でんじゃらすでございます

打ち出の小槌

文字の大きさ
115 / 177
第六章 百地のからくり

(一)ぶちりに挑む

しおりを挟む
護摩の檀に火が入った。
ごうごうと瞬く間に燃え上がる。
今日は昨日よりも壇を高く積みあげていた。
空はまだ明けきらぬ薄暗いなか、天を焦がすような勢い。
「さあて、これまでは小手調べ。いまからが、ほんとの祈りになる、踊りになる」
桃々がぺんと顔を張った。
巫女姿の小桜が手を取る。
浜には湊のものがずらり。こんななかでも屋台がちらほらあった。
「祭りなら楽しいけど」
そういう小桜に、桃々は笑う。
「祭りだよ。少し早いお盆かね」
なるほど、もやに透けたおかっぱ髪の子の姿がある。なにやら楽しげであった。
「ところで、踊りは長丁場となる。演目はいけるかい」
「はい。祈りに合わせて、うちの小雪と座長を交互に昼まで二つ、夕に二つ」
「ただ、勝手は違う。無理はやめとくれよ」
「桃々さまこそ。おひとりですよ」
ちらと山側を仰ぐ。
「紅桃と白桃が戻るまでさ。そう、お狸どのが馬で迎えにいったって。すまないね」
えっ、ええと小桜は苦笑い。
「もっとも、命を張ってるのは」
海を見据えた。
「いまは、どのへんでしょう」
桃々は応じず、一歩踏み出した。
「とうの祈りで勝ちをとる」
はいと、小桜もつづいた。

ざぷり。
波は静かであった。しずしずと船はすべってゆく。
もやは、いつにまにか霧となっていた。よりはっきりと、死人が笑っている。霧のなかにうごめいていた。
ぎいと、ゆれた。
「おっ、親方」
肩や胸に刺青を入れた、狛犬のようなつらの水夫が呼んでいる。
「なんだ、こんどは厠におばけか」
立波がしゃらくさそうにいう。
「いや、みょうに馬が暴れて、お札がぺたりと貼れねえので」
「おい、せっかく桃々さまからの馬だ。これで山道も楽になるというのに憑かれたらどうする。お札も狸の船から、やっとこさ搔き集めたものだ」
「でも」
「べたべた貼るから、嫌なのだろうが」
「あっ」
「とっとと、貼ってこい」
へいと、船蔵へ下りてゆく。
まったくと、立波は帆柱を叩いた。
「なんでも、みょうなもののせいにするな。もっとも、みょうといえばみょうか」
そのまま空を仰いだ。
「北の星。なら方角は島までまっしぐら。この霧で危なげもない。まるで、おいで、おいでと手招きするか」
船の先でも、阿国がひとり空を仰いでいた。片手には濁酒入りの瓢箪がぶらぶら。そこへ船蔵から百学が上がってきた。手には炒り豆入りの皮袋がある。
「はい、あてがあったほうがいいでしょう」
「豆か、いいね。それであんたはいいのかい。寺の尼さまたちが腕によりをかけて、海老やら鯛やらのお弁当をこさえてくれた。たんと食べたかい」
あはっと笑って腹を叩く。
「たっぷり。でも、才蔵さんとあにさまは、まだがつがつ。鈴々さんは呆れて、あれでは腹がつかえて走れやしないって」
あははと阿国は笑う。
「それにしても、ありがたい。山盛りのお弁当に、馬を三頭も。腹ごしらえに足までつけてくれた。そうそうおまけにね、おちびどもが忍法とんずらってさ」
「とんづら」
懐から、手のひらほどの、小ぶりな瓜がひとつ。
「これのどこが」
「みてごらんな。中がくり抜かれて、小さな蓋がしてある」
「さては、なにか詰めてぶつけるのですね」
「灰やら、辛子の粉がいいそうだ。追ってくる山犬なんぞから逃げるものってね。薄く皮を残すから、うまく削らないと破れる。けっこう骨が折れるって。いまは、これしかないけどやる。鬼に喰われんなって、ふんぞり返っていわれたよ」
阿国と百学は大笑い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

山本五十六の逆襲

ypaaaaaaa
歴史・時代
ミッドウェー海戦において飛龍を除く3隻の空母を一挙に失った日本海軍であったが、当の連合艦隊司令長官である山本五十六の闘志は消えることは無かった。山本は新たに、連合艦隊の参謀長に大西瀧次郎、そして第一航空艦隊司令長官に山口多聞を任命しアメリカ軍に対して”逆襲”を実行していく…

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...