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14年目の永遠の誓い
7.修学旅行3
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「ハル、……ハル、朝だよ」
初日の夜、夕食の後にハルの様子を見に来たけど、ハルは眠っていた。ハルはオレが部屋を出た後、程なく眠りに落ち、そのまま朝まで眠っていたと言う。
大丈夫と思いつつも聞いてみると、夜の薬はもちろん起こして飲ませたとのこと。そりゃそうか。
「ハールー、朝だよ~」
間もなく朝食の時間。それが終わると、班での自由行動が開始される。
体調が悪いのなら、ここで休んでいれば良い。朝食も部屋でおかゆか何かをもらえば良い。
だけど、ハルがこの自由行動を楽しみにしていたのを、オレは知っている。朝の薬も飲まなきゃいけないし、ハルを起こすべく声をかける。
里実さんがいるから、オレは必要ない? なんて後ろ向きなことは考えないことにしてる。
「ハル、おはよう」
数度声をかけた後、ハルのまぶたがふるりと震え、ハルはぱちっと目を開けた。
「……カナ?」
ハルは不思議そうにオレを見て、それから辺りの景色を確認した。
病院でだったり、自室でだったり、寝起きにオレがいるのにはハルは慣れている。だけど、旅館の一室という状況には一瞬、混乱したらしい。
ハルのじいちゃんちは完全に伝統的な日本建築だけど、ハルが泊まる部屋だけは洋風にしつらえてある。もちろん、寝るのは布団ではなくベッド。
「おはよう。修学旅行二日目だよ」
オレが言うと、昨日のことを思い出したようでハルはふわっと笑顔を見せた。
「おはよう」
それから、身体を起こそうとするので手を貸した。
「ありがとう」
にこりと笑うハルは、思っていたよりずっと元気そうで、オレはホッとして、ハルの頰におはようのキスを落とす。
そのまま、ハルをぎゅうっと抱きしめる。
うっとりとハルを堪能していると、後方からコホンと咳払いの音。
「あ」
忘れてた。
「朝から、見せつけてくれるわね~」
里実さんは爽やかに笑い、里美さんの存在をすっかり忘れていたらしいハルは、真っ赤になってうつむいた。
オレは
「貸しませんよ? 帰ってから旦那さんと楽しんでください」
と言って、ハルを抱く腕に力を入れる。
里実さんは爆笑、ハルからは「カナのバカァ」という不名誉な言葉を頂戴した。
その後、ハルはオレと一緒に食堂に行き、一人別メニューで用意してもらった卵がゆを食べた。
思いの外、元気そうなハルに、志穂と斎藤はもとよりクラス全員が喜んだ。
出発前には誰が提案したのか、うちのクラスだけが旅館前で記念撮影。
カメラの中身を確認して、「この写真全員に送るから!」のクラス委員のかけ声で、ようやく解散。
担任の「気をつけろよ! 羽目外しすぎるなよ!」の言葉に見送られ、他のクラスから少し遅れて出発した。
少しなら羽目を外しても良いんだろうか、と思ったのはオレだけじゃないに違いない。
◇ ◇ ◇
里実さんは旅館で待機。
ハルの体調次第では同行予定だったけど、
「絶対にムリしないこと。具合が悪くなったらすぐ帰ってくること」
という注意だけで、班行動がOKになった。
加えて、密かにオレは、もしもの時に駆け込む病院名と連絡先を聞かされている。
ハルは万全の体調ではないけど、四人だけで班行動ができるってのは、オレたちの中では最高に近い状況。
「じゃ、行こうか!」
志穂の元気な声で、自由行動がスタートした。
最初の移動は路面電車。
新幹線より揺れるのは間違いない電車という乗り物。それだけに心配していたけど、ハルはゆっくり流れる景色を楽しむ余裕すらあり、正直ホッとした。
数駅乗って、向かう場所は天主堂。ハルが一番行ってみたいと言っていた場所。
「え? わたし、斎藤くんと乗るの?」
志穂が指さす先には人力車。
坂道をハルが歩いて移動するのはムリってことで、予約済み。
「そうそう」
「えー。陽菜と女同士で……」
と志穂がハルの腕を取る。
「体重バランス考えろって」
オレがすかさず言うと、斎藤も「確かに」とうなずいた。
