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巣作り出来ないΩくん
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寝室の端っこに小さく蹲り、火照る身体を抱きしめる。
予定よりも1日早く始まった発情期のせいで、身体が熱くて仕方がない。
「お願い、出ないで……早く、早く……薬、効いて……」
足元には空になってしまったPTPシートが転がっている。
いつもよりも多くの抑制剤を摂取した。
今日だけで、何錠飲んだのかわからない。
でも、普段から飲み続けているせいで、一向に効果が現れてくれない。
「お願い、出ないで……こんなニオイ、また……嫌われちゃう……」
熱く浅い呼吸を繰り返し、部屋中に充満しているはずのフェロモンの香りに怯えてしまう。
必死に頸を手で押さえて、臭いが出ないようにする。
無駄だとわかっている。
でも、抑えきれないニオイのせいでまた嫌われるのではないかと不安になってしまう。
「お願い……出ないで、嫌わないで……」
短く切り揃えられた爪で、無意識に頸を引っ掻いてしまい、慌てて自らの手を押さえて我慢する。
「ダメっ……また、士郎さんに心配かけちゃう……」
ヒリつく頸に罪悪感だけが募っていく。
早く彼に抱き着きたい。
触れて欲しい。
満たして欲しい。
…………番に、して欲しい……
叶わない欲望を振り払う様に頭を左右に振る。
思い切り頭を振ったせいで、少しクラクラしてしまい、不意にベッドが目に入ってしまう。
いつも、士郎さんと一緒に寝ているベッド。
彼の匂いがするシーツに無意識に手が伸びてしまい、慌てて引っ込める。
「ダメっ!ダメ……僕のニオイが付いちゃう……」
ダメだと自分に言い聞かせていても、ついΩの本能が彼を求めてしまう。
彼のニオイに包まれたい。
大好きな人のニオイを感じたい。
そう思うのに、士郎さんに素直に言うことなんてできない。
士郎さんは優しいから、発情期になってしまったと言えば、すぐに帰って来てくれると思う。
でも、予定日も守れない、発情期を抑えることもできない、欠陥品の僕なんかが邪魔をしてはいけない。
忙しい彼の手を煩わせてはいけない……
それに、拒絶されたら……
絶対にないけど、士郎さんは優しいから、絶対にないけど……
あの人みたいに、迷惑だって言われたら……
そう考えるだけで、怖くて連絡なんてできなかった。
少しでも落ち着こうと、ふらつく身体のままキッチンに水を飲みに行く。
時計を見やると、まだ14時を過ぎたところだった。
士郎さんが帰って来てくれるまで、まだまだ時間はかかってしまう。
「士郎さんに、早く抱き締めてもらいたいな……」
ボーっと時計の針を眺めているものの、時間は全然進んでくれない。
カッチコッチと鳴る時計の音が異様に大きく聞こえて、頭が痛くなってくる。
「大丈夫。もうすぐ、もうすぐ効くはずだから……」
フラフラとした足取りで、寝室に戻ろうとするも、無意識に別の部屋へと足が向いてしまう。
寝室の横に作られた小さな部屋。
士郎さんの服が沢山収納されている衣裳部屋。
小さめの部屋だけど、クローゼットにはたくさんの服や上着が掛かっており、棚には帽子や鞄が綺麗に並べられている。
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、大好きな彼の匂いがほんのりと感じ取れてしまう。
「士郎さんの、匂いがする」
ヒクヒクと鼻をヒクつかせ、無意識に彼の匂いを求めるように、クローゼットの扉を開く。
色とりどりの綺麗な服と共に、彼の優しいニオイで肺が満たされる。
彼の服で巣を作りたい。
彼の匂いに包まれたい。
彼に、褒めてもらいたい。
Ωの本能であり、愛情表現である巣作り。
巣を作りたいという衝動に駆られ、クローゼットに掛かっているワイシャツについ手を伸ばしてしまう。
よく士郎さんが来ている薄い水色の長袖のワイシャツ。
士郎さんの匂いのするワイシャツの袖に触れた瞬間、過去のトラウマを思い出してしまい、慌てて手を引っ込める。
「ダメ!あんなの、作っちゃダメ。もう、二度と作らない。嫌われたくない……怒られたくない……」
