うけど」
バルコニーに出て、ルーカスは一番最初にそう言った。
「2回、少なくとも俺たちは過去に人生があって。そこで会った君のことは、本当に大事に思っていた」
私は、ぶん殴りたくなる衝動を抑えながら、
「そう」
とだけ言う。
「俺はこの今の身体になってから、どうして君をこんなにも傷つけてしまったのだろうか、とずっと考えてきたんだ」
「……」
「1回目のときの俺は、本当に最悪だった。婚約者、そして妻となった君のことを放置して、他の女のところへ行き、あまつさえ酷い言いがかりをつけて君を殺してしまった」
「……」
「2回目のときの俺は、それに輪をかけて酷かった。その前で君を散々裏切ったのに、謝ればそれで許してくれると思っていた。何事もなかったかのように、俺を受け入れてくれると思ってた。君の怒りなどなかったかのように」
「……」
私はバルコニーの下を見つめる。
ちょうどその下は、私とこの男が再会した、あの玄関だった。
「番、というのを知ってるか?」
「は?」
「俺の国に、そういう言葉がある。運命の相手である番は、輪廻転生を経てもなお、必ず同時代に生まれて結ばれる、というものだ」
私は鼻で笑った。
「私たちが、その番だって言うわけ?」
なら、とんでもない運命の相手ね。
出会う度に、不幸になっていく。
「俺は、そうなりたいと思っていた。だから、一度目のときに死ぬ間際、俺は神に祈った。また君に会えるように」
殺意が湧いた。
だからなんだと言うのだ。
私はもう、この男の戯言に耳を傾けたくない。
「……話はそれだけ? その、クソどうでも良いつまらない話だけ?」
ルーカスは何を答えず、じっと私を見つめる。
「ふざけんじゃないわよ。じゃあ、あなたは私と同時代に転生したのを、自分が神に願ったから、という自己中心的な理論でまとめるわけ? じゃあ何よ。私はあなたのためだけに、ここにいるというの? あなたの自分勝手な気持ちのためだけに」
「違う。違うんだ。そうじゃない」
ルーカスは首を横に振った。
「俺が言いたいのは、この世界は何かおかしい、ということだ。輪廻転生という信じられないことが二度も起き、そしてその全部に俺と君が接触している。変だと思わないか?」
「偶然以外に、何があるって言うのよ」
「可能性としては、誰かが、超次元的な何かが、俺たちの魂を操っている可能性があるということだ。俺たちを接触させて、何かしらの衝撃が起きるのを狙っているんじゃないかと思ってる」
「へえ、随分スピリチュアル的な考え方を持つようになったのね」
私は吐き捨てるように言った。
「気をつけてくれ」
「あなたに言われなくても、気をつけてるわよ。十分ね」
「特に、君の兄が怪しいんだ。わかってくれ」
「怪しいことくらい、十分承知しているわよ。あなたに言われなくても、とうの昔にーーじゃあ、私行くから」
私は踵を返し、大広間に戻ろうとする。
すると、ルーカスが私の腕を掴んだ。
「何よ!」
「これだけは言わせてくれ。俺は君を愛しているんだ」
「は?」
「君にどれだけ裏切られようとも、君に憎悪の念を向けられても。それでも、ずっと好きだったし、これからもきっとそうだ。だから、君のことを助けたい。守りたいなんてそんなこと言える立場じゃないけど、でも、その気持ちは本当なんだ」
「あっ、そう」
私は怒りのあまり、声が震えた。
愛してる?
