前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

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第3章

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 ヤバい。

 どうしよう。


 失敗した。


 逸る心臓を押さえ、私は大きく深呼吸する。


 落ち着こう。

 落ち着け。


 一旦、その場から離れてーー。


 いや、変に動いて物音を立ててしまったら、元も子もない。


 まだ私はあの部屋を調べ切れていない。


 ここで見つかってしまえば、その努力は全て水の泡だ。


 私は息を殺す。


 少しでも呼吸しようものなら、男にバレてしまいそうで怖かった。


「……」


 男は、先程の言葉以外に声を出す事はなく、カツカツと革靴の音を鳴り響かせながら、図書館の本棚の間を練り歩いている。


 その音が、まるで私の死へのカウントダウンのようにに聞こえた。



 私の身体はガタガタと震える。


 どうしよう。


 しくった。


 私は王女だ。

 男の声から察するに、国王ではない。

 だから、私がここにいることがバレてしまっても、私がその男によってすぐさまその場で切り殺されたりなんていうことはないはずだ。


 私の命は王女という地位で保障されている。


 しかし、問題はそこじゃない。


 せっかくの手がかりなのに、それを失ってしまうわけにはいかない。


 靴音が、だんだんと私の方に近づいていく。


 その音が大きくなるにつれ、私の鼓動が速くなる。


 カツカツ。


 カツカツ。


 カツカツ。


 カツカツ。



 ……ガサッ。


 外で何か物が落ちたみたいだ。


 その音は暗闇の中で、かなり響いた。

「……」


 男は少し立ち止まる。


 しばしの静寂。


 やがて、男の靴音が私から離れていく。


 ガチャ。


 バタン。


 男の気配が消えた。


 私はそこでようやく安心し、一息ついた。



 



 
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