火照って仕方ない身体を抱き締め、必死に本能に抗う。
それでも、彼の匂いがどうしても欲しくて堪らない。
「ごめ、なさい、汚さないから……匂い、だけ。士郎さんの、匂い、だけ……」
極力皺が付かず、汚れなさそうな服を一着だけ選び、ベッドに持って行くことにした。
シーツを頭から被り、持ってきた服を抱き締めて顔を埋める。
胸いっぱいに吸い込むと、士郎さんのほんのり甘くて優しい香りがふわりとしてくる。
彼の匂いに身体の奥が熱くなってくるのを感じ、膝を擦り合せる。
「今日、我慢したら一緒に居てくれるはず。まだ、帰って来ないで……。でも、早く、早く抱きしめて……」
熱で朦朧とする意識の中、士郎さんの笑顔だけが浮かんでくる。
「ちゃんと、ちゃんと戻さなきゃ……見つかる前に、ちゃんと戻さなきゃ……」
うわ言言のように同じ言葉を繰り返す。
何度も噛み付いたせいで、痕が残ってしまった腕に爪を立てて発散されない性欲を耐えた。
どれくらいそうしていたのかもわからない。
いつの間にか日が落ち、部屋の中は電気も付けていないせいで薄暗い。
士郎さんがまだ帰って来ていないことに安堵すると同時に寂しさが込み上げてくる。
「これ、戻さなきゃ……」
小さく溜息を付いて、彼が帰ってくる前に、借りた服をクローゼットに戻しに行く。
衣裳部屋は相変わらず、士郎さんのニオイで溢れていて、ここに居るだけでも少しだけ満たされる。
「この服で巣を作ったら……綺麗なんだろうなぁ……」
不意に願望を口にしてしまい、自嘲的な笑いが出てしまう。
「僕なんかが巣を作っても、誰も褒めてなんてくれないのに……。また怒られるし、壊す時のあの痛いのは、もうヤダな……」
今目の前にある綺麗な服から目を反らせるように瞳を閉じ、全てを諦めるようにクローゼットを閉じた。
寝室に戻り、また部屋の端に座って居ようと思うも、さっきまで士郎さんの匂いに包まれていたせいか、寂しくて仕方がない。
もうすぐ、彼が帰って来てくれる。
きっと、優しく抱きしめてくれる。
――寂しい――
寂しさを紛らわすためにベッドに潜り込んだ。
シーツを頭から被って、士郎さんの枕を抱きしめる。
士郎さん、ごめんなさい……
こんな欠陥品で、ごめんなさい。
予定よりも1日早く始まった発情期のせいで、身体が熱くて仕方がない。
「お願い、出ないで……早く、早く……薬、効いて……」
足元には空になってしまったPTPシートが転がっている。
いつもよりも多くの抑制剤を摂取した。
今日だけで、何錠飲んだのかわからない。
でも、普段から飲み続けているせいで、一向に効果が現れてくれない。
「お願い、出ないで……こんなニオイ、また……嫌われちゃう……」
熱く浅い呼吸を繰り返し、部屋中に充満しているはずのフェロモンの香りに怯えてしまう。
必死に頸を手で押さえて、臭いが出ないようにする。
無駄だとわかっている。
でも、抑えきれないニオイのせいでまた嫌われるのではないかと不安になってしまう。
「お願い……出ないで、嫌わないで……」
短く切り揃えられた爪で、無意識に頸を引っ掻いてしまい、慌てて自らの手を押さえて我慢する。
「ダメっ……また、士郎さんに心配かけちゃう……」
ヒリつく頸に罪悪感だけが募っていく。
早く彼に抱き着きたい。
触れて欲しい。
満たして欲しい。
…………番に、して欲しい……
叶わない欲望を振り払う様に頭を左右に振る。
思い切り頭を振ったせいで、少しクラクラしてしまい、不意にベッドが目に入ってしまう。
いつも、士郎さんと一緒に寝ているベッド。
彼の匂いがするシーツに無意識に手が伸びてしまい、慌てて引っ込める。
「ダメっ!ダメ……僕のニオイが付いちゃう……」
ダメだと自分に言い聞かせていても、ついΩの本能が彼を求めてしまう。
彼のニオイに包まれたい。
大好きな人のニオイを感じたい。
そう思うのに、士郎さんに素直に言うことなんてできない。
士郎さんは優しいから、発情期になってしまったと言えば、すぐに帰って来てくれると思う。
でも、予定日も守れない、発情期を抑えることもできない、欠陥品の僕なんかが邪魔をしてはいけない。
忙しい彼の手を煩わせてはいけない……
それに、拒絶されたら……
絶対にないけど、士郎さんは優しいから、絶対にないけど……
