異世界最弱のニート様 敵は異世界最強の勇者様? 俺 死亡フラグ回避するために棚ぼた勇者めざします!

風まかせ三十郎

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第39話 響け! スライムの讃美歌

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 夕刻、警察署から帰宅したジイサンの話によると、重体だった園児は、病院に駆け付けたS級治癒師ヒーラーによって命を取り留めたそうだ。

 おねえさんだ、間違いない!

 俺は自分が助けられたときの何十倍も、おねえさんに感謝したよ!
 他の三人はいずれも軽症で、特に問題はないとのこと。
 安堵したのも束の間、ジイサン、明日には市議会に招致されて、市議から喚問を受けるそうだ。
 俺が例のカミソリの件を持ち出すと、ジイサン、目をひん剥いて驚いていたが、--まさか、勇者さんが、そんな。そう言って、俺やパトラの言うことを信じてくれなかった。
 既に牝牛ちゃんの遺体は、警察が検視解剖のため引き取っていて、お尻の傷を見せられねえのが、なんとも残念だ。
 まあ、証拠品のカミソリの刃は、既に魔導士さんから警察へ提出されてるから、検視解剖でお尻の傷が確認されれば、ジイサンに過失はないことが証明されるはずだ。
 ついでに勇者の野郎の犯罪を立証できれば万々歳なんだけど。
 もしそれらが立証できなければ、牛ちゃん牧場は閉鎖。最悪、牝牛ちゃんたちは全頭廃用になる。そんなこと絶対に許せねえ。許してたまるか!

 ■■■

 翌日、俺も警察に呼び出されて事情聴取を受けた。
 俺は必死になってカミソリの一件を調べてくれるよう、刑事さんに訴えたが、--現在調査中。の一点張りで、まともに取り合っちゃくれなかった。それどころか連日の魔生物の犯罪に、警察や自治体は取り締まりの強化を検討していると、その刑事さんは教えてくれた。

 警察署を出ると、パトラが駈け寄ってきた。

「警察はなんて言ってました?」
「それがなぁ、調査中の一点張りで、勇者が犯人だって訴えても、刑事の野郎、聞く耳持たねえんだ」

 俺は取り調べの様子を手短に話した。
 あいつ、肩を落として嘆息した。

「ぼくが証言すれば、勇者を有罪に出来たのに」
 
 パトラは事件現場で、勇者がカミソリの刃を所持しているのを目撃したのだが、魔生物なので証言能力なしと判断されたのだ。
 
 それって魔生物差別だろうが!
 俺はいきどおったね! 頭に血が昇ったよ!
 なんで人間の俺より頭のいいパトラの証言を無視するんだ?
 でも法制度上、あいつの証言は採用できないというのが、警察側の見解だった。
 悔しいけど、異世界ではパトラのような人語を解する魔生物でさえ、人間と対等には扱ってもらえないのだ。

 途中、公園に立ち寄って、書店で購入した週刊誌を広げてみる。
 牛牧場に取材に来た記者さんたちの雑誌だ。
 今回の事件は世間の耳目を集めているようで、三件目の書店でようやく購入できた。
 いきなり巻頭で、大々的に牛牧場の事件が取り上げられていた。
 グラビアページでは、倒れた園児やら、それを助け起こす勇者やらが20ページ以上に渡って掲載されていた。
 
 野郎が、犯人であるはずの勇者が、園児を助けた英雄ヒーローとして扱われている。
 神に選ばれし者という肩書だけで、誰もがやつを疑わねえ。
 今頃は市議会で、ジイサンが勇者の犯罪性を訴えてるはずなんだけど、訴えてる本人が半信半疑なんだから、どこまで信じてもらえるやら、疑問は尽きねえ。

 ■■■

 俺は駄菓子屋へ立ち寄って、駄菓子を購入すると、パトラを伴ってスライムが原へと足を延ばした。
 気分が落ち込んでいたので、気分転換に青スライムと戯れるのも悪くねえ。そう思って駄菓子を手土産に、スライムが原を訪れたんだけど。

