βくんは番に憧れる

ゆあ

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βくんは番に憧れる

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なんだか、めちゃくちゃ腰が怠い
酒を飲み過ぎたのか、喉も頭も痛い

まだはっきりしない頭で時計を探す
いつもあるはずの場所になく、伸ばした手は空をきった

「...ん?あれ?ここ、どこだっけ...」
徐々に眠気が失せ、隣で眠るイケメンとしか言いようのない男性に気付き固まる
自分も彼も何も着ていないうえに、ゴミ箱には大量に使用後のゴムが入っており、昨晩ナニをしたのかが安易に想像できてしまう

「う、ウソだろ...酒飲み過ぎて...」
慌てて立ち上がるも脚に力が入らず床にヘタレ込んでしまい
「しかも、オレがネコ側...だよな...」
なんとか気力で立ち上がり、衣服を整えて帰る支度をする
まだ眠っている相手を起こす勇気はなく、メモ用紙にメモを残し、1万円を置いて逃げるようにホテルを出た



「なんかお前疲れてないか?」
先輩に心配されてしまい、慌てて元気な振りをする
「いや、大丈夫っすよ。ちょっと昨日気が抜けて飲み過ぎちゃって、終電逃したせいで寝不足なんすよ~」
嘘は言ってない、はず...
ポンポンと軽く頭を撫でられ
「まぁ、無理すんなよ。悩みがあるなら、オレでいいなら相談のるから」
爽やかな笑顔が眩しく、お礼を言って仕事に戻った



いや、言えるわけないじゃん!
昔からαとΩの番に憧れがあり、いつか自分にもって夢はあった。
でも、調べたら自分はβで至って普通のヤツだった。
そりゃ、モテないことはないけど、憧れがあるせいで唯一の相手ってのを求めてしまい...

αで番のいる先輩に、どうやって見つけるんですか?とか聞けないだろ...
まぁ、この前初めてその番のΩさんの話しを聞いて笑っちまったんだけど…

あれから、余計に羨ましくなった。
自分だけを愛してくれ、大切にしてくれる関係に…

そんな自分が虚しくなって、ついバーで飲み過ぎた挙句、行きずりの相手と一夜って...

こんなこと、絶対相談とか出来ない





取引先の会社にかなり早めに到着してしまい、ロビーの一角で時間を潰すことにした
まだ腰が怠いせいで、フワフワのソファーが気持ち良い
うとうとと眠ってしまいそうなのを堪えていても、つい目が閉じそうになる
慌てて目を開けるとそこには知らない女の子が向かいに座ってこちらをジッと見詰めていた


「…ん?お嬢さん、どうしたのかな?」
長く淡い色の髪をツインテールにし、お姫様のようなフワフワした女の子らしい服
オフィスビルには似つかわしくない、可愛い女の子がニッコリ微笑みながら見てくる

「アナタこそ誰?私は波美ナミです。今はパパのお仕事が終わるまで此処で待っているの
そしたら、お疲れ気味なお兄さんを見てつい声を掛けてしまったの」
多分小学1年生くらいの見た目なのに反し、受け答えも大人顔負けなくらいしっかりしている
「そうなんだ。波美ナミちゃん、1人でこんな所に居るのは危ないんじゃないか?最近色々物騒だし、お父さんが来るまで時間がかかるの?」

ここに居ても誰も咎めないということは、そのパパはこのビルの関係者かな?と勝手に予想していると、いつの間にか受付のお姉さんがジュースを用意してくれた。

「お兄さん、お名前は?」
「あ、オレは海斗です。今日これからここで商談があって...って、波美ちゃんに言ってわかるかな?」

ジュースを飲む仕草すらなんか綺麗で、良いところのお嬢さんなんだろうと予想がつく。
こういう子がαなんだろうな...って考えてしまい少し落ち込む

「そろそろ行くわね。海斗はまたここに来る?もし良かったら私のお友だちになってね」
ニッコリ笑う可愛らしい笑顔についつい頷いてしまい、手を振る彼女に同じく手を振り替えしていた




「エルビー文具の工藤様ですね。社長がお待ちですので、どうぞ」
秘書の人に通された部屋に入り、いつも通りの挨拶をするも相手の顔を見て固まってしまった

「えっ...あ、えっと、初めまして、エルビー文具の工藤と申します。この度はお時間を作ってくださりありがとうございます!」
挨拶で誤魔化すように頭を下げて顔を隠すも、心臓が早足で鳴り、今すぐこの部屋から出ていきたい衝動に駆られる

