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第五章
75.ひとり旅
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昨日買い物から帰ってからは、何も食べずに眠り続けた。
どれだけ寝ても、身体が睡眠を欲している。
まだ空が暗いうちに目が覚めて、出発の準備を始めた。
空が白み始めた頃、俺は宿屋の部屋の鍵を返し、そのまま町を出る。
町の人はまだ眠っているのか、人通りもほとんどなく静かだった。
時々、行商人っぽい人が馬車の準備をしていたり、冒険者同士が集まっている姿を見た。
少なくても3人以上のグループがほとんどだった。
ひとりで旅をする人はあんまりいないように感じた。
この世界、盗賊だけじゃなくて、魔物もいるから警戒のためにひとりで旅をするのは珍しいんだと思う。
ひとりで行くのは、よっぽど腕に自信のある勇敢な冒険者だけ。
俺はできるだけフードを深く被り、顔を見えないようにして町を出た。
知り合いなんていないけど、念のため。
2人が俺を探してくれているなんてこと、絶対にないと思うけど、これ以上迷惑を掛けたくないから……
誰にも見つからないように、こっそりと静かに町を出た。
門番の人に教えて貰った方向に、ひとりでゆっくりと旅を進める。
陽が落ちる前に野宿する場所を決め、焚き火ができるように枝を集める。
大きめのキャラバンとか商人の馬車を見つけたら、お願いして近くで休ませて貰った。
ひとりで旅をしているって言ったら、目を見開いて驚いていたけど、俺のこと子どもと勘違いしているのかな?
それとも、こんな無謀なことをしているのに驚いているだけかも……
枯れ枝を集めて、地面に穴を掘って簡易のかまどを作る。
リークフリードさんに選んで貰ったナイフを使って、火をつける。
このナイフにして、本当に良かった。
マッチくらいの小さな火しか出せないけど、魔石の力で火を起こすことができる。
火魔法なんて、俺にはできないから……
これで、夜の寒さを少しはしのぐことができた。
ひとりで野宿をするようになって、夜の見張りの大切さを知った。
元の世界でも、場所によっては野犬とかの動物は出てきたんだろうけど、キャンプなんてしたことがない。
ずっと住んでいるのは都会だったし、急に帰れないってことになっても、ネットカフェとかビジネスホテルに泊まることができたから安全だった。
でも、ここでは夜行性の魔物もいるから、うかつに寝ることなんてできない。
いつ魔物に襲われるかわからないし、知らない人に荷物を取られたり殺されたりする心配があったから……
うっかり熟睡してしまったら、寝ている間に首をパクリと齧られて、そのまま永眠ってことも少なくないみたいだ。
少しでもちゃんと寝るためには、冒険者が護衛をしている人の近くで野営するのが安全だってわかった。
有名な冒険者が野営をしているのを見つけると、俺だけじゃなく、他の商人グループも側で休んでいた。
俺だけじゃなくて、みんな夜は不安なんだと思う。
少しでも安全に過ごす為には、強い人の側が安心だって思い知ったから……
町を出て何日経っただろう?
近くに川があったから、道を外れて川の側に降りて行った。
変な臭いはしない。
水も透明で綺麗だし、魚が泳いでいるのも見える。
川の流れも速くないから、安全だと思う。
「うん、大丈夫そうだな」
クロークを脱いでから膝を付き、冷たい川の水を手で掬い上げて飲む。
「はぁ~、冷たくて美味しい!久々かも、美味しいって思ったの……」
濡れて冷たくなった手で頬を撫でる。
ひんやりとした手が、火照った頬に気持ちいい。
自分の顔に触れて気付いた。
なんとなく痩せたような気がする。
徒歩での旅を始めて、ずっと気を張っているせいか、最近は寝ていても気が休まらないからだと思う。
浅い眠りばかりだから、目の下には濃いクマができてしまったし、食欲もない。
「今コスプレしろって言われたら、絶対無理だなぁ~。コンシーラーとかあれば隠せるんだけど……。いや、こんな顔でやるのは無理か」
誰に話すわけでもなく、独り言を呟き、乾いた笑いが出てくる。
最近独り言が増えたような気がする。
しゃべる相手がいないから当然だけど……
歩いてる時は、ただひたすら前に向かって進むことだけを考えていればいいから、何も気にしなくていいんだけど……
こうやって立ち止まってしまうとダメだな……
余計なことばっかりが頭をよぎってしまい、無性に寂しくなってくる。
深い溜息を吐き出し、鼻の奥がツーンと痛くなるのを首を横に振って誤魔化した。
ここの川、綺麗だしそこそこ深そうだからいけるかな?
