23 / 37
22.
ミツが食べれそうなものをいくつか用意していた。
ずっと食事もまともに取っていないようだったから、いつものようにゼリーとかおかゆとか、あまり胃に負担をかけない物を用意した。
「ごめんね、ハルくん。いつも……ありがとう」
申し訳なさそうに笑みを浮かべつつ、手渡したゼリーを半分食べてくれたことに安堵する。
「ミツは何も気にしなくていい。食べたいものがあれば、なんでも言って欲しい。メロンだろうとスイカだろうと、なんでも用意する」
「ふふっ、ハルくん。それ妊娠中の奥さんを心配する素敵な旦那さんみたいだね……って、僕とはそんなんじゃないのに、ごめんね」
本気で心配している俺に対して、クスクス笑いながら嬉しいことを言ってくれる。
そんなミツの姿を見ているだけで自然と笑みが零れる。
でも、次の瞬間、ミツはまた寂しそうな表情を浮かべて謝ってきた。
本当に、俺がミツの番だったら、いつでも欲しいものを用意してやれるのに……
痛々しい傷ができてしまった頬を、傷に触れないように気を付けながら指で撫でてやる。
こんな傷を自分で作ってしまうくらい、ミツは追い詰められていたんだな……
俺が離れていたせいで……。俺が気付けなかったせいで……
何もできない自分に苛立ちを感じる。
「ミツ、身体は大丈夫か?小林のところに行くまで車で寝ててもいいから……」
郊外にある小さな診療所までは、車でも30分はかかる。
今のミツの体力を考えると連れ出すことに躊躇してしまうものの、このまま医者に見せずにいるわけにもいかず……
「ハルくん、大丈夫。うん。大丈夫、だから……」
俺の不安を察してか、ミツの方が安心させるように笑みを浮かべ、自ら行くと言ってくれた。
ミツを車に乗せ、辺鄙な場所にポツンと建っている小さな診療所。
ここが俺とミツの友人が経営しているΩ専用の診療所だ。
電車もバスも通っていない、不便でしかない場所だが、ここを訪れる人は少なくない。
ミツの肩を抱き、倒れないように支えながら診療所に脚を踏み入れる。
待合室には診察を待つ患者がそこそこ居り、ソファーに座っている人や部屋の隅に隠れるように立っている人が見える。
ただひとつの共通点は、ここに来ている人は全員静かにしており、知り合いに見つからないように息を潜めているようだった。
「悪いが、アイツにミツのことを伝えて貰えないか?予約はしてきたんだが、少しでも早く診てやって欲しい」
他に待っている患者がいるのはわかっているが、受付をしていたスタッフに言付けを頼む。
アイツからも、到着したら受付の子に声を掛けるように言われていた。
スタッフの子は、ミツの顔を見て一瞬顔を歪めるも、すぐに平静を装いミツを心配する様に一言二言言葉を交わしていた。
「ミツ、こっち。俺に凭れてていいから」
スタッフとの会話が終わり、俺の元に戻って来たミツをソファーに座らせる。
ほんの短時間だったけど、疲れたのか俺に身体を預けてくるミツに不安な気持ちが押し寄せてくる。
本当に、今日連れて来てよかったのか……
もう少し休ませてからの方が良かったんじゃないのか?
仕事の関係でここのスタッフとは面識が多少あるとはいえ、今のミツには……
「みつるさん、奥の部屋にどうぞ。先生がお待ちです」
俺の不安を掻き消すように、先程のスタッフがミツに声を掛けて来た。
アイツも、他の患者よりもミツを優先してくれたのがわかり、少し嬉しく思ってしまう。
待合室から少し廊下を進んだ先にある診療室へ向かう途中の部屋で、看護師が他の患者の問診や器具の準備をしている姿が見えた。
受付のスタッフに言われた診療室の扉を開けようとした瞬間、自動で扉が開かれ、中からウザい大きな声が聞こえた。
「みっちゃん、大丈夫だった?めちゃくちゃ心配してたんだよ!」
このウザい声には俺もミツも聞き覚えがある。
ウェーブのかかった長髪を適当に結び、丸眼鏡を掛けた一見胡散臭そうな人物。
コレがこの診療所の医者であり、俺とミツの友人である『小林』という人間だ。
「みっちゃん立ってるのしんどいでしょ?ささっ、早く横になって楽にしてていいからね」
俺とミツの間に割って入り、ミツの手を引いてベッドへと案内しようとする。
「おい、何勝手にミツに触ってんだ」
つい怒気の含んだ声で小林を睨み付けながら言ってしまうも、彼はヘラヘラと笑っているだけだった。
「お~こわっ。みっちゃん、春輝が拗ねちゃうからごめんね~」
パッとミツの手を離し、トットッと2、3歩後ろに下がる。
ミツはベッドの方には行かず、俺が立っている椅子の横にちょこんと座ってくっ付いてくる。
「あ~ぁ、可愛い顔にも傷作っちゃったんだね。しんどかったね。今は落ち着いてる?無理しちゃダメだよ?」
小林は俺の存在を完全に無視して、ミツの傷口を確認している。
「これ春輝がやったの?60点。まぁ、応急処置ならいっか。みっちゃん、滲みるかもしれないけど、出来るだけ痕が残らないように後で消毒しようね」
俺が頑張って治療したあとを見て、微妙な笑みを浮かべて言いやがった。
まぁ、ミツの傷が残ってしまわないように治療してくれるならしかたない。
「……それで、今回はかなりしんどかったんじゃない?何回発情期来ちゃった?」
さっきまでのおちゃらけたテンションとは打って変わり、真剣な眼差しと口調でミツの顔を正面から見詰めながら問いかける。
「…………4回、くらい……かな」
ずっと食事もまともに取っていないようだったから、いつものようにゼリーとかおかゆとか、あまり胃に負担をかけない物を用意した。
