銀河連邦大戦史 双頭の竜の旗の下に

風まかせ三十郎

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第40話 救出

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「おい、ウォーケン。あれはなんだ?」

 ウォーケンは言われるままにダフマンの指さす方向に目を移した。ロードバックも目を覚まして追従する。そこには太陽の照り返しを受けて輝く一隻の艦船が低速で航行していた。

「おかしいぞ。レーダーに反応がない」

 ウォーケンはもう一度レーダーパネルを覗き込んだ。確かに無数の岩礁以外、それらしき光点を確認することができない。岩礁滞は映っているのでレーダーの故障ということはない。

「助かった! さっそくあの船と連絡を取って……」

 はしゃぐロードバックをウォーケンが押し止めた。

「あれは連邦の船じゃない」
「なんだって? そんなバカな! ここは連邦領だぞ。しかも中央星系の中心星域だ。敵艦がなぜこんな所を」
「見たところ連邦軍の工作艦のようだが、どうも少し違う気がする」

 ロードバックとダフマンは不安そうに顔を見合わせた。ウォーケンは志願するなら海軍と心に決めていただけに軍艦には詳しかった。だが戦禍から遠く離れたこの星系で敵艦に出くわすなど到底考えられない。

「おまえの勘違いだって。考えてもみろよ。どうして敵艦がこんな所までのこのこやって来れるんだ? そんなことすりゃ立ち所に警戒網に引っかかって……」
「おい、双眼鏡」

 ウォーケンは有無を言わさずロードバックから双眼鏡を奪い取った。
 
「見ろよ。あのシートの陰に隠されているのは五連装ミサイル発射管だ。それに主砲も偽装されているが十センチ連装砲、あれはたぶんC型。いずれも同盟軍の艦艇に搭載された武器だ」
「そんなバカな! どうして敵はここまで……」
「だが事実だ。たぶん敵のスパイ船だ」
「クソッ、ついてねえ!」

 ロードバックが床を蹴って悪態をついた。彼でなくとも連邦の人間なら驚きを隠せないはずだ。大戦を通じて連邦は常に情報戦で同盟に後れをとっていた。三人の少年はその現実を目の当たりにしたのだ。

「せっかくの助け舟だと思っていたのに。このまま見送るしかねえのかよ」
「見逃してくれるならありがたい。ところが敵にその気はないようだ」

 ロードバックは慌ててウォーケンから双眼鏡をひったくった。数十秒後、それは力なくダフマンの手に渡った。彼は双眼鏡の光学レンズを通して敵艦が接近してくるのを観た。

「どうする? このままじゃやられちまうぞ!」

 ロードバックが興奮して叫んだ。
 
「僕らは民間人だ。あるいは見逃してくれるかも」

 ダフマンが一縷の希望を込めて呟いた。
 
「俺たちを見逃せば敵の所在がバレる。それは期待薄だな」

 ウォーケンは物静かに敵の様子を伺っていた。興奮も諦観もなかった。だが父トーマスから死に際を清くせよ、と言われたことを思い出したのだ。

「じゃあ、俺たちゃ殺されるのかよ!」

 激高したロードバックをウォーケンは片手で制した。
 
「待て、敵が何か言ってきたぞ」

 敵艦のマストに点滅する光があった。発光信号だ。探照灯の光を利用して身近な相手に信号を伝えるのだ。

「おい、誰か読めるか?」

 ロードバックが戸惑い気味に左右の友達を見ると、ウォーケンが信号の意味する文字を口にした。

「キ・セ・ン・ノ・ナ・ヲ・シ・ラ・セ・ヨ。貴船の名を知らせよ、か。ダフマン、このヨットにもライトがあったな?」
「ああ、でも携帯用だよ。光が相手に届くかな?」
「部屋の灯を消してくれ。真空の宇宙空間だ。届く可能性はある。ともかく返事を出してみよう」
 
