前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

文字の大きさ
77 / 81
第5章

屋敷内

しおりを挟む
 バスティンの祖父の家だというその建物の中は、とても埃っぽかった。


 一体いつから掃除していないのだろう。

 少なくとも鍵がかけられていた時点で、相当な時間放置されていたのだけはわかる。


 バスティンは、まるで強盗のような仕草でヅカヅカと部屋の中に入り、瓦礫のように積み重なった物たちを退かしていく。


 それによって埃が激しく舞い、私はハンカチで口元を押さえ、ゴホゴホと咳をする。


 そういえば、少し前にもこういうことがあったような。

 あれは隣国で、あの2人の王子に国を案内してもらったときだ。


 あのときも、私は埃を吸い込み、思いきり咳き込んでいた。


 あのときよりもマシではあるが、それでも家が汚いことに代わりはない。


 バスティンも両王子も、セレナの体調を全然慮ってくれないのはどうしてだろうか。


「セレナ様、大丈夫ですか?」

 クロードは心配そうな顔で私を覗き込む。


 咳が止まらないので、私は言葉を発することが出来なかった。

 その代わりに、首を大きく横に振る。


「バスティンさん」

 クロードは、厳しい声を出した。

「セレナ王女は、身体がお悪いのです。ですのでどうか、このように空気の悪い場所へ連れていくのは辞めていただけませんか?」

「あ? ……ああ」

 バスティンは、物を動かす手を止めた。

「そういや、そうだったな」


 彼は私に向かって呪文を唱える。

 すると、私の身体を淡い光が覆った。


 そのおかげで、息がしやすくなる。


「……あなた」

 声が出せるようになった私は、バスティンに尋ねた。

「土属性じゃなかったっけ?」


 原則、人間は自身の属性の魔法しか使えないはずだ。


 それなのに、今バスティンが放った魔法は光属性のもの。

 しかも、かなり複雑な保護魔法。


「……それより」

 しかしバスティンは、私の質問に答えることはなかった。

「地下へ降りる階段がどこかにあるはずだ。2人とも、手分けして探してくれ」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...