9 / 45
第1章 異世界に転生しちゃいました?
第9話 できることとできないこと
しおりを挟む
ちょっと、ちょっと
いったいどういうことなのだろう。
私は言い難い不安に襲われた。
「ユメ、あのね。魔法は何も考えずに使うと、自身の持つ魔力値の最大出力で発動しちゃうの。その魔力値を抑制するのが魔力制御というスキル。ユメほどの高い魔力値なら、持っているのが当たり前なのだけれど…」
アレクサンドラの眉間には、しわが寄ったままだ。
なるほど、確かに魔力値を制御することは大事だ。これがないと、私は世界最大・最強の魔法を発動し続ける、とんでもない魔女になってしまう。
でも、なんでそのスキルを持っていないんだろう…。
――あ。
私は思い出した。
そうだ、私は神様からスキルについて「望むものを渡す」と言われた。そこですべてのスキルが欲しいと言ったら「持つことで不幸になったり疎まれたりするスキルもある」とアドバイスを受けて…結局何一つ貰わずに、全てのスキルを辞退したのだった。
なんて馬鹿なの、あのときの私。
ダメじゃん、これ。ダメなやつじゃん。
どうしよう、本当にどうしよう…。
というか、神様!なんでそんな大切なことを言ってくれなかったの!!
「あ、あの今からでもそのスキルって習得できますか?」
私は絶望に涙目になりながらアレクサンドラに尋ねた。
「そうね、不可能…ではないとは思うけれどユメ次第なの。」
「どういうことですか?」
「魔力制御のスキルは、魔力値の上昇に併せて習得できるスキルなのよ。つまり、魔力値が今より伸びることがあれば習得できるけれど、今以上に伸びなければ習得できないわ。」
はい、詰んだ。
詰みましたよ…。
だって、私の能力値は最大。つまり、これ以上伸びる余地なんてない…。
どうして能力値最大なんて言っちゃったかなぁ…。
「ま、まぁ、あのね?何もかもがダメというわけではないのよ?」
私のあまりの落胆ぶりに、アレクサンドラがフォローを入れた。
「例えば診察魔法。これは出力が上がれば詳細な症状が分かるだけで、魔法をかけられた相手に負担は無いの。だからこういう魔法なら大丈夫なのよ。ね?」
そうか、診察魔法なら魔力値最大でも問題ないんだ。
「あの、では治療をする魔法の方はどうなんでしょうか…?」
私は恐る恐るアレクサンドラに尋ねた。
「そうね。治療魔法は使ってよいものと使わない方がよいものがあるわ。使ってよいものは、上限値以上に突破出来ないものね。例えば、骨折の接合や傷口の修復などの再生魔法。」
ふむふむ。
再生魔法は、元に戻すことがゴールなので、それ以上の魔力を使っても元の状態以上に変化することは無い、というわけだ。
「でもね、体力の回復や免疫力の向上、そういった魔法は使わない方がいいわね。これらの魔法は診察魔法で知り得た症状に基づいて、適正な魔力を使わないといけないのよ。もし、その人の許容量以上に魔力を使ったら…」
アレクサンドラが言葉に詰まった。
私はゴクリとつばを飲み込み、尋ねる。
「使ったら、どうなりますか?」
――最悪、身体が破裂して死ぬわね。
使わない方が良いというので、それなりによくない結果になるのだろうと予想はしていたけど、これはさすがに酷い。
繰り返しになるけれど、私の能力値は最大。つまり、身体が破裂して死亡するのは火を見るよりも明らかだ。
「ユメはルフトバロンの実は覚えているかしら?」
唐突にアレクサンドラに尋ねられた。
「い、いえ。」
アレクサンドラの説明によると、ルフトバロンは街外れの草原や川のほとりでよく見られる雑草の一種で、春に小さい黄色の花が咲き、夏になると透明の膜に覆われた実をつけるらしい。
その透明の膜が前世で言うところの水風船そっくりで、子供たちは夏になると小川でルフトバロンの風船に水を入れ、ぶつけ合って遊ぶのだそうだ。