 おっ、いたいた。あいつら、地面の上で、細い眼を更に細めて、気持ちよさげに日向ぼっこなんかしてやがる。
 風が吹くと、ぷるんぷるんと身体がプリンのように揺れたりして、体色も青なもんだから、なんか海原のように見えるんだ。
 
 突然、風が止んで、青スライムが揺らぎを止めた。

 ピ~、ピ~、ピ~♪

 それは青スライムの美しい讃美歌だった。
 一匹が音頭を取ると、それに合わせて他の青スライムもさえずり始めた。それは幾重にも折り重なった美しい調べハーモニーとなって、スライムが原に満ち溢れた。

 あっ、あいつら、ハモりやがった! やったぜ、スライム合唱団!

 その小鳥にも似た可愛らしい囀りを聴いていると、心の底から癒される感じで。昨日今日の心労も吹っ飛んだよ。
 パトラなんか目に薄っすらと涙を浮かべてやがる。
 
 やがて美しい調べは止み、風の音だけがスライムが原を吹き抜けた。
 パトラが拍手して、青スライムの美声を讃えた。
 俺はご褒美に、青スライムに麩菓子ふがしを与えることにした。
 イラストが多めの、ちょっと怪しげな魔生物図鑑に、青スライムは駄菓子を好むと書かれていたのだ。
 
 監修、魔生物探検隊。
 
 いや、いい歳した大人が信じちゃいけねえんだろうけど、そう書かれたら、やってみたくなるのが人情だよね?
 で、試しに青スライムの身体に麩菓子を押し付けてみたら、のめり込んだ麩菓子の先端が、細かく砕けて消化される様子が観察できたんだ。
 いや、これ、夏休みの観察日記にうってつけだよ! アサガオの観察なんかよりも、ずっと面白いよ。
 今度は間近にいた小さな青スライムを掌に乗せて、ラムネ菓子を押し付けてみる。身体の中で炭酸のような泡を出して消化される様子が、一服の清涼感を醸し出している。
 別の青スライムに粉末ジュースを振りかけてみたら、頭の部分に気泡が沸き上がるという、爆笑もんの珍現象が観察できた。
 オレ〇ジマーブルガムを与えたら、身体の中で膨らんで、まるで風船みたいに膨張しやがった。
 笛ガムを与えたら、ピーピー、ピーピー、いつにも増して騒がしいこと! 数が倍にも増殖したようだ。
 水飴を与えたら、同質感があるだけに、やはりというか、青スライムの身体の中に、小さな白スライムが同居している感じで、とてもユニークな感じがした。
 梅ジャムを青スライムの頭に垂らしたら、身体全体に広がって全身真っ赤になりやがった。

 いや、面白いよ。これ!

 ソースせんべい、酢こんぶ、ポン菓子、ベビースター〇ーメン、寒天ゼリー、チロルチョコ、紅梅キャラメル……。

 俺は調子に乗って、次々に青スライムに駄菓子を与え続けた。
 パトラも傍らで同じことをやっている。
 青スライムは風に吹かれて、ゆらゆらと楽しげに揺れている。

 さあ、次はおまえだ。

 体長五十センチくらいの青スライムに、かりん糖を与えてみる。
 体内にう〇こが見える様を造形しようというのだ。
 いや、自分で言うのもなんだけど、俺って発想がお子様だよね?
(読者の皆さん、久し振りにツッコんでください!)

 青スライムにかりん糖を差し出した、そのとき、
 突然、青スライムの身体が飛沫しぶきのように砕け散って跡形もなく消し飛んだ。

 えっ!?

 背後から人影が射した。
 振り向くと、そこには勇者が、ハーケン・クロイツァーがアロンダイトを握り締めて立っていた。
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