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第34話 宿将
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惑星グラスタに到着したウォーケンは、その足で第三艦隊の司令部に出頭した。第三艦隊司令官H・ハウザー中将は退役間近の老齢に達していたが、その知力は些かも衰えることなく、豊富な実戦経験と相まって、多くの将兵から絶大な信頼を寄せられていた。兵卒出身でなければ大将、元帥に昇進していただろうと言われている。現に彼はいくつかの作戦で部隊を勝利に導いており、ウォーケンもその厳しい表情を新聞TVネットなどで幾度か目にしている。だが意外にも会見した折の第一印象は、日向ぼっこの似合いそうな柔和で気さくな老人だった。鼻の下に生えているちょび髭などは愛嬌すら感じられる。
「やあ、よく来てくれた。君の噂は聞いておる。優秀な指揮官は大歓迎だ。今回の作戦でも存分に働いてもらおう」
ハウザーはウォーケンと握手を交わすと着座するよう勧めた。
「これが今回の指令書だ。作戦期日が迫っておる。幕僚たちとよく検討しておいてくれ」
ウォーケンは一枚のディスクを受け取ると、手錠の付いた書類鞄に収めた。
ハウザーは両手を組むと椅子に凭れかかった。
「どうかね、久し振りに前線に立つ気分は?」
「ハッ、長患いから回復した気分です」
「ウム、元気になって何よりだ。君のような優秀な人材を寝かせておくのは惜しいからな。まったく、作戦本部は何を考えておるのか」
ウォーケンは理解していた。作戦本部はグローク人兵士の能力に懐疑心を抱いている。だが実力を証明する機会を与えられない限り、その懐疑心を晴らすことはできない。今回の作戦はグローク人兵士の実力を示す絶好の機会といえた。
「閣下、グローク人兵士の資質は連邦で最も優秀であることを保証いたします。ぜひ、重要な部署をお任せください」
「君がそう言うのなら間違いなかろう。頼りにしているぞ」
ハウザーは満足そうに頷くと、さっそく作戦の具体的な説明に入った。
「うちの諜報部はいつも後手を踏んでおるが、これだけ大規模な作戦になると、さすがに敵も全容を隠しおおせることはできなかったらしい。情報によると一万五千隻の大軍が動員されるそうだ。もっとも敵さんの港を眺めていれば誰でも気付くだろうが」
「一万五千隻でありますか……」
一瞬、ウォーケンは自分の耳を疑った。
敵は総数の五割を以て連邦領に進攻しようというのだ。もし事実であれば”ヴァ―クレムの奇襲”以来の大規模な作戦となるだろう。
「敵は三方のルートのいずれかから一万五千隻の艦艇を以て侵攻してくる。最終目標はデドモンド星域。ここを占領すれば鉄鋼資源に事欠くことはないからな」
「同盟の資源不足もここまで来たというわけですか」
「工業力の格差は年々開く一方だ。手を拱いていては戦わずして敗北することになる」
「あれだけ勝利を重ねながら、なお戦局は好転しないのですから」
同盟の焦りが手に取るように伝わってくる。敵は前線を跳び越えて一気に後方を衝こうというのだ。たとえデドモンド星域を占領できたとしても、伸び切った補給ルートを確保することは困難を極める。上手く後方を遮断すれば敵は袋のネズミと化すはずだ。敵に消耗を強いたあと総攻撃をかければ戦局は一転する。だがウォーケンの腹案は却下された。
「それではデドモンド星域の市民に犠牲を強いることになる。窮鼠と化した占領軍が彼らを盾に徹底抗戦したら、我が軍は領内に大きな爆弾を抱えることになる。占領地は重要な鉄鋼大国だ。戦線が長期化すれば我が方が資源不足に陥りかねん。作戦本部の命令通り、前線で敵を撃破するのが賢明だろう」
「彼我の戦力差を考慮すれば長期化を懸念する必要はないように思われますが」
「敵の総司令官はあのパットナム大将だ。彼が防戦一方に出たら半年や一年は容易に持ちこたえるかもしれん」
ウォーケンもパットナムの手腕は認めるところだ。彼が同盟に存在しなければ、この戦争はもっと早期に決着していたかもしれない。同盟はおろか連邦にさえ、彼を凌駕する才能の持ち主はいないと言われている。相手にとって不足はない。
「正面決戦ですか。それもまた望むところです。それで我が方の兵力は?」
「現在、このハウシルト星系には第三艦隊の他に君の第五四戦隊と第二十戦隊が駐留している。まあ、現有戦力は一万二千隻といったところだ。この他に第九、第三四戦隊が指揮下に編入されることになっておるが、果たして出撃までに間に合うかどうか……」
ハウザーは寡兵で戦う不利を憂慮しているのだ。だがウォーケンにすれば勿怪の幸いと言うべきか。兵力不足の中にあって第五四戦隊の重要性は更に増してゆくだろう。自信家としての素顔は子供の頃から本人の意識外にある。他人にはどう見えようが、彼は飽くまで自然体だった。
「それで侵攻時期は?」
「半月後だ。計画が遺漏したと知れば、もっと早まるかもしれん」
「では我々は明日から直ちに戦闘訓練に入ります」
ウォーケンが一礼して部屋を辞去しようとすると、
「待ちたまえ!」
ハウザーが呼び止めた。
「ベッソンは”双頭の竜”を君に託したと聞いておるが」
「それでしたら戦隊旗としてマストに掲げております」
「そうか、あいつは君に連邦の未来を託したのだな」
ハウザーは椅子から立ち上がると、ウォーケンの前に足を運んだ。