辺りに誰も居ないことを確認する。
街道にはまだ人がいるかもしれない。
でも、ここからは誰も見えないし、大丈夫かな?
まぁ、男の裸を見て喜ぶヤツは稀だろうから大丈夫だろ!
マジックバックからタオルを取り出し、着ていた服を全部脱ぐ。
足をつけると、鳥肌が立つくらい冷たかったけど、それでも水浴びをした。
洗浄魔法を使えない俺にとっては、久々の水浴びは本当に気持ち良かった。
水浴びをして、身体が綺麗になると少しだけ元気が湧いてくる。
本当はシャワーかお風呂に入りたいけど、贅沢なんて言ってられないしね。
明日には、森を抜けるか迂回するかを決めないといけない。
運良く、冒険者のグループを見つけたらお願いしてみようかな……
依頼料ってどれくらいかかるんだろ?
できれば、金貨1枚くらいで許して貰えないかな……
俺なんかでいいなら、身体で支払うってのでもいいけど……
まぁ、そんな稀有な人、なかなか居ないよね。
クロークを羽織り直し、草原にコロンと横になる。
今日は天気がいい。
青い空にふわふわと浮かんでいる白い雲を、ぼーっと眺める。
今日はもう疲れちゃった。
まだ時間は早いだろうけど、今日はここで野宿をしよう。
早めに休んだ方が、体力も回復できるし……
遠くの空を飛ぶ赤いドラゴンの影を眺めながら、俺はそっと目を閉じた。
どれだけ寝ても、身体が睡眠を欲している。
まだ空が暗いうちに目が覚めて、出発の準備を始めた。
空が白み始めた頃、俺は宿屋の部屋の鍵を返し、そのまま町を出る。
町の人はまだ眠っているのか、人通りもほとんどなく静かだった。
時々、行商人っぽい人が馬車の準備をしていたり、冒険者同士が集まっている姿を見た。
少なくても3人以上のグループがほとんどだった。
ひとりで旅をする人はあんまりいないように感じた。
この世界、盗賊だけじゃなくて、魔物もいるから警戒のためにひとりで旅をするのは珍しいんだと思う。
ひとりで行くのは、よっぽど腕に自信のある勇敢な冒険者だけ。
俺はできるだけフードを深く被り、顔を見えないようにして町を出た。
知り合いなんていないけど、念のため。
2人が俺を探してくれているなんてこと、絶対にないと思うけど、これ以上迷惑を掛けたくないから……
誰にも見つからないように、こっそりと静かに町を出た。
門番の人に教えて貰った方向に、ひとりでゆっくりと旅を進める。
陽が落ちる前に野宿する場所を決め、焚き火ができるように枝を集める。
大きめのキャラバンとか商人の馬車を見つけたら、お願いして近くで休ませて貰った。
ひとりで旅をしているって言ったら、目を見開いて驚いていたけど、俺のこと子どもと勘違いしているのかな?
