【完結】四季のごちそう、たらふくおあげんせ

秋月一花

文字の大きさ
6 / 29
春のごちそう

美咲のために 3話

しおりを挟む
「さぁさ、たらふくおあげんせ」

 食卓に並ぶたくさんの春を伝える――山菜料理。

 ほかほかの白いご飯に、納豆汁。ばっけみそにふきのとうやタラの芽の天ぷら、うどの酢漬け。さらにふきの煮物。

「こんなにたくさん……本当にいいんですか?」
「もちろんよぉ。いつもひとりで食べていたから、一緒に食べてくれると嬉しいわぁ」

 ごくり、と喉を鳴らして、彼女は両手を合わせた。

「――いただきます!」

 箸を持ち、納豆汁から口をつける姿を見て、恵子けいこはじっと彼女を見つめる。

 美咲みさきはもぐもぐと咀嚼して、こくりと飲み込むと「おいしー!」と目をきらきらと輝かせた。その言葉を聞いて、恵子はほっと息を吐く。

「良かったぁ」
「けーこばあばの料理って、食べるとなんだかほっとするんだよねぇ。第二の実家的な?」

 くすくすと笑いながら美咲はばっけみそを小さなスプーンで掬い、ほかほかの白いご飯に乗せてぱくりと食べた。

「んー、このしょっぱさと苦味の塩梅あんばい、さいっこう!」

 美味しそうに食べてくれる美咲を見て、恵子の心の中が温かくなる。子どもの頃から、美味しそうに食べる子だとは思っていたけれど……大人になってからも変わっていないようだ。

「あ、そうだ。日本酒を冷やしていたんだけど、どう?」
「え、いいの? 私、チューハイやビール買ってきたよ。一緒にもうと思って」

 あのビニール袋の中身はお酒だったようだ。恵子は立ち上がり、冷やしていた日本酒とおちょこを取り出し――ふと美咲に視線を向け、一瞬悩む。一度日本酒をテーブルに置いてから、大きめのグラスを用意する。

「美咲ちゃん、これでいい?」
「ありがとう、けーこばあば」

 恵子は日本酒の栓を開け、とくとくとグラスの中に注ぐ。たっぷりと。美咲は恵子から日本酒を受け取った。

 美咲も恵子に日本酒を注ぐ。おちょこから溢れないようにそうっと傾け、「ありがとう」と恵子が微笑むと、美咲も笑みを返す。

 日本酒を置いて、栓をしてから美咲はグラスを持ち上げ、恵子もおちょこを持ち上げた。

「それじゃあ、春の恵みに乾杯!」
「乾杯」

 こつんと軽く合わせてから、日本酒をこくりと一口飲む。恵子が思っていたよりも、まろやかな口当たりの日本酒で、目を丸くする。

「……美味しい」
「ほーんと! これ、甘口かな? 辛口ばっかり買っていたけど、こういうのもいいね」

 美咲はグラスを置くと、再び箸を取り今度はふきのとうの天ぷらを食べた。そこからすかさず日本酒を飲む。そしてふるふると肩を震わせた。

「美咲ちゃん?」
「合うー! やっぱり山菜と日本酒の相性は抜群ばつぐんね!」

 ぱっと顔を上げてそう断言する美咲に、恵子は箸を置いて彼女のことを心配そうに眺める。

「……美咲ちゃん」
「なぁに、けーこばあば?」
「無理、していないかい?」

 恵子の問いに、美咲の動きがぴたりと止まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

下っ端宮女のひたむき後宮恋譚 ~前世の夢を追いかけていたらいつのまにか寵愛されていました~

紀本明
キャラ文芸
妃嬪から嫌がらせを受けつつも耐え忍んでいた下っ端宮女の鈴風(りんふぁ)はある日突然前世の記憶を取り戻す。料理人になるのが夢だった彼女は、今世でもその夢を叶えようと決意した矢先、ぼさぼさ頭の宦官・雲嵐(うんらん)と出会い、毎晩夕飯をつくることになる。料理人になるべく奮闘するも、妃嬪からの嫌がらせはひどくなる一方だった。そんなある日、事件が起こり、鈴風は窮地に立たされるが……――?

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~

Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。 閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。 恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。 「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。 ――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。

処理中です...