「ごめんね、ハルくん。いつも……ありがとう」
申し訳なさそうに笑みを浮かべつつ、手渡したゼリーを半分食べてくれたことに安堵する。
「ミツは何も気にしなくていい。食べたいものがあれば、なんでも言って欲しい。メロンだろうとスイカだろうと、なんでも用意する」
「ふふっ、ハルくん。それ妊娠中の奥さんを心配する素敵な旦那さんみたいだね……って、僕とはそんなんじゃないのに、ごめんね」
本気で心配している俺に対して、クスクス笑いながら嬉しいことを言ってくれる。
そんなミツの姿を見ているだけで自然と笑みが零れる。
でも、次の瞬間、ミツはまた寂しそうな表情を浮かべて謝ってきた。
本当に、俺がミツの番だったら、いつでも欲しいものを用意してやれるのに……
痛々しい傷ができてしまった頬を、傷に触れないように気を付けながら指で撫でてやる。
こんな傷を自分で作ってしまうくらい、ミツは追い詰められていたんだな……
俺が離れていたせいで……。俺が気付けなかったせいで……
何もできない自分に苛立ちを感じる。
「ミツ、身体は大丈夫か?小林のところに行くまで車で寝ててもいいから……」
郊外にある小さな診療所までは、車でも30分はかかる。
今のミツの体力を考えると連れ出すことに躊躇してしまうものの、このまま医者に見せずにいるわけにもいかず……
「ハルくん、大丈夫。うん。大丈夫、だから……」
俺の不安を察してか、ミツの方が安心させるように笑みを浮かべ、自ら行くと言ってくれた。
ミツを車に乗せ、辺鄙な場所にポツンと建っている小さな診療所。
ここが俺とミツの友人が経営しているΩ専用の診療所だ。
電車もバスも通っていない、不便でしかない場所だが、ここを訪れる人は少なくない。
ミツの肩を抱き、倒れないように支えながら診療所に脚を踏み入れる。
待合室には診察を待つ患者がそこそこ居り、ソファーに座っている人や部屋の隅に隠れるように立っている人が見える。
ただひとつの共通点は、ここに来ている人は全員静かにしており、知り合いに見つからないように息を潜めているようだった。
「悪いが、アイツにミツのことを伝えて貰えないか?予約はしてきたんだが、少しでも早く診てやって欲しい」
他に待っている患者がいるのはわかっているが、受付をしていたスタッフに言付けを頼む。
アイツからも、到着したら受付の子に声を掛けるように言われていた。
スタッフの子は、ミツの顔を見て一瞬顔を歪めるも、すぐに平静を装いミツを心配する様に一言二言言葉を交わしていた。
「ミツ、こっち。俺に凭れてていいから」
スタッフとの会話が終わり、俺の元に戻って来たミツをソファーに座らせる。
ほんの短時間だったけど、疲れたのか俺に身体を預けてくるミツに不安な気持ちが押し寄せてくる。
本当に、今日連れて来てよかったのか……
もう少し休ませてからの方が良かったんじゃないのか?
仕事の関係でここのスタッフとは面識が多少あるとはいえ、今のミツには……
「みつるさん、奥の部屋にどうぞ。先生がお待ちです」
俺の不安を掻き消すように、先程のスタッフがミツに声を掛けて来た。
アイツも、他の患者よりもミツを優先してくれたのがわかり、少し嬉しく思ってしまう。
待合室から少し廊下を進んだ先にある診療室へ向かう途中の部屋で、看護師が他の患者の問診や器具の準備をしている姿が見えた。
受付のスタッフに言われた診療室の扉を開けようとした瞬間、自動で扉が開かれ、中からウザい大きな声が聞こえた。
「みっちゃん、大丈夫だった?めちゃくちゃ心配してたんだよ!」
このウザい声には俺もミツも聞き覚えがある。
ウェーブのかかった長髪を適当に結び、丸眼鏡を掛けた一見胡散臭そうな人物。
コレがこの診療所の医者であり、俺とミツの友人である『小林』という人間だ。
「みっちゃん立ってるのしんどいでしょ?ささっ、早く横になって楽にしてていいからね」
俺とミツの間に割って入り、ミツの手を引いてベッドへと案内しようとする。
「おい、何勝手にミツに触ってんだ」
つい怒気の含んだ声で小林を睨み付けながら言ってしまうも、彼はヘラヘラと笑っているだけだった。
「お~こわっ。みっちゃん、春輝が拗ねちゃうからごめんね~」
パッとミツの手を離し、トットッと2、3歩後ろに下がる。
ミツはベッドの方には行かず、俺が立っている椅子の横にちょこんと座ってくっ付いてくる。
「あ~ぁ、可愛い顔にも傷作っちゃったんだね。しんどかったね。今は落ち着いてる?無理しちゃダメだよ?」
小林は俺の存在を完全に無視して、ミツの傷口を確認している。
「これ春輝がやったの?60点。まぁ、応急処置ならいっか。みっちゃん、滲みるかもしれないけど、出来るだけ痕が残らないように後で消毒しようね」
俺が頑張って治療したあとを見て、微妙な笑みを浮かべて言いやがった。
まぁ、ミツの傷が残ってしまわないように治療してくれるならしかたない。
「……それで、今回はかなりしんどかったんじゃない?何回発情期来ちゃった?」
さっきまでのおちゃらけたテンションとは打って変わり、真剣な眼差しと口調でミツの顔を正面から見詰めながら問いかける。
「…………4回、くらい……かな」
あなたにおすすめの小説
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜
キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。