志穂はオレと斎藤、それからハルの三人の間に視線をさまよわせた後、唇をとがらせつつも、
「りょうかーい」
と言った。
何しろ、オレも斎藤も身長百八十センチ超。重さを考えても座席の広さを考えても、男女ペアにするのが道理だろう。
……本当はただオレがハルと乗りたいだけだけど。
だから男女でペアになると、左右のバランスが悪い気がするのは、気のせいって事にしておいた。
「すごいね、カナ」
人二人乗せて坂を登る車夫を見て、ハルが目を丸くする。
「すごい力だよな?」
「なんか……降りなきゃ申し訳ないみたい。車だけでも重いのに」
確かに、すごい筋肉使ってるの見えるし、かなり汗をかいてるのが分かる。
「けど、ハル、それを言ったら、人力車の需要なくなるから」
と思わず笑うと、ハルも「そっか」と笑った。
それを聞いた車夫のお兄さんも、
「そうそう! 気にせず、せっかくだから楽しんで!」
と声を上げた。
人力車は思いの外乗り心地が良く、見晴らしも良くて、頰をなでる風が気持ち良かった。
風のおかげかハルも酔うことなく、無事、目的地に到着。
「気持ちよかったねー!」
志穂がハルの手を取る。
だから、その手はオレのだって……と主張しようとしたところで、後ろから声をかけられた。
「あ、ずっりー、なに、叶太、人力車なんか乗ってるの」
同じクラスの別の班のヤツら。男ばかりの四人組、幸田和樹他3名。正直、ちょっとむさ苦しい。
クラスの雰囲気が良かったからか、自由にさせてもらえた班決め。
大半は男だけ、女だけで、男女混合になったのは数班だけだった。
「サイコーに気持ちいいぞー。お前も後で乗ったら?」
「そんなに? じゃあ、帰り便で乗せてもらおうかな……」
「あ、これはダメ。貸し切り中。別の頼んで」
「うわ、ムカツク。なに、それ」
和樹が笑いながら、オレをこづいた。
確かに高校生が人力車貸し切りって、結構リッチだ。だけど本気で怒ってる訳じゃない、ただの冗談なのに、ハルが隣で申し訳なさそうな顔をして、口を挟んだ。
「ごめんね」
ハルの言葉と申し訳なさそうな表情に、ようやく人力車の理由を悟ったらしい。
和樹はしまったという顔をした。
「あー、なるほど。ハルちゃん、歩くの苦手だもんな」
「うん。……この坂はちょっとムリそう。人力車お願いしておいて良かった」
「だよな。うん、しっかり活用して。ムリすんなよ?」
和樹がハルの頭に手を伸ばし、髪に触れる前に、オレがぺしんとはたき落とした。
それを見て、ギャラリーは、
「幸田、おまえ、分かっててわざとやってるだろ」
と吹き出した。
「叶太も相手にすんなよ」
「なあ? 少しくらい触らせてくれたって、良いよな? 減るもんじゃなし」
「……減るし」
「え! 叶太の愛情が!?」
わざとらしく、和樹が大げさに驚いた顔をする。
「それは1ミリたりとも減らないからっ!」
オレが速攻言い返すと、ハルを除く全員が大笑い。
「も……やだ」
ハルだけがオレの背中にしがみついて、顔を隠した。
そう言えば……、と他三名のうちの一人が後ろを振り返り、指さした。
「牧村、この階段もかなりキツイけど、……大丈夫?」
指の先には、長い長い石造りの階段。それに目をやり、ハルは眉根を潜めた。
「三階分、くらい……かなぁ? が、学校で一年の教室に行くと……思ったら、何とか」
うちの高校の校舎は古くてエレベータが設置されていない。一年生の教室は三階にあり、去年一年間、ハルは毎朝、毎夕、途中で何度か休みつつ、その階段を上り下りしていた。三階分を一気に上がりきれず、途中で休むハルの姿は、割と良く目撃されていた。
「あ、階段はオレがおぶってくから大丈夫」
「え?」
三階だろうが二階だろうが、ハルの具合が悪い時には、オレが保健室まで抱いて運んでいる。今日もお姫様抱っこでもかまわないけど、それも微妙かなと思って、おんぶを提案。
はなから、こんなキツイ階段をハルに上らせる気はない。
学校でだって、毎日オレが抱いて上りたいくらいだけど、ハルが嫌がるからしないだけだ。
「でも、ゆっくりなら、自分で上れるよ?」
ハルは驚いたようにオレを見上げて言う。
けど、オレが日々身体を鍛えてるのは、こんな時のためと言っても良いくらいだ。
この腕力を今使わなくて、いつ使う?
