傾国の美姫の『影』になりました 後宮の見習い侍女は、主人のために暗躍したい

秋月一花

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2章:新たな知識

陽紗の話。 4話

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『私はね、本当は嫌だったのよ。あの子が陛下に愛されるの。だって、私たち妃じゃなくてただの宮女よ? どんなことが待っているかなんて、想像がつくじゃない。そう、そうなのよ。あの子のお腹が大きくなっちゃったのよ』

 スイランはさめざめと涙を流しながら、声を震わせた。

 幽霊の涙はどこにいくのだろう? とぼんやり考えながら、こぼれ落ちる涙の行方を追う。

 ぽたりと地面に落ち、そこだけ地面の色が濃くなった。

 そのことに気づき、シュは翠蘭と地面に視線を交互に移す。

『あの子はお腹の子を守った。わたしたちも協力して妃たちにバレないようにしていたのに……結局明るみに出ちゃったのよ。どこから噂が回ったのかしらね。産まれた子が男子だったのも災いしたのよ。妃が怒ってしまって赤ん坊は命を奪われたし、母親の宮女は毒を飲んで自害したわ。……ううん、自害を選択させられた。わたしたちも同じよ。そしてこの場所に埋められたの。みんな一緒にね。でもね、なぜかわたしだけここに残っちゃった。なんでかなぁ……』

 話しているうちに当時のやるせない気持ちがよみがえったのか、翠蘭はどんどんと早口になっていった。

 最終的にしょんぼりと俯いてしまった彼女に手を伸ばしたが、触れることはできなかった。朱亞の手は、翠蘭の身体をすり抜けたからだ。

 びっくりして動きを硬直させるのと同時に、改めて彼女は『この世ならざるもの』なのだと実感が湧いてきた。

『他の子たちはいなくなったり、仲間が増えたりを繰り返していたんだけどね……そういえば、昨夜一気に減ったような……?』

 なにか知っている? とばかりに視線を向けられて、朱亞は降参したように両手を挙げた。昨夜のことなら、心当たりがある。

『あなたなの?』
「ええと、昨夜のことなら、はい」
『あらまぁ、すごい力を持っているのねぇ。ご両親は道士や仙人かしら?』
「私、捨て子だったので、両親のことを知りません」

 朱亞が眉根を下げると、翠蘭は『あ、ごめんなさい』と謝罪を口にし、その会話を聞いていたヨウシャーが眉間に皺を刻んで左手を額に置いた。

 考えをまとめているようだ。

「ええと、まずは……あなたは何年前に亡くなったの?」

 疑問に思っていたことを尋ねる陽紗を正視して、翠蘭は首をかしげる。

 頬に手を添えて、こてんと今度は反対側に首を動かす。陽紗はじっと彼女の服を確認する。今よりは昔の服装に見えた。

『覚えていないわ。だって、もうずっと前のことなんだもの』

 きょとりとした表情を浮かべる翠蘭。陽紗は、助けを求めるように朱亞に視線をやった。

「そんなに前の話なのですか?」
『ええ。でもね、今でもはっきりと自分が死ぬ感覚を思い出せるのよ……はぁ』

 大きなため息を吐いて、翠蘭は空を仰いだ。
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