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最終章 阿国、跳ぶ
(六)迫りくる丹波
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ちぎれ雲が流れてゆく。
そのくせ、ときおり雨がぱらぱらとあった。
丹波はひょうひょうと逃げてゆく。
ともかく才蔵は追った。心にはやや焦りがある。ぴりっと、あのお札が千切れた。
いつ、茜の空となるのやら。
「尻に火がついてる。でも、やつも火がついてないのか。巫女をあきらめたのか」
そうして、焼けた奥の院まで追いかけてきた。
なにげに滑稽でもあった。
姿はひでりでも、走りっぷりは丹波。その、ちぐはぐさがなにか引っかかる。なにか糸口になるような、ならないような。
それを、おつむでひねる間はなかった。
だしぬけに、どおっと爆音がして辺りは紫の煙に包まれた。
わっと、煙から逃れようと跳ねる。すかさず手裏剣が飛んでくる。すんででかわして焦げた柱を盾にした。
くぐもった笑いがあった。
「さあ、ここならなんでもやれる。忍びの技をふるいにふるえ。わしを攻めてみよ。それとも、巫女の横槍がないとおじけるか」
ほざけっと才蔵は叫んだ。
「やってやるとも」
いうやいなや、こんどは才蔵が玉を放った。三つ、四つと、玉はつづけざまに爆発する。とたん、辺りはもうもうと白煙が立ち込めた。
「くらえ、霧隠れ」
これで才蔵は白煙にまぎれる。そして、丹波がなにをするにしても煙のゆらぎが起こるので、そこをねらう。この忍の技で、どれほどつわものを打ち破ったか。
ところが嘲笑ってる。
「霧に隠れるか。なれど、ここで霧が濃くなれば、なにが起こる」
白煙に、ぼんやりとしたものが浮かぶ。
よもやと才蔵は冷やりとなる。
「ほれ、あの世となった」
なにっと、顔を上げたその目の前を、ふわりとお婆の生首がすり抜けた。さらにぬうっと焼かれた坊主に、さわりと手を伸ばす半ば白骨の童やら。
けたけたと笑い声がする。さめざめと泣き声がする。ののしりや悲鳴まで次から次へと湧き起こる。もはや、立ちすくむしかなかった。
まるで、湊のときのような。霧が濃くなれば死人がまざまざとなる。
「はめられた」
才蔵は悟った。これのために、おいらをあおって忍びの技を使わせたのか。
どこかで冷えた笑いがする。
かっとなるのを抑えた。これで慌てたら、そこをねらわれる。こいつらは、あくまで死人にすぎない。掴みかかったり、まして太刀で斬りつけたりしない。
おちつけ。
叱咤するも、のぞき込む、あの、ましらにぞっとしないわけにはいかなかった。
ふと過った。
「もしも、姉さんならどうする」
その数歩先で白煙にゆらぎがあった。
「あの、阿国とやらか」
しばし嘲笑う。
「その阿国も、ほかのものも、いまごろは死人となっておる」
「はったりか」
「どうかな。あやつには、なすすべなどない」
「あやつ」
「ぶちり、というより、神か。なんでも出来る」
ぞくりと背筋が寒くなる。わっと叫ぶと跳ねていた。そのゆらぎめがけ、かちわりを抜き突っ込む。そこにまぎれもなく居た。
丹波が、にやっと笑う。
才蔵ははっとなった。
あと半歩の処で、床が抜けた。
そのくせ、ときおり雨がぱらぱらとあった。
丹波はひょうひょうと逃げてゆく。
ともかく才蔵は追った。心にはやや焦りがある。ぴりっと、あのお札が千切れた。
いつ、茜の空となるのやら。
「尻に火がついてる。でも、やつも火がついてないのか。巫女をあきらめたのか」
そうして、焼けた奥の院まで追いかけてきた。
なにげに滑稽でもあった。
姿はひでりでも、走りっぷりは丹波。その、ちぐはぐさがなにか引っかかる。なにか糸口になるような、ならないような。
それを、おつむでひねる間はなかった。
だしぬけに、どおっと爆音がして辺りは紫の煙に包まれた。
わっと、煙から逃れようと跳ねる。すかさず手裏剣が飛んでくる。すんででかわして焦げた柱を盾にした。
くぐもった笑いがあった。
「さあ、ここならなんでもやれる。忍びの技をふるいにふるえ。わしを攻めてみよ。それとも、巫女の横槍がないとおじけるか」
ほざけっと才蔵は叫んだ。
「やってやるとも」
いうやいなや、こんどは才蔵が玉を放った。三つ、四つと、玉はつづけざまに爆発する。とたん、辺りはもうもうと白煙が立ち込めた。
「くらえ、霧隠れ」
これで才蔵は白煙にまぎれる。そして、丹波がなにをするにしても煙のゆらぎが起こるので、そこをねらう。この忍の技で、どれほどつわものを打ち破ったか。
ところが嘲笑ってる。
「霧に隠れるか。なれど、ここで霧が濃くなれば、なにが起こる」
白煙に、ぼんやりとしたものが浮かぶ。
よもやと才蔵は冷やりとなる。
「ほれ、あの世となった」
なにっと、顔を上げたその目の前を、ふわりとお婆の生首がすり抜けた。さらにぬうっと焼かれた坊主に、さわりと手を伸ばす半ば白骨の童やら。
けたけたと笑い声がする。さめざめと泣き声がする。ののしりや悲鳴まで次から次へと湧き起こる。もはや、立ちすくむしかなかった。
まるで、湊のときのような。霧が濃くなれば死人がまざまざとなる。
「はめられた」
才蔵は悟った。これのために、おいらをあおって忍びの技を使わせたのか。
どこかで冷えた笑いがする。
かっとなるのを抑えた。これで慌てたら、そこをねらわれる。こいつらは、あくまで死人にすぎない。掴みかかったり、まして太刀で斬りつけたりしない。
おちつけ。
叱咤するも、のぞき込む、あの、ましらにぞっとしないわけにはいかなかった。
ふと過った。
「もしも、姉さんならどうする」
その数歩先で白煙にゆらぎがあった。
「あの、阿国とやらか」
しばし嘲笑う。
「その阿国も、ほかのものも、いまごろは死人となっておる」
「はったりか」
「どうかな。あやつには、なすすべなどない」
「あやつ」
「ぶちり、というより、神か。なんでも出来る」
ぞくりと背筋が寒くなる。わっと叫ぶと跳ねていた。そのゆらぎめがけ、かちわりを抜き突っ込む。そこにまぎれもなく居た。
丹波が、にやっと笑う。
才蔵ははっとなった。
あと半歩の処で、床が抜けた。
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