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1章:アシュリンの旅立ち。
アシュリンの旅立ち。 4話
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「そう、アンディは十二歳の頃に旅立ったから、もう十五歳になっているんだなぁ……月日が流れるのは早いよ」
顎に手を置いて目を閉じたグリシャがうなずく。
兄のアンディは、アシュリンが七歳の頃、本を持って旅立ったことを覚えている。アンディからはたまに手紙が届き、どんな旅をしているのかを教えてくれた。
「おねーちゃんもいっちゃうの……?」
しょんぼりと眉を下げて右手の人差し指を口元に添えるのは、妹のエレノアだ。彼女は五歳で、アンディが旅立ったときはまだたったの二歳。
薄っすらと、アンディのことは記憶にあるらしく、三年前はアシュリンもどこかに行くのではないかとあとを追いかけてきたことを思い出し、彼女はエレノアに近付いてそっとしゃがみ込む。
「行ってほしくない?」
「おねーちゃんいないの、エレノアさびしい……」
くすんと泣き出してしまったエレノアの手を、優しく包み込むように触れると、彼女を安心させるようににっこりと笑ってみせた。
「お姉ちゃんも、エレノアや家族と離れちゃうのはさびしいな」
「じゃあ……」
「でも、行かなきゃいけないの」
本と出会ってから、アシュリンの胸の奥で『世界を見たい』と気持ちが大きくなっていく。――いつか、こんな日が来ることを、予感していた気がする。
兄が旅立った日を、覚えているからだろうか、と考えてポロポロと大粒の涙を流すエレノアの手を離し、代わりにハンカチを取り出して彼女の涙を拭う。
「たくさん、手紙を書くよ。エレノアがさびしくないように」
本当? とエレノアが目で問うので、アシュリンは何度もうなずいた。
きっと、両親はこういう日が来ると知っていて、アシュリンに文字の読み書きを教えていたのだろうと考えて、立ち上がる。
「わたし、旅に出る! どんな『たからもの』を見つけられるかわからないけれど、いろんなところを旅してみたい!」
『そうでしょう、そうでしょう! 旅立ちのときがきました。ともに最高の夢を描きましょう!』
アシュリンが旅に前向きなことを発言すると、今までパタパタと動いていた本がいきなり声を上げた。
本の声は高すぎず、低すぎず、ちょうど良い声だ。だが、男でも女でもない中性的な声で、どこか興奮しているように聞こえるが耳ざわりな声ではなかった。アシュリンは本に手を伸ばす。
呼ばれた、と思ったのか本はすんなりとアシュリンの胸に飛び込んできた。
『私のページをたくさん使ってくださいね!』
「う、うん……。でも、どうやって使えばいいの……?」
「簡単だよ。一日一回、夜に本に触れるだけでいい」
「そうなの?」
「うん。そうすれば、本が勝手にアシュリンの記憶を読み取って、ページが増えていくよ」
「アシュリンだけの物語。旅を楽しんでおいで」
グリシャに本の使い方を聞き、アシュリンはぎゅっと本を抱きしめた。ホイットニーに柔らかい口調で伝えられた言葉に、彼女は一瞬うつむいて、すぐにぱっと笑顔を浮かべる。
「うん、楽しむね!」
顎に手を置いて目を閉じたグリシャがうなずく。
兄のアンディは、アシュリンが七歳の頃、本を持って旅立ったことを覚えている。アンディからはたまに手紙が届き、どんな旅をしているのかを教えてくれた。
「おねーちゃんもいっちゃうの……?」
しょんぼりと眉を下げて右手の人差し指を口元に添えるのは、妹のエレノアだ。彼女は五歳で、アンディが旅立ったときはまだたったの二歳。
薄っすらと、アンディのことは記憶にあるらしく、三年前はアシュリンもどこかに行くのではないかとあとを追いかけてきたことを思い出し、彼女はエレノアに近付いてそっとしゃがみ込む。
「行ってほしくない?」
「おねーちゃんいないの、エレノアさびしい……」
くすんと泣き出してしまったエレノアの手を、優しく包み込むように触れると、彼女を安心させるようににっこりと笑ってみせた。
「お姉ちゃんも、エレノアや家族と離れちゃうのはさびしいな」
「じゃあ……」
「でも、行かなきゃいけないの」
本と出会ってから、アシュリンの胸の奥で『世界を見たい』と気持ちが大きくなっていく。――いつか、こんな日が来ることを、予感していた気がする。
兄が旅立った日を、覚えているからだろうか、と考えてポロポロと大粒の涙を流すエレノアの手を離し、代わりにハンカチを取り出して彼女の涙を拭う。
「たくさん、手紙を書くよ。エレノアがさびしくないように」
本当? とエレノアが目で問うので、アシュリンは何度もうなずいた。
きっと、両親はこういう日が来ると知っていて、アシュリンに文字の読み書きを教えていたのだろうと考えて、立ち上がる。
「わたし、旅に出る! どんな『たからもの』を見つけられるかわからないけれど、いろんなところを旅してみたい!」
『そうでしょう、そうでしょう! 旅立ちのときがきました。ともに最高の夢を描きましょう!』
アシュリンが旅に前向きなことを発言すると、今までパタパタと動いていた本がいきなり声を上げた。
本の声は高すぎず、低すぎず、ちょうど良い声だ。だが、男でも女でもない中性的な声で、どこか興奮しているように聞こえるが耳ざわりな声ではなかった。アシュリンは本に手を伸ばす。
呼ばれた、と思ったのか本はすんなりとアシュリンの胸に飛び込んできた。
『私のページをたくさん使ってくださいね!』
「う、うん……。でも、どうやって使えばいいの……?」
「簡単だよ。一日一回、夜に本に触れるだけでいい」
「そうなの?」
「うん。そうすれば、本が勝手にアシュリンの記憶を読み取って、ページが増えていくよ」
「アシュリンだけの物語。旅を楽しんでおいで」
グリシャに本の使い方を聞き、アシュリンはぎゅっと本を抱きしめた。ホイットニーに柔らかい口調で伝えられた言葉に、彼女は一瞬うつむいて、すぐにぱっと笑顔を浮かべる。
「うん、楽しむね!」
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