傾国の美姫の『影』になりました 後宮の見習い侍女は、主人のために暗躍したい

秋月一花

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2章:新たな知識

陽紗の話。 3話

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 ヨウシャーの口調は淡々としていた。まるで、そのことに関しては、なにも感じていないように。

「……まぁ、それは置いといて、私が知っていることを話すね」

 わざわざチュンヤンメイヨウを部屋に残して、人気のない場所まで移動したのだ。

 彼女たちに聞かれたくない話なのだろうと、シュはごくりと生唾を飲み込む。

「……そこに、あるの」
「ある?」
「亡くなった人の、身体が」

 陽紗が人差し指で、朱亞の後ろを指す。

「えっ?」

 朱亞が振り返り、指の先の視線で追った。

 まだ明るいが、ぼんやりとがいることがわかった。青火ではない。ただ、ぼんやりと……人の姿をした、が。

 朱亞は息を呑み、ばっと勢いよく陽紗を振り返る。

 彼女はあわれみのまなざしで、その『人の姿をした』を見つめていた。

 深呼吸をしてざわつく心を少し落ち着かせてから、朱亞は陽紗とぼんやりしたものを交互に見やり、目を凝らして姿を確かめようとする。

 段々と、姿がはっきりとわかってきた。

 陽紗と同じような服を着た女性。

 耳を澄ませると、すすり泣く声もしっかりと聞こえた。

「この人は、いったい……?」
「わからないけれど、ずっとそこで泣いていたの。まだ幼い私が見つけてから、ずっとそうなのよ」
「ずっと……」

 陽紗がどのくらい前から後宮で暮らしていたのかは、知らない。

 だが、幼い頃から後宮にいたということは、長い間この女性はすすり泣いていたことになるのでは? と朱亞は襟元をきゅっと掴む。

「……あの、どうして、泣いているのですか?」

 すすり泣いている女性の幽霊に近づき、朱亞は話しかける。

 それに目を見開いたのは陽紗だ。

 まさか、話しかけるとは思わなかったから。

『……わたしが、えるの? 声が聞こえるの?』

 こくり、とうなずいた朱亞をじぃっと凝視して、女性の幽霊はパァッと表情を明るくさせた。

 ずっと泣いていたとは思えないほど、明るい笑顔を浮かべる幽霊を見て、朱亞も微笑んだ。

 その様子を呆然と眺めていた陽紗は、すぐにこほんと咳払いをして、朱亞の隣に立つ。

『この子もわたしのことが視えるの? 声はどうかしら?』
「視えるし、聞こえます。……朱亞もそうなのね」

 こくりと朱亞が首を縦に動かすと、陽紗はほっとしたように息を吐いた。

『ところであなたたち、どうしてここに来たの? わたしたちが埋められた場所に、なにか用が?』
「う、埋められた?」

 不思議そうに朱亞たちに尋ねる幽霊と、ぎょっとしたように目を丸くする朱亞。

 陽紗は、「たち?」と辺りを見回した。

『わたしにとっては昨日のことのようだけど、あなたたちにとってはきっと、ずっと昔のことになるんでしょうね。ああ、わたしはスイランというの。……なんて、死んじゃったからもう呼ばれることのない名前なのだけど』

 はぁ、と大きなため息を吐く翠蘭に諦めを感じ、朱亞と陽紗は顔を見合わせた。

 朱亞たちはまだ、彼女になにも話していない。

 話していないけれど、彼女はぺらぺらと話し始めた。
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