あの人みたいに、迷惑だって言われたら……
そう考えるだけで、怖くて連絡なんてできなかった。
少しでも落ち着こうと、ふらつく身体のままキッチンに水を飲みに行く。
時計を見やると、まだ14時を過ぎたところだった。
士郎さんが帰って来てくれるまで、まだまだ時間はかかってしまう。
「士郎さんに、早く抱き締めてもらいたいな……」
ボーっと時計の針を眺めているものの、時間は全然進んでくれない。
カッチコッチと鳴る時計の音が異様に大きく聞こえて、頭が痛くなってくる。
「大丈夫。もうすぐ、もうすぐ効くはずだから……」
フラフラとした足取りで、寝室に戻ろうとするも、無意識に別の部屋へと足が向いてしまう。
寝室の横に作られた小さな部屋。
士郎さんの服が沢山収納されている衣裳部屋。
小さめの部屋だけど、クローゼットにはたくさんの服や上着が掛かっており、棚には帽子や鞄が綺麗に並べられている。
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、大好きな彼の匂いがほんのりと感じ取れてしまう。
「士郎さんの、匂いがする」
ヒクヒクと鼻をヒクつかせ、無意識に彼の匂いを求めるように、クローゼットの扉を開く。
色とりどりの綺麗な服と共に、彼の優しいニオイで肺が満たされる。
彼の服で巣を作りたい。
彼の匂いに包まれたい。
彼に、褒めてもらいたい。
Ωの本能であり、愛情表現である巣作り。
巣を作りたいという衝動に駆られ、クローゼットに掛かっているワイシャツについ手を伸ばしてしまう。
よく士郎さんが来ている薄い水色の長袖のワイシャツ。
士郎さんの匂いのするワイシャツの袖に触れた瞬間、過去のトラウマを思い出してしまい、慌てて手を引っ込める。
「ダメ!あんなの、作っちゃダメ。もう、二度と作らない。嫌われたくない……怒られたくない……」
火照って仕方ない身体を抱き締め、必死に本能に抗う。
それでも、彼の匂いがどうしても欲しくて堪らない。
「ごめ、なさい、汚さないから……匂い、だけ。士郎さんの、匂い、だけ……」
極力皺が付かず、汚れなさそうな服を一着だけ選び、ベッドに持って行くことにした。
シーツを頭から被り、持ってきた服を抱き締めて顔を埋める。
胸いっぱいに吸い込むと、士郎さんのほんのり甘くて優しい香りがふわりとしてくる。
彼の匂いに身体の奥が熱くなってくるのを感じ、膝を擦り合せる。
「今日、我慢したら一緒に居てくれるはず。まだ、帰って来ないで……。でも、早く、早く抱きしめて……」
熱で朦朧とする意識の中、士郎さんの笑顔だけが浮かんでくる。
「ちゃんと、ちゃんと戻さなきゃ……見つかる前に、ちゃんと戻さなきゃ……」
うわ言言のように同じ言葉を繰り返す。
何度も噛み付いたせいで、痕が残ってしまった腕に爪を立てて発散されない性欲を耐えた。
どれくらいそうしていたのかもわからない。
いつの間にか日が落ち、部屋の中は電気も付けていないせいで薄暗い。
士郎さんがまだ帰って来ていないことに安堵すると同時に寂しさが込み上げてくる。
「これ、戻さなきゃ……」
小さく溜息を付いて、彼が帰ってくる前に、借りた服をクローゼットに戻しに行く。
衣裳部屋は相変わらず、士郎さんのニオイで溢れていて、ここに居るだけでも少しだけ満たされる。
「この服で巣を作ったら……綺麗なんだろうなぁ……」
不意に願望を口にしてしまい、自嘲的な笑いが出てしまう。
「僕なんかが巣を作っても、誰も褒めてなんてくれないのに……。また怒られるし、壊す時のあの痛いのは、もうヤダな……」
今目の前にある綺麗な服から目を反らせるように瞳を閉じ、全てを諦めるようにクローゼットを閉じた。
寝室に戻り、また部屋の端に座って居ようと思うも、さっきまで士郎さんの匂いに包まれていたせいか、寂しくて仕方がない。
もうすぐ、彼が帰って来てくれる。
きっと、優しく抱きしめてくれる。
――寂しい――
寂しさを紛らわすためにベッドに潜り込んだ。
シーツを頭から被って、士郎さんの枕を抱きしめる。
士郎さん、ごめんなさい……
こんな欠陥品で、ごめんなさい。
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