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第31話 勇者さんは魔生物がお嫌いなようです
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パトラと白馬の並足で一時間ほど。
ようやくオークの森が見えてきた。
その間に俺、何度か話しかけたんだけど、勇者さん、一言も口利いてくれなくて。
小物狩り主体って言ったのが、なんかとても癇に障ったらしくて。
そりゃ、まあ、誇り高い人だということはわかるんだけど、ちょっと小者扱いしただけで、それはないよねえ?
最初に会ったときは、大物の風格を漂わせていると思ったけど、意外に子供っぽい一面を感じさせる人だ。
ニート王の優れた資質のひとつに子供っぽさというのがあるんだけど、そんな俺に共通性を感じさせるとは、いや、勇者さん、あんたは偉い!
突然、勇者さんが顔を顰めた。
「うん? なんだ、この臭いは」
「あれ、勇者さん、知らないんですか? オークの肉を焼いてる匂いですよ」
「オークの肉だと?」
「ええ、これが実に美味いですよ」
「君はあんな物を食べるのか?」
「えっ、確かオークの肉って高級食材ですよね?」
「あんな下種な生き物の肉が高級だと?」
「下種って……。そりゃ、エロ本好きなのは相変わらずですけど、彼らは人間の言葉を理解できるし、独自の文化も持ってます。下種といって切り捨てるには……」
「ほう! 君はそんな優秀な種族の肉を食べたのか? 下種なのはオークではなく、どうやら君のようだな」
「……」
俺、一瞬、帰りかけましたけどね。
まっ、ここは大人の態度で。
ニート王時代なら間違いなく腹立てて帰ってました。
どう、俺って成長した?
俺と勇者さんは共に下馬すると、オークの集落に分け入った。
パトラは同行を拒んだ。
よほど勇者さんが苦手らしい。
「たまらんな、この臭い」
勇者さん、あの香ばしい匂いを、なにが気に入らないのか、マントで鼻を被ってしまった。
俺は長老に会うと、彼の差し出した五十音図を指さして、勇者さんを紹介した。
でもマントで口を被ったままの勇者さんを見て、長老は態度を硬化させた。
勇者さんと長老が睨み合った。
そして二人の間に挟まれた俺。
これじゃ立場がありませんよ、まったく。
「集落を見学させてもらう。いいな?」
勇者さん、長老の許可も取らずに、勝手に集落の中をうろつき始めた。
俺、長老と例の商売の話をしようと思ってたんだけど、もう、そんな雰囲気じゃなくて……。勇者さんが何か仕出かすんじゃないかと心配になって、仕方なく後を付いてったんだけど。
オークの子供たちが、勇者さんを見て格好いいと思ったんだろうね。
彼の周りにまとわり付き始めた。
そんなところは人間の子供と同じで、微笑ましいと思うんだけど、勇者さん、マントにしがみ付いたオークの子供をいきなり突き飛ばしたんだ。
「触るな! 汚らわしい!」
オークに人間の話言葉は理解できない。
でも罵声を浴びせられたことくらいはわかる。
オークの子供、泣き出しちゃったよ。
他の子供も潮が引いたように勇者さんの周りから離れた。
「フン、獣めが」
勇者さんの捨て台詞。
周囲の厳しい視線もお構いなし。
オークの小屋を勝手に覗き見るに至っては、傍若無人というか、もう俺の手には負えないって感じで。
俺、思わず注意しちゃったよ。
「ちょっと、それってプライバシーの侵害ですよ」
「プライバシー? 獣にか? ハハッ、笑えるな」
「……」
駄目だ、こりゃ。
俺は勇者さんをその場に残して、オークの集落を後にした。
森の入り口でパトラが待っていた。
俺を見るなり、
「あれ? 勇者さんは」
「オークの森をお散歩中」
「大丈夫ですか? 彼一人残してきて」
「さあ、どうかな? 案外、生きて帰れねえかも」
……と言うのはもちろん冗談なんだけど、勇者さん、いったい何を見物しているのやら。
そんなこんなで小一時間くらいは経ったろうか。
ようやく勇者さんが姿を現した。
「いったいどこ行ってたんです?」
「……」
勇者さん、俺の問いかけを無視して白馬に跨ると、
「この近くにゴブリンの洞窟があるとか。案内を頼む」
「……」
まあ、手間賃もらう以上は案内はしますけどね。
で、オークの森から小一時間ほど。
ゴブリンの洞窟に到着したんだけど。
「なんて不快な臭いなんだ」
洞窟の入り口から立ち昇る異臭に勇者さん、またもマントで鼻を被ってしまったんだ。
潔癖症なんだろうね。
まあ、俺も余り長居はしたくないけど。
「この洞窟の奥はどうなっている?」
「行き止まりですよ。最奥まで三百メートルくらいかな」
「なぜわかる?」
「月一で、あいつらにエロ本届けてますから。そのとき洞窟の奥にある古雑誌を回収するんですよ」
「ほう! そんな最底辺の仕事まで熟しているとは……。勤労青年なんだな、君は」
この野郎ぉ~。ふざけたことぬかしやがって!
「いえ、俺は助手ですから。その仕事をしているのは、あなたもご存じのフェイさんですよ」
「……フェイ?」
「この前、あなたが手を取って挨拶した廃品回収業の女性です」
「えっ? あの美しい人が。でも彼女、魔法使いだろ? なぜ廃品回収の仕事なんかしてるんだ?」
「さあ、それは……。今度会ったとき、ご自分で確かめたらどうです?」
「うむ、できればそうしたいものだが……」
あら、勇者さん、俯き加減に考え込んじゃったよ。
俺、驚かせるつもりで言ったんだけど。
もしかして、おねえさんに気があるとか?
