ドラゴン・キル・ソード

空野 一春(あくや ひとはる)

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2話「試練の山」(3)

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目が合った途端、その男は完全に見下しているような笑みをこぼしたまま、俺の方に近づいてくる。
そして躊躇もなく俺が首に巻いていたマフラーに大きな右手を延ばして掴み、引っ張ってきた。

「おいおい、随分と身なりの酷い奴がいるもんだな。なんだ、この薄汚れたボロッちぃマフラーは? まさかゴミ捨て場で拾ってきたんじゃねぇだろうな? ギャハハハ!」

俺は母さんが作ってくれたマフラーを踏みにじられるように馬鹿にされて、一瞬母の笑顔が脳裏を横切ると同時に、頭に血が上った。

「やめろ! 触るな!」

俺は強気に口を開き、母さんの形見であるマフラーを偉そうに掴んできた男の手を強く叩いて振り払う。
すると貴族の男の眼は一瞬で鋭さが増した。

「あ? お前、貧乏人の癖に随分と生意気な態度を取るじゃねぇか。ぶん殴られてぇのか!?」

男は俺に叩かれた右手で拳を作り、そのまま俺の顔面に素早く殴りかかってきた。
その時。

「おい、やめろ! 試練の開始前にこの場で乱暴行為を働いた者は即失格にするぞ!」

試練の受付人にそう強く怒鳴られ、俺のすぐ目先で巨大な拳がピタリと静止した。

「チッ! おいお前、随分と運が良いな。だがもしもまたこの俺に盾突いたらお前を絶対にボコボコに叩きのめしてやるからな。ちゃんと覚えておけ。お前は一生貧乏人のまま、役立たずの家族と惨めな生活でも送っていろよ。ギャハハ!」

無慈悲に、そう俺に吐き捨てて恰幅の良い男は俺の横を通り過ぎて行った。
俺はまた自分の家族を馬鹿にされ怒りを募らせる。

(くっ・・・どうしてそんな酷い事ばかり口に出来るのか?)

しかし奥歯を噛み締め、右手拳を強く握り、その怒りをなんとか抑え込む。

(あの男には善意の心が無いのか?それともただ赤の他人に対して無神経なだけなのか?)

また頭の怒りが沸騰しかけたが、でも俺は歯を食いしばり怒りを無理矢理鎮める。

(あんな男のせいで失格になったらとても馬鹿らしく感じるし。何かを言い返したら、また面倒事になるだけだ。ああいう最低な人間とは極力関わらないようにした方が身のため。だけど、どうしても家族を除け者扱いにされた事だけが強く気に障る)

すると、広場の入り口に立っていた受付人である鎧の男が、俺達のいる広場内にズカズカと歩いてきた。

そして手に持っていた銀色の剣を地面に突き刺し、デカイ声で話し始めた。

「よく来たな、竜狩りの意志を持つ者達よ。今回、この試練への参加人数は五十名丁度だ。では、これからこの試練に参加するお前達に目標を伝える」

みんなは疎らになったまま、鎧姿の男の話を険しい顔つきで見つめている。

「試練の内容は極めて単純。お前達には今からこの山の頂上まで自力で登ってもらう。あの大きな赤い旗の刺さった頂上に辿り着き、そこにある竜殺の剣を手にしろ。剣は三本。つまり、この五十人の中で剣士の修行を受けられる者はたった三名のみ。この試練を乗り越えられなければ竜狩りになる資格はない。日々鍛錬を積み重ねてきたお前達の身体能力と度胸を今から拝見させてもらう。なお、剣士への志望者であるお前達は既に熟知しているだろうが、竜狩りの試練では命の保証は出来かねない。知能の低い奴はちゃんと頭に叩き込んでおけ」

周囲にいる男達は真剣な眼差しを向けながら、静かに聞いている。
みんなまるでさっきとは別人のようだ。
俺も一人、(なんとしてでも必ず剣を手にしてやる)という強気な思いで眉間にシワを寄せる。

「私からは以上だ。他に質問はあるか?」
「はいはぁい! 私から質もぉん!」

すると、堅苦しい男達の中から透き通るような高い声と、細く肌白い一本の腕が上がった。

「なんだ、小娘?」
「この試練をクリアしたら何かもらえるの?」

ちょっと独特で癖のある喋り方。活気良く、元気のある少女の声だ。よく見ると、一人だけ綺麗な銀色の長い髪をした女の子が両腕を組みながら堂々と、ガタイの良い男達の中に混じっていた。

「報酬など何もない。竜殺の剣のみだ」
「え、お金も何もないの!? 報酬が出ないと私のやる気が出ないじゃない! もしも剣士になれなかったらちゃんと責任取ってよね!おじさん!」

少女は強気に鎧の男に指をさしてそう言った。

「くだらん事を言ってないで試練に集中しろ!」
「はーい! わかりましたよ~」
「ギャハハハ!」

周りの男達はその少女と鎧男の会話を聞いてバカ笑いしていた。
細い目つき。綺麗な容姿。
体は細く、肌も真っ白に透き通っている。背丈も俺と同じくらい。
全身が筋肉質で女の子にしては強そうな体付きをしている。
ガタイの良い男達に混ざっている彼女の存在を、俺は一人疑問に思い首を傾げる。

(彼女もこの試練の参加者なのか?)

すると、その女と俺は偶然視線がかち合った。
その途端、彼女は何故か微笑みながら、俺に向かってウインクをして、片手を軽く振ってきた。

(え? え? え?)

俺が彼女の行動に一人動揺していると試練の管理者が、手に持っている剣の先をデス・マウンテンの頂上に勢いよく掲げ、大声を上げた。

「それでは今から試練を開始する!」

(見ず知らずの女の子なんかに気を囚われている場合じゃない!)

そう思った俺は彼女の事を無視して、顔を強張らせ、山の上に続く急斜面を睨みつける。
みんなの目の前には、幅の広い急斜面がある。
やはりこの道を登っていくようだ。
デス・マウンテンの頂上へと続く真っ赤な土に覆われたこの斜面はかなり長い道のりだ。
それに角度もかなり傾いている。
無事に登り切れれば良いがかなりの急斜面だ。途中で足を滑らせたら大怪我は免れない。
かなりの不安で息が自然と乱れてきた。

(遂に竜狩りになる為の試練が始まる。大した努力は全くしていないけど今はやるだけやってみるしかない)

俺は冷や汗を垂らし、鼓動を揺らしながら一人胸を押さえて身構える。
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