「実はな、わしとあいつは知己の間柄でな。気心の知れた友人だった。連邦で兵卒上がりの将官といえば、わしとあいつの二人しかおらんのでな。何度も戦場に駆り出されては艦首を並べて戦ったものだ。パットナムが同盟一の名将なら、ベッソンは連邦一の名将だった。君はその名将に見込まれた男だ。期待しておるぞ」
「ハッ、必ずやご期待に応えてみせます!」
「ウム、頼んだぞ」
ベッソン提督の仇討ちなら望むところだ。ウォーケンは新たなる闘志を掻き立てた。
「やあ、よく来てくれた。君の噂は聞いておる。優秀な指揮官は大歓迎だ。今回の作戦でも存分に働いてもらおう」
ハウザーはウォーケンと握手を交わすと着座するよう勧めた。
「これが今回の指令書だ。作戦期日が迫っておる。幕僚たちとよく検討しておいてくれ」
ウォーケンは一枚のディスクを受け取ると、手錠の付いた書類鞄に収めた。
ハウザーは両手を組むと椅子に凭れかかった。
「どうかね、久し振りに前線に立つ気分は?」
「ハッ、長患いから回復した気分です」
「ウム、元気になって何よりだ。君のような優秀な人材を寝かせておくのは惜しいからな。まったく、作戦本部は何を考えておるのか」
ウォーケンは理解していた。作戦本部はグローク人兵士の能力に懐疑心を抱いている。だが実力を証明する機会を与えられない限り、その懐疑心を晴らすことはできない。今回の作戦はグローク人兵士の実力を示す絶好の機会といえた。
「閣下、グローク人兵士の資質は連邦で最も優秀であることを保証いたします。ぜひ、重要な部署をお任せください」
「君がそう言うのなら間違いなかろう。頼りにしているぞ」
ハウザーは満足そうに頷くと、さっそく作戦の具体的な説明に入った。
「うちの諜報部はいつも後手を踏んでおるが、これだけ大規模な作戦になると、さすがに敵も全容を隠しおおせることはできなかったらしい。情報によると一万五千隻の大軍が動員されるそうだ。もっとも敵さんの港を眺めていれば誰でも気付くだろうが」
「一万五千隻でありますか……」
一瞬、ウォーケンは自分の耳を疑った。
敵は総数の五割を以て連邦領に進攻しようというのだ。もし事実であれば”ヴァ―クレムの奇襲”以来の大規模な作戦となるだろう。
「敵は三方のルートのいずれかから一万五千隻の艦艇を以て侵攻してくる。最終目標はデドモンド星域。ここを占領すれば鉄鋼資源に事欠くことはないからな」
「同盟の資源不足もここまで来たというわけですか」
「工業力の格差は年々開く一方だ。手を拱いていては戦わずして敗北することになる」
「あれだけ勝利を重ねながら、なお戦局は好転しないのですから」
同盟の焦りが手に取るように伝わってくる。敵は前線を跳び越えて一気に後方を衝こうというのだ。たとえデドモンド星域を占領できたとしても、伸び切った補給ルートを確保することは困難を極める。上手く後方を遮断すれば敵は袋のネズミと化すはずだ。敵に消耗を強いたあと総攻撃をかければ戦局は一転する。だがウォーケンの腹案は却下された。
「それではデドモンド星域の市民に犠牲を強いることになる。窮鼠と化した占領軍が彼らを盾に徹底抗戦したら、我が軍は領内に大きな爆弾を抱えることになる。占領地は重要な鉄鋼大国だ。戦線が長期化すれば我が方が資源不足に陥りかねん。作戦本部の命令通り、前線で敵を撃破するのが賢明だろう」
「彼我の戦力差を考慮すれば長期化を懸念する必要はないように思われますが」
「敵の総司令官はあのパットナム大将だ。彼が防戦一方に出たら半年や一年は容易に持ちこたえるかもしれん」
ウォーケンもパットナムの手腕は認めるところだ。彼が同盟に存在しなければ、この戦争はもっと早期に決着していたかもしれない。同盟はおろか連邦にさえ、彼を凌駕する才能の持ち主はいないと言われている。相手にとって不足はない。
「正面決戦ですか。それもまた望むところです。それで我が方の兵力は?」
「現在、このハウシルト星系には第三艦隊の他に君の第五四戦隊と第二十戦隊が駐留している。まあ、現有戦力は一万二千隻といったところだ。この他に第九、第三四戦隊が指揮下に編入されることになっておるが、果たして出撃までに間に合うかどうか……」
ハウザーは寡兵で戦う不利を憂慮しているのだ。だがウォーケンにすれば勿怪の幸いと言うべきか。兵力不足の中にあって第五四戦隊の重要性は更に増してゆくだろう。自信家としての素顔は子供の頃から本人の意識外にある。他人にはどう見えようが、彼は飽くまで自然体だった。
「それで侵攻時期は?」
「半月後だ。計画が遺漏したと知れば、もっと早まるかもしれん」
「では我々は明日から直ちに戦闘訓練に入ります」
ウォーケンが一礼して部屋を辞去しようとすると、
「待ちたまえ!」
ハウザーが呼び止めた。
「ベッソンは”双頭の竜”を君に託したと聞いておるが」
「それでしたら戦隊旗としてマストに掲げております」
「そうか、あいつは君に連邦の未来を託したのだな」
ハウザーは椅子から立ち上がると、ウォーケンの前に足を運んだ。
「実はな、わしとあいつは知己の間柄でな。気心の知れた友人だった。連邦で兵卒上がりの将官といえば、わしとあいつの二人しかおらんのでな。何度も戦場に駆り出されては艦首を並べて戦ったものだ。パットナムが同盟一の名将なら、ベッソンは連邦一の名将だった。君はその名将に見込まれた男だ。期待しておるぞ」
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