いや、冗談でしょ!?
ようやくオークの森が見えてきた。
その間に俺、何度か話しかけたんだけど、勇者さん、一言も口利いてくれなくて。
小物狩り主体って言ったのが、なんかとても癇に障ったらしくて。
そりゃ、まあ、誇り高い人だということはわかるんだけど、ちょっと小者扱いしただけで、それはないよねえ?
最初に会ったときは、大物の風格を漂わせていると思ったけど、意外に子供っぽい一面を感じさせる人だ。
ニート王の優れた資質のひとつに子供っぽさというのがあるんだけど、そんな俺に共通性を感じさせるとは、いや、勇者さん、あんたは偉い!
突然、勇者さんが顔を顰めた。
「うん? なんだ、この臭いは」
「あれ、勇者さん、知らないんですか? オークの肉を焼いてる匂いですよ」
「オークの肉だと?」
「ええ、これが実に美味いですよ」
「君はあんな物を食べるのか?」
「えっ、確かオークの肉って高級食材ですよね?」
「あんな下種な生き物の肉が高級だと?」
「下種って……。そりゃ、エロ本好きなのは相変わらずですけど、彼らは人間の言葉を理解できるし、独自の文化も持ってます。下種といって切り捨てるには……」
「ほう! 君はそんな優秀な種族の肉を食べたのか? 下種なのはオークではなく、どうやら君のようだな」
「……」
俺、一瞬、帰りかけましたけどね。
まっ、ここは大人の態度で。
ニート王時代なら間違いなく腹立てて帰ってました。
どう、俺って成長した?
俺と勇者さんは共に下馬すると、オークの集落に分け入った。
パトラは同行を拒んだ。
よほど勇者さんが苦手らしい。
「たまらんな、この臭い」
勇者さん、あの香ばしい匂いを、なにが気に入らないのか、マントで鼻を被ってしまった。
俺は長老に会うと、彼の差し出した五十音図を指さして、勇者さんを紹介した。
でもマントで口を被ったままの勇者さんを見て、長老は態度を硬化させた。
勇者さんと長老が睨み合った。
そして二人の間に挟まれた俺。
これじゃ立場がありませんよ、まったく。
「集落を見学させてもらう。いいな?」
勇者さん、長老の許可も取らずに、勝手に集落の中をうろつき始めた。
俺、長老と例の商売の話をしようと思ってたんだけど、もう、そんな雰囲気じゃなくて……。勇者さんが何か仕出かすんじゃないかと心配になって、仕方なく後を付いてったんだけど。
オークの子供たちが、勇者さんを見て格好いいと思ったんだろうね。
彼の周りにまとわり付き始めた。
そんなところは人間の子供と同じで、微笑ましいと思うんだけど、勇者さん、マントにしがみ付いたオークの子供をいきなり突き飛ばしたんだ。
「触るな! 汚らわしい!」
オークに人間の話言葉は理解できない。
でも罵声を浴びせられたことくらいはわかる。
オークの子供、泣き出しちゃったよ。
他の子供も潮が引いたように勇者さんの周りから離れた。
「フン、獣めが」
勇者さんの捨て台詞。
周囲の厳しい視線もお構いなし。
オークの小屋を勝手に覗き見るに至っては、傍若無人というか、もう俺の手には負えないって感じで。
俺、思わず注意しちゃったよ。
「ちょっと、それってプライバシーの侵害ですよ」
「プライバシー? 獣にか? ハハッ、笑えるな」
「……」
駄目だ、こりゃ。
俺は勇者さんをその場に残して、オークの集落を後にした。
森の入り口でパトラが待っていた。
俺を見るなり、
「あれ? 勇者さんは」
「オークの森をお散歩中」
「大丈夫ですか? 彼一人残してきて」
「さあ、どうかな? 案外、生きて帰れねえかも」
……と言うのはもちろん冗談なんだけど、勇者さん、いったい何を見物しているのやら。
そんなこんなで小一時間くらいは経ったろうか。
ようやく勇者さんが姿を現した。
「いったいどこ行ってたんです?」
「……」
勇者さん、俺の問いかけを無視して白馬に跨ると、
「この近くにゴブリンの洞窟があるとか。案内を頼む」
「……」
まあ、手間賃もらう以上は案内はしますけどね。
で、オークの森から小一時間ほど。
ゴブリンの洞窟に到着したんだけど。
「なんて不快な臭いなんだ」
洞窟の入り口から立ち昇る異臭に勇者さん、またもマントで鼻を被ってしまったんだ。
潔癖症なんだろうね。
まあ、俺も余り長居はしたくないけど。
「この洞窟の奥はどうなっている?」
「行き止まりですよ。最奥まで三百メートルくらいかな」
「なぜわかる?」
「月一で、あいつらにエロ本届けてますから。そのとき洞窟の奥にある古雑誌を回収するんですよ」
「ほう! そんな最底辺の仕事まで熟しているとは……。勤労青年なんだな、君は」
この野郎ぉ~。ふざけたことぬかしやがって!
「いえ、俺は助手ですから。その仕事をしているのは、あなたもご存じのフェイさんですよ」
「……フェイ?」
「この前、あなたが手を取って挨拶した廃品回収業の女性です」
「えっ? あの美しい人が。でも彼女、魔法使いだろ? なぜ廃品回収の仕事なんかしてるんだ?」
「さあ、それは……。今度会ったとき、ご自分で確かめたらどうです?」
「うむ、できればそうしたいものだが……」
あら、勇者さん、俯き加減に考え込んじゃったよ。
俺、驚かせるつもりで言ったんだけど。
もしかして、おねえさんに気があるとか?
いや、冗談でしょ!?
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