「初めて、ね...まぁ、どうぞお掛けください。
腰は、もう大丈夫なのかな?」

ガバっと顔を上げて確かめるように相手をもう一度見るも、やはり間違いなく今朝一緒にベッドにいたイメケンで、言われたことにみるみる顔は赤くなり周りに誰も居ないことを確認する

「あ、あの...その、昨晩は大変失礼いたしました!あのっ、昨晩のことはどうか、忘れて下さい!」
土下座する勢いで謝ろとしたが、足がもつれてこけそうになった
テーブルに打つかると覚悟したが、痛みはなく誰かに抱きしめられる感覚に頭が追いつかない
「今朝も勝手に居なくなっていたし、慌ただしい人だな。とりあえず、時間も限られるから商談に移ろうか。」

スマートな対応に言われるままに商談を行うも、彼を見ると断片的に思い出す昨晩の行為にしどろもどろになりながらの説明になってしまった

「では、今日はこれで。次回、4パターンのデザインをお持ちさせて頂きご検討頂きたいと思います」

やっと終わった...
早くこの場から出て行きたいと慌てて書類を片付けて出て行こうとしたが、手を引かれ
「ここからは俺個人の希望だが、また番の真似事がしたくなったら連絡しておいで。何度でもいっぱい可愛がってあげるよ」

言われたことにカッと顔が熱くなる
番の真似事って...自分の欲望を喋ってしまっていることに恥ずかしくなり
「あ、貴方のようなαは、ちゃんとしたΩの番か同じαのお相手が居ると思うんですが!」
否定も肯定もない笑みにイライラする
大切な商談相手だから、無碍にも出来ずそのまま逃げるように会社を出た






今日一日散々な目に遭い、明日は休みなのを良いコトに行きつけのバーに今日も顔を出す
昨晩散々酔い潰れているのを知っているせいか、マスターが心配そうに話しかけてきた
「海斗くん、昨日は大丈夫だった?あの人だったから安心はしていたけど、かなり酔っていたからね。
今日は流石にお酒もセーブさせて貰うよ」

つい苦笑いで誤魔化すも、今日のほうが酔い潰れて何もかも忘れてしまいたいのに...

1人でチビチビとお酒を呑んでいると、いつの間にか隣に彼が座っており

「また1人で飲んでいるのか?連絡をくれたらいいのに」
耳元で囁くように言われると身を委ねたくなる
「海斗」
名前を呼ばれただけで、お腹の奥が熱くなり、逃げたいのに動けない

そのまま今朝も出てきたホテルに連れて来られていた




「んアッ、そこっ...も、いいからっ」
執拗にナカを指で擦られ、トロトロに蕩けたアナルから液が垂れ落ちる
昨晩もたっぷりしたせいで、少し弄っただけで解されているのに、丁寧に何度も指でナカを弄られたせいでシーツにはシミが出来ている

「焦らされるのも好きだろ?
昨日も散々したから、柔らかいとはいえ、傷付けたくないからもう少し我慢しなさい」
ペニスも一緒に弄られ、呆気なく射精してしまう
「ン"んっ!ふっ...ぁっ」
ゆっくりナカきら指を抜かれると、ヌラヌラと濡れた指を見せ付けるように舐められる

はぁはぁと肩で呼吸を整える
さっきまで弄られていたナカがもっとと言うように疼いてしまう
「そろそろ、いいかな。」

熱く猛ったペニスがアナルに当てられる
昨日散々泣かされたモノを身体が覚えているのか、喜んでいるように簡単に飲み込んでしまい、挿れられただけで軽く甘イキしてしまう
「ンンッ、まっ...イッて、ンンッ」
耐えるように彼に抱き付いていたが、腰を叩きつけるように何度もナカを突かれ、その度に嬌声を上げ
「ひゃあっ、きも、ちぃ..きもちいい」
イッた瞬間、頸を強く噛みつかれ血が滲む
「いっ!!?」
痛いはずなのに、嘗められるとまた身体の芯から熱くなり、自分からも求めるように腰を振ってしまった

