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第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編
2-2.ふわトロもふもふと森の狩人
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テーブルの上を片付け、出来上がったオムレツの皿を並べる。その間もキールから少し離れた場所で、ケモノ耳がピクピク動く。部屋の陰で様子を伺う様子は、何やら小動物のようにも見える。
「さ、出来たよ。……おいで」
手招くと、少女はピクリと身体を震わせる。オムレツとキールを見比べ、戸惑うように尻尾を揺らす。ここで焦っては全てが無意味になってしまう。キールは微笑みを浮かべつつ、少女が近づいてくるのを待つ。
「……うー……」
「食べないのかい? うーん、じゃあ、僕が先に食べてしまうよ? あー、あったかくて美味しそうだなー?」
作戦変更だ。キールは少女の方に意識を向けながら、自分だけ椅子に座り食事を開始した。
軽く手を合わせ、ナイフとフォークを手に取ってみる。ピクピク、耳が何やら反応し始めた。ナイフで軽くオムレツを裂くと、とろり、と溶けたチーズとふわトロの卵が流れ出す。優しく湯気が立ち上り、なんとも言えないクリーミーな匂いが周囲に満ちて行く。
我ながら美味しそうだ。キールは満足げに笑い、オムレツをナイフで切って口に運ぶ。その瞬間、ふわトロ卵の口当たりとチーズの濃厚さが口内を刺激し、キールは思わず感嘆の声を上げた。
「んー……美味し」
「うっ! やぁっ!」
小さな手がキールの袖を引く。視線を動かせば、そこには目をキラキラと輝かせた子供がいた。尻尾が待ちきれないようにパタパタと揺れている。作戦成功。にこりと笑うと、キールは少女を向かいの席に座らせる。
すると、待ちきれないように少女が手掴みしようとした。しかしそれはどう考えても火傷する。慌てて手をそっと押さえると、獣の耳が悲しげに伏せられた。
「うー……?」
「ごめんね、さすがにまだ熱いから……ちょっと待っててくれるかい?」
一度小さな頭を撫で、キールはナイフとフォークでオムレツを切り分けてやる。そして身振りでフォークで刺して食べるようにと伝えてみた。少女はじっとキールの動きを見つめた後、渡されたフォークを握りしめ——言われた通り、オムレツをぶっ刺して口に運び始めた。
「そう、上手だね。おいしい?」
「んーっ……んっ!」
前のめりになりながら、少女は夢中でオムレツを食べ続ける。動く耳と尻尾が喜びを表しているようで、キールは思わず笑みを浮かべていた。
こんなに喜んでくれるなら、作った甲斐があったと言うもの。少女を見つめるキールは、満たされたように穏やかな表情を浮かべた。
やさしい時間。それはそんなに難しいものではなく、日常のひと時の中に存在するものなのかもしれない。温かい食事、食卓を囲んでくれる誰か——たったそれだけの存在が愛おしく、なぜか切なくもなる。
穏やかな面持ちは、青年の中にある寂しさも露わにする。失ったもの、戻れない場所。大好きだったそれらを切り捨てた理由など、今となっては意味のないことだと気付いている——
「——邪魔するぞ」
穏やかな時間は唐突に断ち切られた。声とともに玄関扉が開き、そこからずかずかと誰かが上がり込んでくる。キールは驚くこともなく顔を上げたが、当然少女はそういくはずもなく。びくりと身体を震わせ、そのまま奥の部屋に駆け込んで行ってしまう。
「なんだ、いつからここは動物園になったんだよ?」
「ルパートさん……あなたいつも突然来ますよね……」
キールが乾いた笑みを浮かべる。だがそんな反応にも臆さず、弓矢を背負った彼——猟師ルパートは、唇の端を持ち上げ不敵に笑って見せたのだった。
「さ、出来たよ。……おいで」
手招くと、少女はピクリと身体を震わせる。オムレツとキールを見比べ、戸惑うように尻尾を揺らす。ここで焦っては全てが無意味になってしまう。キールは微笑みを浮かべつつ、少女が近づいてくるのを待つ。
「……うー……」
「食べないのかい? うーん、じゃあ、僕が先に食べてしまうよ? あー、あったかくて美味しそうだなー?」
作戦変更だ。キールは少女の方に意識を向けながら、自分だけ椅子に座り食事を開始した。
軽く手を合わせ、ナイフとフォークを手に取ってみる。ピクピク、耳が何やら反応し始めた。ナイフで軽くオムレツを裂くと、とろり、と溶けたチーズとふわトロの卵が流れ出す。優しく湯気が立ち上り、なんとも言えないクリーミーな匂いが周囲に満ちて行く。
我ながら美味しそうだ。キールは満足げに笑い、オムレツをナイフで切って口に運ぶ。その瞬間、ふわトロ卵の口当たりとチーズの濃厚さが口内を刺激し、キールは思わず感嘆の声を上げた。
「んー……美味し」
「うっ! やぁっ!」
小さな手がキールの袖を引く。視線を動かせば、そこには目をキラキラと輝かせた子供がいた。尻尾が待ちきれないようにパタパタと揺れている。作戦成功。にこりと笑うと、キールは少女を向かいの席に座らせる。
すると、待ちきれないように少女が手掴みしようとした。しかしそれはどう考えても火傷する。慌てて手をそっと押さえると、獣の耳が悲しげに伏せられた。
「うー……?」
「ごめんね、さすがにまだ熱いから……ちょっと待っててくれるかい?」
一度小さな頭を撫で、キールはナイフとフォークでオムレツを切り分けてやる。そして身振りでフォークで刺して食べるようにと伝えてみた。少女はじっとキールの動きを見つめた後、渡されたフォークを握りしめ——言われた通り、オムレツをぶっ刺して口に運び始めた。
「そう、上手だね。おいしい?」
「んーっ……んっ!」
前のめりになりながら、少女は夢中でオムレツを食べ続ける。動く耳と尻尾が喜びを表しているようで、キールは思わず笑みを浮かべていた。
こんなに喜んでくれるなら、作った甲斐があったと言うもの。少女を見つめるキールは、満たされたように穏やかな表情を浮かべた。
やさしい時間。それはそんなに難しいものではなく、日常のひと時の中に存在するものなのかもしれない。温かい食事、食卓を囲んでくれる誰か——たったそれだけの存在が愛おしく、なぜか切なくもなる。
穏やかな面持ちは、青年の中にある寂しさも露わにする。失ったもの、戻れない場所。大好きだったそれらを切り捨てた理由など、今となっては意味のないことだと気付いている——
「——邪魔するぞ」
穏やかな時間は唐突に断ち切られた。声とともに玄関扉が開き、そこからずかずかと誰かが上がり込んでくる。キールは驚くこともなく顔を上げたが、当然少女はそういくはずもなく。びくりと身体を震わせ、そのまま奥の部屋に駆け込んで行ってしまう。
「なんだ、いつからここは動物園になったんだよ?」
「ルパートさん……あなたいつも突然来ますよね……」
キールが乾いた笑みを浮かべる。だがそんな反応にも臆さず、弓矢を背負った彼——猟師ルパートは、唇の端を持ち上げ不敵に笑って見せたのだった。
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