常から外れた者たちへ

春の豆腐屋

文字の大きさ
上 下
3 / 4

爆炎という憤怒の赤

しおりを挟む
────────壊せ

 うるさい、お前は誰だ

────────壊せ

 うるさい、黙れ喋るな

────────壊せ

 やめろ、やめてくれ

────────壊せ

 いやだいやだいやだいやだ



        赤い
     色が
    腕に   伝う

  濡れた
      塊が
   手の先から
       溢れ   て












「───ッ!?」

 布団を跳ね除ける。
 酷い悪夢を見た。それを振り払うように跳び起きる。

 寝汗と荒れた呼吸を落ち着かせるように、ふぅと深くゆっくりとした一息を行う。
 気怠い体を引きずり水を飲む。天然水とミネラルウォーターは何が違うのか、ムダ金のない庶民は水道水で十分だと、益体も無いことを考える。

「んぐっ…んっ…ん、、、っはぁ~」

 それでもやはり、冷蔵庫で冷やされた水は美味い。Ⅵ甲の水はどこでも買えるがこれが良い。

 口腔を抜け、腹部へと落ちる水を内側から感じながら、180mlボトルを一息に飲み干す。昨晩は飲みすぎたか、喉を鳴らす水が最高に心地よい。
 寝汗をシャワーで流し、着替えると丁度テレビから朝のニュースが流れ始める。

『昨日よりお伝えしております連続放火犯による○○町の火災は、つい先程…えー、6:43に消火が完了したとの事です。この火災による被害は────」

 ここ最近はもっぱら話題を占有している放火犯のニュースだ。
 既に放火犯によるものと断言されているのも、当の本人…犯人は既に逮捕されているからだ。

 世にも珍しい逮捕されてから犯行が繰り返される、その奇抜な犯罪者に世間はめっぽう注目を浴びせている。

 というのも、一件目、つまりは初犯の際には自首しており、その際の自供と火元の発生が同時であった事に端を発する。
 以来、この犯人は火災発生のタイミングでその犯行を自供し、警察と世間とを騒がせている。何のためにそんな事をしているのか、分かりたくもないがきっとここ数ヶ月の世間の様子は犯人の思い通りなのだろう。

 サンドイッチとコーヒーを軽く食し、テレビを消す。もしかしたらこの我が家も燃えるのかと、漠然とした不安を想像しながら仕事に向かう。

 体験したことのない妄想よりも、通勤電車の方が大きな問題だ。
しおりを挟む

処理中です...