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荷造りを終えて 後編
そして、お父さまとお母さまが帰って来てから、レオンハルトさまは出掛けて行った。それを見送り、荷造りの続きを始めようとすると、お母さまに声を掛けられた。
「エリカ、ちょっとこっちに」
手招かれて近付いたら、手首を掴んでスタスタと歩き出す。お母さまの部屋に入り、ぱたんと扉を閉めると掴んでいた手を離し、戸棚から小さな箱を取り出した。
「お母さま? これは?」
「お母さまの家に代々伝わる、アクセサリーなの」
そういうお母さまの声は弾んでいて、首を傾げる。そういう話を聞いたことがなかったから、少し驚いた。
「これはねぇ、お母さまが受け継いだものなのよぉ。祖母から母へ、母から娘へって受け継ぐもの。――嫁ぐときに、渡すものなの」
お母さまは小さな箱の中身を見せてくれた。
「ブローチ?」
オレンジ味のピンク色。美しいその宝石を見て、思わず感嘆の息を吐いた。
「ええ。この宝石にはね、『夫婦のお守り』、『慈愛』、『安心』という石言葉があるのよぉ」
小さな箱からブローチを取り出し、そっと私のドレスにつける。
「――あなたの子が女の子だったら、その子に受け継がせてね」
にっこりと微笑むお母さまに、私はなんだか目頭が熱くなった。お母さまに抱きついて、お母さまたちの娘であることを嬉しく思うことを伝えると、お母さまも涙を流してそれから私の頭を撫でてくれた。
「幸せになりなさい。あなたの幸せが、お母さまたちの幸せなのだから」
小さな子どもに諭すような優しい声。鼻の奥がツンと痛む。こうして私のことを思いやってくれるお母さまと離れて過ごすことになるのが、少し切ない気持ちにさせた。でも、それでも。私は――……
「幸せになります、絶対に」
彼とともに生きることを、望んだ。
顔を上げてお母さまを見る。それから、お母さまはふふっと笑みを浮かべて、「荷造り手伝うわぁ」と言ってくれた。このブローチ、大切にしよう。
自室に向かい、メイドたちとお母さまに手伝ってもらって昨日の続きを始める。私の胸元に付けられたブローチを見たメイドたちが、ほんの少し寂しそうな表情を見せた。
「エリカがここから離れちゃうのが寂しいのよねぇ」
「はい、奥さま」
お母さまの言葉に同意するようにうなずくメイドたち。また目頭が熱くなる。それを誤魔化すように荷造りに集中していたから、思っていた以上に早く荷造りが終わってしまった。
レオンハルトさまに三日あれば、と言ったのに予想以上に早く終わってしまったわ……。と言うのも、「あとで必要になったら手紙をちょうだい」というお母さまの言葉があったからだ。
「エリカはお母さまの子なんだから、いつでも頼ってちょうだいねぇ」
ふわりと笑うお母さまに、私は元気よく「はい!」と返す。離れていても、私は『レームクール』の娘なのだと、伝えてくれているのだろう。
「すぐに向かうの?」
「そうしたいのはやまやまですが……、もう一度陛下たちにお会いしてからが良いでしょうか?」
「うーん、エリカはもうあの人の婚約者じゃないし、大丈夫だと思うけれど……?」
名前も呼びたくないのですね、お母さま。しかもそんなに顔を顰めて。
「結婚式には呼んでちょうだいねぇ」
「もちろん、呼びます。お母さまたちに、見てもらいたいもの」
私が幸せになるところを。だってそれがきっと、最高の恩返しになると思うの。
レオンハルトさまとの結婚式を想像して、思わず顔が赤くなる。そんな私の様子を、みんな見守っていた。
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