前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

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第5章

遠出④

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 バスティンに連れていかれたのは、城下町だった。


 前々世では、町に下りたことが一度もない。


 ずっと王子の婚約者として、王妃として、勉強ばかりの日々だった。

 友人たちが時々町へ行っては楽しそうにしていたのを、当時の私はとても羨ましく思っていた。


 この身体の持ち主である「セレナ」は、この町に来たことがあるのだろうか。


 きっとないだろうな。

 病弱で、ほとんど凍結魔法によって眠らされていた彼女へ、あの先王が外出を許可するはずもないだろう。


 私は見た目が7歳の子どもであることを利用し、無邪気な顔で町を見渡した。


「あんまりふらふらするなよ」

 バスティンが忠告する。

「あんた、自分の身分わかってんのか?」

「バスティンさん、言い方には気をつけてください」

 と、クロード。

「ですが、おっしゃっていることは正しい――セレナ様、絶対に私たちから離れないでくださいね」


 自分の身分ですって?

 わかっている。


 それはもう、しっかりと。


 私は、セレナ第一王女。

 この国の最重要人物のうちの1人だ。


 だけど、2人が心配するような事態には、多分起きないだろう。


「この国に、セレナという王女がいる」

 というのは、みんな知っている。


 だけど私が「セレナ」であることは、誰も知らないはずだ。


 病弱なセレナは、一度も民衆に姿を現したことがないから。


 2人の男と、豪華なドレスを身に纏った少女。

 明らかに我々は、普通じゃなかった。


 町を歩く人々のうち何人かが、何事だと言わんばかりに私たちの方へ視線を向けている。


 だが、その中心にいる少女が「セレナ」だとは誰も思わないだろう。

 せいぜい、「貴族の御令嬢」くらいだ。

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