何度も何度も、イかされ、ドロドロにとかされた


「もっと早くに出逢いたかったな。もう、手放せそうにないな…」
意識を手放す手前に囁かれた言葉
都合の良い夢を見ているのか、憧れに近い台詞に笑いが出る

まるで愛し合ってる番みたいだな...オレには、叶わない夢なのに…






「海斗はカラスみたいね。キラキラしたモノが好きで、自分にないモノを欲しくなる」
小さな女の子なのに、図星を刺されて返す言葉がない

会う度に好きになり、身体を重ねる度に悲しくなる
番の真似事で頸を噛んでくれることはあるが、所詮はβである自分には傷を作るだけで、意味のない行為でしかない

「番なんて、最悪でしかないわよ。
番が出来たら、結婚していようが、子どもが居ようが、そんなの関係なく出て行ってしまうもの」
抑揚なく、感情を殺したように話す彼女に、聞いてはいけない事を聞いてしまったと後悔し
優しく頭を撫でる
「ごめんね。嫌なこと思い出させるようなこと言ってしまって...」

「気にしてないわ。私にはパパがいるから。
それに、海斗も私の大切なお友だち、でしょ?」
撫でていた手を取られ、頬擦りされる
「海斗の好きな人が、αでもΩでも、諦めちゃダメよ。大切な宝物はちゃんと捕まえておかなきゃ」


いつの間にか、商談の前に必ず会うようになった彼女
大人びいているように思っていたが、家庭環境が複雑そうなのも聞いていてわかった
「ありがとう。波美ちゃんも、オレでいいなら話しも聞くし、力になるから。
まぁ、あまり頼りにならないかもしれないけど...」
クスクス笑われてはいるが、小さくありがとうという言葉が聞こえた




「海斗、悪いが今夜は外せない用事があるから...また、後日ゆっくりと」
部屋を出る直前に耳元で囁かれ、頬に軽くキスをされる

商談が終わると、その日の夜はいつものバーで待ち合わせ、そのあと...というのが恒例になってしまっていた

別に、約束していたわけではない
約束、していた訳ではないが、寂しさが募ってしまう

「別に...、オレも用事がある日くらいあるんで...
それより、お渡ししている資料にはちゃんと目を通してください。
出来るだけ早くデザインも決めて、次の工程に入りたいんで!」
強がって何ともないような顔をして、仕事について捲し立て、深呼吸をして気持ちを切り替えてその場を離れた




仕事終わりに予定もなくなり、飲みに誘われるもその気になれず
何となく、彼の会社の近くを通った

通らなければよかった
見なければよかった
時間が違えばよかった

彼と手を繋ぎ、楽しそうに歩いている子ども
その隣には綺麗な女性がおり、本当に幸せそうな、理想の家族の姿があった

心臓がギュッとなる
周りから音が消えたように感じ、時間までがゆっくり過ぎているようだ
ただ、3人の楽しそうな姿だけが鮮明に見えてしまい、心が痛い

「……はぁ、帰ろ。そりゃ、外せない大切な用事だよな…」

深呼吸し、自分に言い聞かせるように呟く
帰り道、どうやって帰って来たのかわからない
ただ、さっきみた光景が頭から離れず、胸にポッカリと穴が空いたような焦燥感にかられる
家に置いてあった酒をあるだけ飲み干しても、埋まることのない寂しさに溜息が漏れる



『あなたとの関係をリセットさせてください』


力なく、メールにそれだけを打って送る

返信のない連絡に自嘲的に笑いが漏れ
「そりゃ、そうだよな...家族が居るんだから、オレなんてただの遊びだろうし…」

ベッドにスマホを投げ捨て、酔い潰れるまで1人で飲み続けた






「海斗、聞いているのかしら?」
上の空のオレに向かって心配気に顔を覗いてくる彼女に、苦笑いを向けてしまう
「ごめん、波美ちゃん...ちょっと悲しいことがあってさ...
ここの担当も今日で変わって貰うことになったから、もうこうやって会うのも難しくなりそうなんだ…」

自分から担当を代わって欲しいと頼み込んだのに、ここに来る事がなくなるのが寂しく、後悔してしまっている

「どうして?海斗はしっかりしているから、安心して任せられるってパパは言っていたのに?
海斗、パパとケンカでもしてしまったの?」

先程から聞くパパと言う言葉に疑問が湧く
確かに、パパが働いているからここで彼女と仲良くなったのだが、なんでそのパパがオレの仕事のことを知ってるんだ?