それとも、こんな無謀なことをしているのに驚いているだけかも……
枯れ枝を集めて、地面に穴を掘って簡易のかまどを作る。
リークフリードさんに選んで貰ったナイフを使って、火をつける。
このナイフにして、本当に良かった。
マッチくらいの小さな火しか出せないけど、魔石の力で火を起こすことができる。
火魔法なんて、俺にはできないから……
これで、夜の寒さを少しはしのぐことができた。
ひとりで野宿をするようになって、夜の見張りの大切さを知った。
元の世界でも、場所によっては野犬とかの動物は出てきたんだろうけど、キャンプなんてしたことがない。
ずっと住んでいるのは都会だったし、急に帰れないってことになっても、ネットカフェとかビジネスホテルに泊まることができたから安全だった。
でも、ここでは夜行性の魔物もいるから、うかつに寝ることなんてできない。
いつ魔物に襲われるかわからないし、知らない人に荷物を取られたり殺されたりする心配があったから……
うっかり熟睡してしまったら、寝ている間に首をパクリと齧られて、そのまま永眠ってことも少なくないみたいだ。
少しでもちゃんと寝るためには、冒険者が護衛をしている人の近くで野営するのが安全だってわかった。
有名な冒険者が野営をしているのを見つけると、俺だけじゃなく、他の商人グループも側で休んでいた。
俺だけじゃなくて、みんな夜は不安なんだと思う。
少しでも安全に過ごす為には、強い人の側が安心だって思い知ったから……
町を出て何日経っただろう?
近くに川があったから、道を外れて川の側に降りて行った。
変な臭いはしない。
水も透明で綺麗だし、魚が泳いでいるのも見える。
川の流れも速くないから、安全だと思う。
「うん、大丈夫そうだな」
クロークを脱いでから膝を付き、冷たい川の水を手で掬い上げて飲む。
「はぁ~、冷たくて美味しい!久々かも、美味しいって思ったの……」
濡れて冷たくなった手で頬を撫でる。
ひんやりとした手が、火照った頬に気持ちいい。
自分の顔に触れて気付いた。
なんとなく痩せたような気がする。
徒歩での旅を始めて、ずっと気を張っているせいか、最近は寝ていても気が休まらないからだと思う。
浅い眠りばかりだから、目の下には濃いクマができてしまったし、食欲もない。
「今コスプレしろって言われたら、絶対無理だなぁ~。コンシーラーとかあれば隠せるんだけど……。いや、こんな顔でやるのは無理か」
誰に話すわけでもなく、独り言を呟き、乾いた笑いが出てくる。
最近独り言が増えたような気がする。
しゃべる相手がいないから当然だけど……
歩いてる時は、ただひたすら前に向かって進むことだけを考えていればいいから、何も気にしなくていいんだけど……
こうやって立ち止まってしまうとダメだな……
余計なことばっかりが頭をよぎってしまい、無性に寂しくなってくる。
深い溜息を吐き出し、鼻の奥がツーンと痛くなるのを首を横に振って誤魔化した。
ここの川、綺麗だしそこそこ深そうだからいけるかな?
辺りに誰も居ないことを確認する。
街道にはまだ人がいるかもしれない。
でも、ここからは誰も見えないし、大丈夫かな?
まぁ、男の裸を見て喜ぶヤツは稀だろうから大丈夫だろ!
マジックバックからタオルを取り出し、着ていた服を全部脱ぐ。
足をつけると、鳥肌が立つくらい冷たかったけど、それでも水浴びをした。
洗浄魔法を使えない俺にとっては、久々の水浴びは本当に気持ち良かった。
水浴びをして、身体が綺麗になると少しだけ元気が湧いてくる。
本当はシャワーかお風呂に入りたいけど、贅沢なんて言ってられないしね。
明日には、森を抜けるか迂回するかを決めないといけない。
運良く、冒険者のグループを見つけたらお願いしてみようかな……
依頼料ってどれくらいかかるんだろ?
できれば、金貨1枚くらいで許して貰えないかな……
俺なんかでいいなら、身体で支払うってのでもいいけど……
まぁ、そんな稀有な人、なかなか居ないよね。
クロークを羽織り直し、草原にコロンと横になる。
今日は天気がいい。
青い空にふわふわと浮かんでいる白い雲を、ぼーっと眺める。
今日はもう疲れちゃった。
まだ時間は早いだろうけど、今日はここで野宿をしよう。
早めに休んだ方が、体力も回復できるし……
遠くの空を飛ぶ赤いドラゴンの影を眺めながら、俺はそっと目を閉じた。
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