良くそんなことが私に言えるのね。
私を二度も殺しておいて、私と私の子どもたちを裏切っておいて。
私はあなたのことを愛してたのに、あなたは私の心を踏みにじった挙句、ゴミ箱に捨てた。
それなのに、ずっとそう思っていたなんて、そんなふざけたこと、良く言えるわ。
「それ、1回目のときに言ってほしかったわ」
私は正直に言った。
「あの女のせいで宮廷内で孤立したときに言ってほしかった。私を愛しているって。私の味方だって。嘘でもそう言ってほしかった。もしそうしてくれたのなら、私はどれくらい嬉しかったでしょうね。でも、もう遅いの。遅すぎたのよ。さようなら、もう二度と会いたくないわ」
私は彼を置いて、1人で会場に戻った。
バルコニーに出て、ルーカスは一番最初にそう言った。
「2回、少なくとも俺たちは過去に人生があって。そこで会った君のことは、本当に大事に思っていた」
私は、ぶん殴りたくなる衝動を抑えながら、
「そう」
とだけ言う。
「俺はこの今の身体になってから、どうして君をこんなにも傷つけてしまったのだろうか、とずっと考えてきたんだ」
「……」
「1回目のときの俺は、本当に最悪だった。婚約者、そして妻となった君のことを放置して、他の女のところへ行き、あまつさえ酷い言いがかりをつけて君を殺してしまった」
「……」
「2回目のときの俺は、それに輪をかけて酷かった。その前で君を散々裏切ったのに、謝ればそれで許してくれると思っていた。何事もなかったかのように、俺を受け入れてくれると思ってた。君の怒りなどなかったかのように」
「……」
私はバルコニーの下を見つめる。
ちょうどその下は、私とこの男が再会した、あの玄関だった。
「番、というのを知ってるか?」
「は?」
「俺の国に、そういう言葉がある。運命の相手である番は、輪廻転生を経てもなお、必ず同時代に生まれて結ばれる、というものだ」
私は鼻で笑った。
「私たちが、その番だって言うわけ?」
なら、とんでもない運命の相手ね。
出会う度に、不幸になっていく。
「俺は、そうなりたいと思っていた。だから、一度目のときに死ぬ間際、俺は神に祈った。また君に会えるように」
殺意が湧いた。
だからなんだと言うのだ。
私はもう、この男の戯言に耳を傾けたくない。
「……話はそれだけ? その、クソどうでも良いつまらない話だけ?」
ルーカスは何を答えず、じっと私を見つめる。
「ふざけんじゃないわよ。じゃあ、あなたは私と同時代に転生したのを、自分が神に願ったから、という自己中心的な理論でまとめるわけ? じゃあ何よ。私はあなたのためだけに、ここにいるというの? あなたの自分勝手な気持ちのためだけに」
「違う。違うんだ。そうじゃない」
ルーカスは首を横に振った。
「俺が言いたいのは、この世界は何かおかしい、ということだ。輪廻転生という信じられないことが二度も起き、そしてその全部に俺と君が接触している。変だと思わないか?」
「偶然以外に、何があるって言うのよ」
「可能性としては、誰かが、超次元的な何かが、俺たちの魂を操っている可能性があるということだ。俺たちを接触させて、何かしらの衝撃が起きるのを狙っているんじゃないかと思ってる」
「へえ、随分スピリチュアル的な考え方を持つようになったのね」
私は吐き捨てるように言った。
「気をつけてくれ」
「あなたに言われなくても、気をつけてるわよ。十分ね」
「特に、君の兄が怪しいんだ。わかってくれ」
「怪しいことくらい、十分承知しているわよ。あなたに言われなくても、とうの昔にーーじゃあ、私行くから」
私は踵を返し、大広間に戻ろうとする。
すると、ルーカスが私の腕を掴んだ。
「何よ!」
「これだけは言わせてくれ。俺は君を愛しているんだ」
「は?」
「君にどれだけ裏切られようとも、君に憎悪の念を向けられても。それでも、ずっと好きだったし、これからもきっとそうだ。だから、君のことを助けたい。守りたいなんてそんなこと言える立場じゃないけど、でも、その気持ちは本当なんだ」
「あっ、そう」
私は怒りのあまり、声が震えた。
愛してる?
良くそんなことが私に言えるのね。
私を二度も殺しておいて、私と私の子どもたちを裏切っておいて。
私はあなたのことを愛してたのに、あなたは私の心を踏みにじった挙句、ゴミ箱に捨てた。
それなのに、ずっとそう思っていたなんて、そんなふざけたこと、良く言えるわ。
「それ、1回目のときに言ってほしかったわ」
私は正直に言った。
「あの女のせいで宮廷内で孤立したときに言ってほしかった。私を愛しているって。私の味方だって。嘘でもそう言ってほしかった。もしそうしてくれたのなら、私はどれくらい嬉しかったでしょうね。でも、もう遅いの。遅すぎたのよ。さようなら、もう二度と会いたくないわ」
私は彼を置いて、1人で会場に戻った。
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