風船と同じく膜は伸縮性があり、ある程度水を入れすぎても膜が割れることはない。しかし、限界以上に水を入れると耐えきれずに割れてしまう。
「回復系魔法の危険性をルフトバロンの実で例えるのは鉄板なんだけれど、そもそもルフトバロンを知らなかったら、かえって分かりにくいわね。」
アレクサンドラが申し訳なさそうにはにかむ。
「いえ、とっても分かりやすかったです。」
まさか水風船を知っているので分かりやすかったとは言えず、私はただただ大袈裟に頷いてみせた。
「それにしても、ユメは魔法の覚えが早いわね…」
アレクサンドラの言葉に私は目を丸くする。
ふと前世では、上司に嫌味ったらしく、物覚えが悪いとか、要領が悪いとかさんざん罵倒されていたな…と思い出す。あれは私に非があるのではなく、教え方の悪い上司に非があると思うのだけれど…。
「そう…なんですか?」
「そうよ?だって、今日覚えた『スタータスプルフーン』と『インスペクティオン』は最初に言ったようにレベル10の高等魔法なの。宮廷魔女レベルの才能がある人だって、習得に1年はかかるわ。それに、ユメは…こう言っては悪いのだけれど、呪文のスペルがちょっとおかしいのよね。それでもきちんと発動してしまっているんだから不思議だわ。私はこれまで博識を自負してきて、知らないものはこの世にはほとんどないと思っていたのだけれど、さすがにこれは説明がつかないの。」
な、なんてこったい。
どの能力値が影響しているのかわからないけれど、きっとこれも能力値最大のなせる技なのだろう。
「では、午前の講習はここまでにしましょう。」
いつの間にか日が高く昇っていた。
夢中になるとあっという間に時間が過ぎるというのは、異世界でも同じようだ。
今の今まで気にしていなかったが、胃袋がお腹すいたとアピールをしてくる。
「予定以上に進んだので、午後からは自由時間にします。昼食後はレフィーナ様と遊んでいらっしゃいな。」
「はい!先生、ありがとうございました!」
アレクサンドラの講習はどれも興味深くて、分かりやすいし面白い。
実技はすぐに習得できるし、アレクサンドラがそのたびに褒めてくれるので楽しい。
きっと一日続けても苦にはならないだろう。
でも、レフィーナと遊ぶのは、また違った楽しさがあると思う。
昼食の際、レフィーナに午後がまるごと自由時間になったと告げると、大変喜んでくれた。
私はてっきり、食後すぐに街へ行くものと思っていたが、そこはさすがに伯爵令嬢。じっくりと衣服を選んでいる。
私も衣服を勧められたが、一張羅で異世界転生した身。着替えなどあろうはずもなく、今回もレフィーナの衣服を借りることになった。(ちなみにメイドが見立ててくれた)
「そうだった。服とかも買わないと、ね。私、全然持っていないもん。」
街に行ったらやらなければいけないことを頭に刻み込むように、私は言葉に出して言った。
「それでしたら、エスクーダのお店に行きましょう。あのお店は素敵な服がいっぱいありますの。」
レフィーナは私にお勧めするというよりは、たぶん自分自身が行きたいんだろうなと思った。そこはやっぱり年頃の女の子なのだろう。
…ところで、お嬢様御用達のブティックって、庶民の衣服もあるのかしら?
一通りおめかしを終えると、私はレフィーナと街へ繰り出した。
こういう体験は前世でもほとんど覚えがない。いや、こんなに楽しい気持ちで女の子同士でお買い物に行くのは初めてではなかろうか。
正確には女の子同士…プラス護衛のウィリアム執事長付なのだけれど。
レフィーナは私が年上と分かってから、なんだか妹のように甘えてくる。
それは私にとって決して悪い気分ではなかった。
――さぁ、ユメどこから行きますか?
