常から外れた者たちへ

春の豆腐屋

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初めまして星空

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───妄想癖

 取り立てて説明するまでもない僕の症状だ。


 僕には2人の姉妹と、優しくなかった両親がいた。
 合わせて4人の家族が、僕含めて5人だけど……とにかく、4人の家族がいた。加虐癖のある父と母、ごく普通の妹2人に被虐体質の僕、幸か不幸か両親の虐待は僕だけに集中した。

 そうして育まれた暴虐は、ある日堰を切ったように止めどない炎となって我が家を覆った。
 不幸な火事に見舞われ4人の家族を失った僕は、親戚の家に引き取られ、悲しみは濁流となって新しい家族を飲み込んだ。


 どこまでが妄想かも分からない。

 ただ言えるのは、僕を引き取った9つの家は、もれなく一家根絶の憂き目に遭っているということ。

…………憂き目、そう憂き目だ。一家根絶という類稀な悲劇を他人事のようにたったそれだけの言葉で済ませている。その罪深さと自覚しない悪性が僕の象徴で、だからこそ僕の妄想はここまで暴力的な破壊をもたらすのだろう。




 眼下では燃え盛る炎がビルからビルへと広がっていく。人が何人もいて買い物の最中であったろうに、突然の業火がビル全体を覆い、瞬く間に逃げ道を失い肉体へと迫ってくる。
 僕はそれを何処からともなく見ている。

 翌朝、自分の布団の上で目覚めると、見ていた景色と同じ被害がニュースに流れている。
 行ったこともない場所、知りもしない人たちの情報は、なのに見覚えという実感を伴っている。

 それを何とも思わず、今日も学校に通う僕は、やはりおかしいのだろう。

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