「工藤様、お待たせいたしました。社長がお待ちですので、いつものお部屋にどうぞ」
秘書さんが来られ、いつも通り部屋に向かおうと彼女と別れようとしたが、腕に抱きつかれ
「さぁ、行きましょうか。お話しはゆっくり聞かせてもらうわね」
ニッコリと有無を言わさぬ笑顔で言われる
誰かに似ているその表情に、つい頷いてしまい、諦めてそのままいつもの応接間に向かった




「海斗、先日のメールの件はどう言うことか説明してくれるかな」
部屋に入って瞬間、明らかに怒っているのがわかる声で問われ顔を背けてしまう

「そ、そのままの意味です。
本来、御社との契約の為にここに来て居たので、プライベートまで介入し過ぎていたのを改めたいと思って...
か、葛城社長にも大切なご家族と奥様がいるのに、オレなんか入れるはずもないのに…
た、担当も変わることになったので、後日ご挨拶にうかがい、ます」

α特有の威圧感に胃の辺りが痛くなる
近付いてくる彼から逃げ出したいのに、身体が強張って動けない

「妻?何を言っているんだ?俺と番になりたいとあれ程言っていたのはお前だろ?」



「パパ、そんなに海斗を追い詰めないでよ。可哀想でしょ?」
涼やかな声に、張り詰めていた部屋の空気が和らいだ

一緒に来ていたのに、すっかり忘れていた
ソファーで、ゆったり寛ぐ彼女に緊張の糸が緩む

「2人とも、少し落ち着いてよ
パパったら私がいるのも気付かないほど、海斗に夢中なのね」

『パパ』そう、ずっと彼女は彼のことをパパと言っていた

「波美…、すまない。気付いていなかった」
バツの悪そうな顔をする彼に、目を見開いて驚く

「あの、波美ちゃんのパパって…大和さんだったの?
え?じゃあ、この前大和さんが一緒にいた子どもって
…」
「この前、海斗に会った日の夜は私の誕生日だったから、私のお世話係のミキさんと3人で食事に行ったの
あ、ミキさんにはステキな旦那さんがいるからパパとは全く関係なんてないから安心してね。
でも、あの時のパパ、ずっとソワソワしてたから海斗にどうしても会いたかったのかしら?」
その時を思い出してか、クスクス笑う彼女を見て、自分の勘違いだということがわかる
自暴自棄になってしまった自分の失態にみるみる顔が赤くなってしまう

「オレの、勘違い…って、こと…?」
「あら?でも、パパも私が居るのを伝えてなかったのも悪いのよ?
ママは、番が出来たからってさっさと出て行ったけど…
パパは私のことを大切にしてくれているのに、新しい恋人にはまだ紹介してくれないんですもの」

彼女がオレの前に立ち、小さな手を伸ばしてくる

「新しいママなんていらないわ。パパがもう一人増えるのは別にいいわよ?海斗が新しいパパになってくれるのはもっと嬉しいわ
海斗、パパのことが好きなのでしょ?大切な宝物はちゃんと捕まえておかなきゃダメよ」

彼女の手を握り、静かに頷く
「うん、オレは大和さんが好きで...大好きで、番になりたい...
波美ちゃんのことも、大好きで、家族になれたらって...そんな、夢みたいなこと思ってて...」
絶対に手に入らないと思っていた夢
口に出すと涙が溢れ出してしまい

意を決して彼に向き合い
「大和さん、好きです...βだから、子どもを産むことも出来ないし、番になれないけど...貴方を愛しているんです」
涙でぐちゃぐちゃになっているが、今の気持ちを必死に伝える
黙って聞いてくれる彼に、胸が痛い
不意に力強く抱きしめられ

「俺も愛している。疑似的なこととわかっていながら番になりたくて、海斗の頸を何度も噛んだんだ
俺と、波美の家族になって欲しい」
深く口付けをされ、さらに涙が溢れた
ずっと憧れていた愛しい人

何度も深く口付けをしているとあからさまな溜息が聞こえ、彼女が居るのを思い出して慌てて離れようとしたが、ガッチリと抱きしめられており抜け出せず

「2人共、子どもの前では自重してね」

濃厚なキスシーンを見られて余りの恥ずかしさから死にたくなるも、彼も恥ずかしそうな顔をしているのがわかり、つい笑ってしまう

「うん、ごめん。次からは気をつける
でも、今は許して、ね」
再度自分から彼にキスをする


やっと手に入れた大切な宝物を逃がさないように
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