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第1章
婚約者
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逢瀬、という妙にいやらしい言い方をするのは。
このオリバーという男が、私の婚約者だからである。
名門公爵家の出である彼は、将来宰相と公爵の地位を約束された超エリートであり、私はその男の妻となって臣籍降下するという未来が待ち受けている。
当然私が好き好んでこの男を選んだのではなく、両親――すなわち国王夫妻が勝手に決めたことだった。
ある日突然目の前に現れた少年が将来の夫だと言われても、私にはピンと来ない。
それは向こうもそうで、それからずっと今まで腐れ縁的な関係を続けているわけだ。
「やっぱりおかしいとは思わない?」
両親に仲良しアピールをするために私の部屋にやってきたオリバーに向かって、私はもう一度同じことを言う。
「だってあのお兄様よ? あなたも何度も話したことあるでしょう?」
「話したこともあるし、なんなら友人でもあります」
オリバーは「友人」という単語を強調して答えた。
「でもそれって幼少期の頃に一緒にいたくらいよね? 最近は――」
「ここ最近は殿下が学園に通うようになったので、時間が合わないだけです。それに友人と言っても、単なる学友ではなく公の友人ですから」
公の友人というのは、そのままの意味である。
公に出ても恥ずかしくない身分とそれなりの地位、そして現在から未来に至るまで長い間付き合いのある可能性のある同年代の男子を、我が国の王子は最初の友達としてあてがわれるのだ。
「じゃあお兄様の公の友人に聞きたいのだけれど。最近のお兄様はおかしいわよね」
「はい、まあ。それはそうですね」
「絶対におかしいわよね?」
「まあ」
なんとも煮え切らない返事だが、一応は共感してくれるらしい。
「前までとは少し変わりましたよね」
「少し? 大分の間違いじゃなくて?」
「大分変わりましたよね」
オリバーは訂正した。
「正直、次期国王として相応しい振る舞いとは言えません」
「そうよね! やっぱり」
「はい。そしてあんたの振る舞いも王女として相応しくありませんよ。リリアンヌ様」
オリバーは目の前にある1人掛けの椅子を指差した。
「座ってください。あんたが叱られないように俺が手伝ってあげてるんだから」
このオリバーという男が、私の婚約者だからである。
名門公爵家の出である彼は、将来宰相と公爵の地位を約束された超エリートであり、私はその男の妻となって臣籍降下するという未来が待ち受けている。
当然私が好き好んでこの男を選んだのではなく、両親――すなわち国王夫妻が勝手に決めたことだった。
ある日突然目の前に現れた少年が将来の夫だと言われても、私にはピンと来ない。
それは向こうもそうで、それからずっと今まで腐れ縁的な関係を続けているわけだ。
「やっぱりおかしいとは思わない?」
両親に仲良しアピールをするために私の部屋にやってきたオリバーに向かって、私はもう一度同じことを言う。
「だってあのお兄様よ? あなたも何度も話したことあるでしょう?」
「話したこともあるし、なんなら友人でもあります」
オリバーは「友人」という単語を強調して答えた。
「でもそれって幼少期の頃に一緒にいたくらいよね? 最近は――」
「ここ最近は殿下が学園に通うようになったので、時間が合わないだけです。それに友人と言っても、単なる学友ではなく公の友人ですから」
公の友人というのは、そのままの意味である。
公に出ても恥ずかしくない身分とそれなりの地位、そして現在から未来に至るまで長い間付き合いのある可能性のある同年代の男子を、我が国の王子は最初の友達としてあてがわれるのだ。
「じゃあお兄様の公の友人に聞きたいのだけれど。最近のお兄様はおかしいわよね」
「はい、まあ。それはそうですね」
「絶対におかしいわよね?」
「まあ」
なんとも煮え切らない返事だが、一応は共感してくれるらしい。
「前までとは少し変わりましたよね」
「少し? 大分の間違いじゃなくて?」
「大分変わりましたよね」
オリバーは訂正した。
「正直、次期国王として相応しい振る舞いとは言えません」
「そうよね! やっぱり」
「はい。そしてあんたの振る舞いも王女として相応しくありませんよ。リリアンヌ様」
オリバーは目の前にある1人掛けの椅子を指差した。
「座ってください。あんたが叱られないように俺が手伝ってあげてるんだから」
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