いったいどういうことなのだろう。
私は言い難い不安に襲われた。
「ユメ、あのね。魔法は何も考えずに使うと、自身の持つ魔力値の最大出力で発動しちゃうの。その魔力値を抑制するのが魔力制御というスキル。ユメほどの高い魔力値なら、持っているのが当たり前なのだけれど…」
アレクサンドラの眉間には、しわが寄ったままだ。
なるほど、確かに魔力値を制御することは大事だ。これがないと、私は世界最大・最強の魔法を発動し続ける、とんでもない魔女になってしまう。
でも、なんでそのスキルを持っていないんだろう…。
――あ。
私は思い出した。
そうだ、私は神様からスキルについて「望むものを渡す」と言われた。そこですべてのスキルが欲しいと言ったら「持つことで不幸になったり疎まれたりするスキルもある」とアドバイスを受けて…結局何一つ貰わずに、全てのスキルを辞退したのだった。
なんて馬鹿なの、あのときの私。
ダメじゃん、これ。ダメなやつじゃん。
どうしよう、本当にどうしよう…。
というか、神様!なんでそんな大切なことを言ってくれなかったの!!
「あ、あの今からでもそのスキルって習得できますか?」
私は絶望に涙目になりながらアレクサンドラに尋ねた。
「そうね、不可能…ではないとは思うけれどユメ次第なの。」
「どういうことですか?」
「魔力制御のスキルは、魔力値の上昇に併せて習得できるスキルなのよ。つまり、魔力値が今より伸びることがあれば習得できるけれど、今以上に伸びなければ習得できないわ。」
はい、詰んだ。
詰みましたよ…。
だって、私の能力値は最大。つまり、これ以上伸びる余地なんてない…。
どうして能力値最大なんて言っちゃったかなぁ…。
「ま、まぁ、あのね?何もかもがダメというわけではないのよ?」
私のあまりの落胆ぶりに、アレクサンドラがフォローを入れた。
「例えば診察魔法。これは出力が上がれば詳細な症状が分かるだけで、魔法をかけられた相手に負担は無いの。だからこういう魔法なら大丈夫なのよ。ね?」
そうか、診察魔法なら魔力値最大でも問題ないんだ。
「あの、では治療をする魔法の方はどうなんでしょうか…?」
私は恐る恐るアレクサンドラに尋ねた。
「そうね。治療魔法は使ってよいものと使わない方がよいものがあるわ。使ってよいものは、上限値以上に突破出来ないものね。例えば、骨折の接合や傷口の修復などの再生魔法。」
ふむふむ。
再生魔法は、元に戻すことがゴールなので、それ以上の魔力を使っても元の状態以上に変化することは無い、というわけだ。
「でもね、体力の回復や免疫力の向上、そういった魔法は使わない方がいいわね。これらの魔法は診察魔法で知り得た症状に基づいて、適正な魔力を使わないといけないのよ。もし、その人の許容量以上に魔力を使ったら…」
アレクサンドラが言葉に詰まった。
私はゴクリとつばを飲み込み、尋ねる。
「使ったら、どうなりますか?」
――最悪、身体が破裂して死ぬわね。
使わない方が良いというので、それなりによくない結果になるのだろうと予想はしていたけど、これはさすがに酷い。
繰り返しになるけれど、私の能力値は最大。つまり、身体が破裂して死亡するのは火を見るよりも明らかだ。
「ユメはルフトバロンの実は覚えているかしら?」
唐突にアレクサンドラに尋ねられた。
「い、いえ。」
アレクサンドラの説明によると、ルフトバロンは街外れの草原や川のほとりでよく見られる雑草の一種で、春に小さい黄色の花が咲き、夏になると透明の膜に覆われた実をつけるらしい。
その透明の膜が前世で言うところの水風船そっくりで、子供たちは夏になると小川でルフトバロンの風船に水を入れ、ぶつけ合って遊ぶのだそうだ。
風船と同じく膜は伸縮性があり、ある程度水を入れすぎても膜が割れることはない。しかし、限界以上に水を入れると耐えきれずに割れてしまう。
