前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

文字の大きさ
36 / 81
第3章

アイザック・バスティン

しおりを挟む
 早速私は、もう一度図書館を訪れた。


 長時間調べ物をするわけではないというのと、前回の失態ということもあり、今回は念には念を入れてすぐに帰ることにした。


 例のごとく深夜にベッドから這い出し、私は部屋から出る。


 私が夜抜け出していることに気づいた誰かが、私を見張っているんじゃないかと内心ひやひやしていたけれど、廊下からは人の気配がなく、私はとりあえずひと安心する。



 いつものように廊下を忍び足で進み、城内に作られた図書館へ向かう。


 静まり返った暗闇を抜ければ、見覚えのある重厚な扉が待っている。

 私はそれをゆっくりと押して、部屋の中に入った。


 普段ならそのまままっすぐ隠し部屋に向かうけれど、今日は違う。

 図書館の本はアルファベット順で本棚に押し込められている。


 その本棚から、「I」に分類された段を探し出し、「Isaac(アイザック)」という名前の作者を探す。


 文字が目の上を滑っていく。


 何度も同じところを往復して、ようやく目的の名前を発見した。


 その本は何かの革で出来ており、背表紙には金の文字が彫られている。


 かなり昔のものらしく、人の手によって表紙がすっかり擦り切れてしまっており、そのせいで背表紙の文字を解読するのに苦労した。


 私は踏み台を本棚の真下に置き、その上に乗って背伸びをする。

 目的の本は、7歳のセレナでは絶妙に届きにくい場所にあった。


 腕を限界まで伸ばし、ようやくその本の角に触れることが出来た。

 指を使って地道にそれを引っ張り出し、本を掴む。


「よしっ」


 だが、勢い余って背中から倒れ、私は強かに腰を打った。

「――っ!」

 声にならない悲鳴を上げる。

 お尻が尋常じゃないくらいに鈍く痛み、私はしばらくその場で悶えた。


 少し痛みが和らぎ、私は後ろに転倒した際に放り投げてしまった例の書籍をもう一度手に取った。


 ビンゴだ。


 真っ暗闇の中、私は持ってきた燭台の灯をかざしながら、ゆっくりと本の表紙を撫でた。


 そこにははっきりと、

「魔力過多 アイザック・バスティン」

 というタイトルが書かれていた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...