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始まり

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・この物語の人物、団体、病気名などは、フィクションです


8月16日

 僕、深山 涼太はある検査のため病院に来ていた。
 肩に軽く叩かれた感じに気付き、後ろを振り返ると、そこには見馴れた顔がいた。

 「ふか、、、山君?」 
 「どうして無駄に元気そうな君がここに?」
 「どうしてって病院なんだからどこか悪いと思うのがふつうじゃない?普段全然話してくれないふ・か・や・ま・君。」

 彼女はなぜかクスクス笑いながら僕に返答をかえした。

 「で、なに?」
 「なにって、、、居たから声かけて見ただけだよ?」
 「あぁ、そう。」
 
 特に内容がないと、知った僕は読みかけの本を開く。
 すると彼女が

 「あぁ~!!ひっどーい!」

 わざとトゲのある言い方で言ってきた。

 「?」
 「もうちょっとこう、なんかないのー?」
 「なんかって何?」
 「んー、例えばどこが悪いの?とかさ!」
 「興味がない」
 「うえー!クラス1人気の私が特にさえてない君に話しかけてあげたのにー?!」
 「じゃあ聞いてあげるけど、どこが、、、」
 「あぁー!!!」 

 聞けと言ってきたくせに遮った彼女に不快感を覚え本を読もうとしたら、病院の待ちスペースにある医療雑誌を持ってきた。

 「この子、知ってる?」 
 彼女はそう言いながら、雑誌にプリントされていた写真を突き出すように僕に見せた。
 そこには、幼児の写真が貼ってあった。

 「知ってるよ、先天性過失不生性の子の幼児の時の写真でしょ?」 
 「君もしってるのかー」
 「で、その子がどうしたの?」
 「私、この子が好きなんだ、」
 「幼児の写真に一目惚れでもしたの?」
 「違う、そうじゃないよー」 
 「じゃあ何?」
 「この子、今年で死ぬんだって」
 「知ってるよ。」

 一回僕に驚いた後、話を続けた。

 「でも、この写真見てみ、ほら、笑ってる」
 幼児の写真なんだから笑ってるのは不思議じゃないと思ったが、彼女は思いもよらぬ事を口にした。

 「私、あと少しで、死ぬかもしれないの。だから絶対すぐ死んじゃう病気なのに笑顔のこの子に元気をもらえるの。」
 「?!」
 驚いている僕に構わず話を進める。
 始めはからかいの類いなのだろうと思ったが、涙ぐんで話し始めたから僕は半信半疑で聞いていた。
 「肺がね今半分使えないんだけど、もう少しで全部使えなくなるんだって」
 「ドナー待ちってこと?」
 「まぁだいたいあってる、けど、正確に言えばね、私の肺、特殊でドナーを見つけるのにも苦労する癖に、特殊だから手術も難しいんだって。成功率、何ぱーだと思う?」
 「う~ん、20%?」
 「優しいね、深山君は。」
 「相当難しくしてみたんだけ、、、」
 「5%」

 僕の返答を押し退けるように少し大きめの声で言った。
 けどさすがの僕も言葉を失わざるを得なかった。

 「しかもそれ以下だって。だから私、もう少しで死んじゃうかも」
 
 彼女の顔は笑っていたが、心はそう見えなかった。
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