「回復系魔法の危険性をルフトバロンの実で例えるのは鉄板なんだけれど、そもそもルフトバロンを知らなかったら、かえって分かりにくいわね。」
アレクサンドラが申し訳なさそうにはにかむ。
「いえ、とっても分かりやすかったです。」
まさか水風船を知っているので分かりやすかったとは言えず、私はただただ大袈裟に頷いてみせた。
「それにしても、ユメは魔法の覚えが早いわね…」
アレクサンドラの言葉に私は目を丸くする。
ふと前世では、上司に嫌味ったらしく、物覚えが悪いとか、要領が悪いとかさんざん罵倒されていたな…と思い出す。あれは私に非があるのではなく、教え方の悪い上司に非があると思うのだけれど…。
「そう…なんですか?」
「そうよ?だって、今日覚えた『スタータスプルフーン』と『インスペクティオン』は最初に言ったようにレベル10の高等魔法なの。宮廷魔女レベルの才能がある人だって、習得に1年はかかるわ。それに、ユメは…こう言っては悪いのだけれど、呪文のスペルがちょっとおかしいのよね。それでもきちんと発動してしまっているんだから不思議だわ。私はこれまで博識を自負してきて、知らないものはこの世にはほとんどないと思っていたのだけれど、さすがにこれは説明がつかないの。」
な、なんてこったい。
どの能力値が影響しているのかわからないけれど、きっとこれも能力値最大のなせる技なのだろう。
「では、午前の講習はここまでにしましょう。」
いつの間にか日が高く昇っていた。
夢中になるとあっという間に時間が過ぎるというのは、異世界でも同じようだ。
今の今まで気にしていなかったが、胃袋がお腹すいたとアピールをしてくる。
「予定以上に進んだので、午後からは自由時間にします。昼食後はレフィーナ様と遊んでいらっしゃいな。」
「はい!先生、ありがとうございました!」
アレクサンドラの講習はどれも興味深くて、分かりやすいし面白い。
実技はすぐに習得できるし、アレクサンドラがそのたびに褒めてくれるので楽しい。
きっと一日続けても苦にはならないだろう。
でも、レフィーナと遊ぶのは、また違った楽しさがあると思う。
昼食の際、レフィーナに午後がまるごと自由時間になったと告げると、大変喜んでくれた。
私はてっきり、食後すぐに街へ行くものと思っていたが、そこはさすがに伯爵令嬢。じっくりと衣服を選んでいる。
私も衣服を勧められたが、一張羅で異世界転生した身。着替えなどあろうはずもなく、今回もレフィーナの衣服を借りることになった。(ちなみにメイドが見立ててくれた)
「そうだった。服とかも買わないと、ね。私、全然持っていないもん。」
街に行ったらやらなければいけないことを頭に刻み込むように、私は言葉に出して言った。
「それでしたら、エスクーダのお店に行きましょう。あのお店は素敵な服がいっぱいありますの。」
レフィーナは私にお勧めするというよりは、たぶん自分自身が行きたいんだろうなと思った。そこはやっぱり年頃の女の子なのだろう。
…ところで、お嬢様御用達のブティックって、庶民の衣服もあるのかしら?
一通りおめかしを終えると、私はレフィーナと街へ繰り出した。
こういう体験は前世でもほとんど覚えがない。いや、こんなに楽しい気持ちで女の子同士でお買い物に行くのは初めてではなかろうか。
正確には女の子同士…プラス護衛のウィリアム執事長付なのだけれど。
レフィーナは私が年上と分かってから、なんだか妹のように甘えてくる。
それは私にとって決して悪い気分ではなかった。
――さぁ、ユメどこから行きますか?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
154
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる