でんじゃらすでございます

打ち出の小槌

文字の大きさ
128 / 177
第七章 紅白さまのお札

(一)小雪、してやったり

しおりを挟む
ひゅるる。ひゅるる。
風が舞う。鉛色の空がいまにも泣きそう。
それでも、貝塚の浜はみなが巫女踊りに合わせて唄い踊る。祭りじゃ、祭りじゃと、賑わってていた。めざとく、うどんに蕎麦に味噌田楽と屋台まで出ている。幼子ははしゃぎ、爺さま婆さまもてんてこ舞い。
いつしか霧も切れ々となっていた。
ふと、行列が近づいてくる。派手に着飾った法師たちがしずしずと進む。たなびく幟には京極寺の御坊、京林和尚とあった。
そこから、ほど近い処にある松林に小ぶりの船荷の蔵がぽつりとあった。
扉は開いている。
なかには神妙な顔つきの水夫ども。
燭台が揺らめき、奥には阿弥陀如来像。その前で紅白寺の桃々が朗々と経をひとしきり。ついで巫女姿の小雪がぱらぱらと水夫どもに塩をふりかけた。
「うむ。よかろう」
おおっと、水夫どもは胸をなでおろすや、礼もそこそこに酒じゃ、踊りじゃと浜へ飛び跳ねるように駆けていった。
「すまねえな」
ぶらりと立波の親方が入ってきた。
「せっかくの昼のひと休み。わしらでつぶしたか」
「なんの。おびえたままでは船は出ぬ。いまひとたび出してもらわねばの。心強くあれば死人に迷わされぬ。とうの祈りがまやかしでも、励ましとなればよい」
小雪が扉の外をのぞく。
「そうでしょうか。力はないのでしょうか。こんなにも霧が薄いではありませぬか」
桃々は笑う。
「とうではない。みなの心が励まされ、その勢いに押されたのよ。それと」
「それと」
「なにやら、あたふたしておる」
「とは」
「ふふ。むこうで、なにかやらかしておるや」
なにかとはと小雪がいいかけたところで、どやどやと若葉と二葉がやってきた。
「おひる、おひる」「お弁当、お弁当」
風呂敷に包む五段のお重を両手に若葉と、太い瓢箪と杯を手にした二葉。もう、否応もなく蔵の真ん中で、風呂敷を広げてはお重を並べてゆく。
「さあ、おひる」「いっぱいこさえた。まず瓢箪をどうぞ」
「酒か」
立波から笑みがこぼれた。
「でもいいのか。あっちは、まだ踊ってるだろう」
「小桜座長、つがれたお酒はみんな呑むの」「そのうち、酔っぱらってからんでくるから、いまのうちにおひるすませて呼んできとくれって。一座のみんな」
あちゃっと小雪は頭を抱える。わしは笑えぬと立波は笑った。
ふいに、若葉が小首を傾げた。
「ここは、蔵なの、お寺なの」
むすびをほうばった二葉の目が丸くなった。
ろうそくの灯がゆらゆら。
窓はない。
扉を閉めて、灯が消えたら、とたんに真っ暗な闇に呑まれる。
おえっとなった。
「なんてつらをする」立波がわっはっはと笑う。
あらあらと、小雪が二葉の背をなでた。
「わしらは縁起を担ぐもの。ここでみそぎをして船に乗るのよ」
「みそぎ」
若葉と二葉はきょとんとなった。
桃々は手酌で瓢箪の酒をくいと呑む。
「つまり、お清め」
うなずく小雪は、やたらおっきいむすびを立波にはいと渡した。桃々は酒を立波と小雪にすすめる。そこからはお重を囲み酒盛りとなった。
「さて、それで迎えの船の手配りはいかに」
「まかせな。あとは、船のものがおびえるか、どうか。いっそのこと、桃々さまがいてくれたらな」
いえいえと小雪がいう。
「桃々さまがいないと、浜のひとはもたない」
立波はうなずき、杯を呑み干した。
とたん、わあっと叫び声がする。
だしぬけに、わらわらと紅白屋のおちびたちが蔵へ飛び込んできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~

四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】 美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。 【登場人物】 帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。 織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。 斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。 一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。 今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。 斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。 【参考資料】 「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社 「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳)  KADOKAWA 東浦町観光協会ホームページ Wikipedia 【表紙画像】 歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...