 ウォーケンはライトを受け取ると、明かりを不規則に点滅させた。

「ワ・レ・ノ・ナ・ハ・プ・ロ・バ・ン・ス・ゴ・ウ」

 我の名はプロバンス号。
 三人は固唾を飲んで見守った。送られてくるのは信号か砲弾か。すると敵艦のマストが再び点滅を開始した。

「ウ・ツ・ク・シ・キ・フ・ネ・ヨ・キ・セ・ン・ハ・ヒ・ョ・ウ・リ・ユ・ウ・チ・ュ・ウ・ナ・リ・ヤ」
「美しき船よ。貴船は漂流中なりや?」

 ウォーケンが信号を読むなりロードバックが指を鳴らした。

「なんだ、俺たちを助けてくれようっていうのか?」
「攻撃してこないところをみると、どうやらそうらしい」

 ウォーケンはどうして敵が攻撃してこないのかわからなかった。敵は相手が子供だとは知らないのだ。いや、たとえ相手が子供でも、機密保持のため撃沈するのが戦争というものだ。

「まさか、敵に助けられるなんて」

 ダフマンが安堵に胸を撫で下ろした。地獄から天国とはまさにこのことだ。

「まだ安心するのは早いぞ」

 ウォーケンは慎重な態度を崩さなかった。

「ともかく返信してみろよ」

 ロードバックがウォーケンをせっついた。

「キ・セ・ン・ノ・キ・ュ・ウ・ジ・ョ・ヲ・コ・ウ」

 貴船の救助を乞う。三人は期待を込めて返信を待った。

「リ・ョ・ウ・カ・イ・シ・タ・フ・キ・ン・ノ・ミ・ナ・ト・二・キ・ュ・ウ・ジ・ョ・シ・ン・ゴ・ウ・ヲ・ソ・オ・シ・ン・ス・ル」

 了解した・付近の港に救助信号を送信する。

 ロードバックがウォーケンに抱き付いた。

「やったぜ! 敵に助けられるなんて、本当ついてやがる!」
「敵の言うことだ。当てには出来ないよ」

 救助信号を発信すれば自分の所在を敵に知られてしまうことになる。無線封鎖はスパイ船の鉄則のはずだ。ウォーケンは敵の信号を信じることができなかった。
 敵艦はプロバンス号の上方を通過して彼方へと消えて行った。この場は沈められなかっただけでも感謝しなければならない。三人の心に再び不安の灯が点った。あの船は自分たちの所在を港湾に知らせてくれたろうか? 変に期待を持たされた分、過ぎ行く時間は却って長く感じられた。それから七時間後、奇跡が起こった。本当に救助隊が現れたのだ。信じられない事実だが、敵は自分が発見される危険を冒して、救助信号を送信してくれたのだ。

「やはり敵は約束を守ってくれたのか」

 ウォーケンはこのとき初めて海の男の魂に触れた思いがした。身の危険を冒して敵方の民間人を救ってくれたのだ。彼はあのスパイ船の船長の名を知りたいと思った。父以外に初めて尊敬できる人物を知ったのだ。だが現在に至るまでその名は判明していない。彼は知らなかった。その船長の名が若き日のD・パットナム中佐であることを……。
 救助隊員は故障した通信機を見て三人に問い質した。なぜ救助信号を発信することができたのかと。ダフマンが送信後に故障したと取り繕った。救助隊員は故障した羅針盤を見て三人に問い質した。なぜ正確な位置がわかったのかと。ロードバックが宇宙図表を見て見当をつけたと取り繕った。
 三人はスパイ船の存在を口外しないよう誓い合った。自分たちの命を救ってくれた者を売り渡すような真似はしたくなかった。これは利敵行為だが、幼い魂は利害を超えて純粋だった。
 たった一日だけの漂流。今となっては懐かしい思い出だ。ダフマンは手にしたグラスの表面に少年の日の自分を見た。心地よい沈黙が部屋に満ちていた。疲労感すら三人の勝利を祝福していた。ロードバックは既に話の途中で酔い潰れていた。

「過去を生きたことに乾杯!」

 ダフマンは徐にグラスを掲げると、

「未来を生きることに乾杯!」

 ウォーケンがグラスを掲げて唱和した。
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