「まだ最初の観光地だろ? 体力温存しとけよ」
「路面電車も、人力車も乗ったし……」
「ハルー、それも確かに観光名物だけど、移動手段でしょ?」
ってか、それも観光として、ここで階段登って、バテて観光終了って選択肢はないと思う。
恥ずかしさと申し訳なさから、遠慮しようとするハル。
それを見て、和樹がハルの耳元に小声で一言。
「ありがとう、大好き、ちゅっ……で、叶太はここ十往復でも軽くすると思うよ」
その言葉に真っ赤になったハル。
うん、確かに、おんぶした背中ごしにハルがそんなことしてくれたなら、どこまででも行ける気がする。
……つーか、和樹、ハルに近寄りすぎだっつーの。
オレの剣呑な表情を見て、和樹はクスクス笑いながらハルから離れ、手を振った。
「じゃ、また宿で!」
「ああ、夜にな!」
ハルをおんぶして長い階段を上り終えると、さすがに少し汗をかいた。
日頃、部活で鍛えている志穂も斎藤も、オレたちの荷物を持って余裕で登る。
「カナ、ありがとう。……大丈夫?」
ハルはポケットからハンカチを出して、オレの額に手を伸ばした。
「大丈夫、大丈夫」
「ごめんね?」
ハルが謝るもんだから、つい、
「オレ、それよりお礼が欲しいな」
と、ぎゅうっとハルに抱きついて、ちゅっと、頰にキスをした。
「カ、……カナ!?」
突然、何するのと言うように、ハルは慌ててオレから離れる。
ハルの目はまん丸で、頰は真っ赤。
「あはは。和樹が言ってたお礼はハルにはハードル高いと思って。だから、オレの方からもらいに行くことにした」
天主堂内に入るべく、ハルの手を取り、
「愛してるよ、大好き」
と、ささやくとハルは更に赤くなった。
オレがハルを堪能していると、
「はーい、そこー、イチャつかなーい」
と、志穂乱入。
ハルを志穂に取られ、仕方なく二人の後ろから斎藤と堂内に入った。
初日の夜、夕食の後にハルの様子を見に来たけど、ハルは眠っていた。ハルはオレが部屋を出た後、程なく眠りに落ち、そのまま朝まで眠っていたと言う。
大丈夫と思いつつも聞いてみると、夜の薬はもちろん起こして飲ませたとのこと。そりゃそうか。
「ハールー、朝だよ~」
間もなく朝食の時間。それが終わると、班での自由行動が開始される。
体調が悪いのなら、ここで休んでいれば良い。朝食も部屋でおかゆか何かをもらえば良い。
だけど、ハルがこの自由行動を楽しみにしていたのを、オレは知っている。朝の薬も飲まなきゃいけないし、ハルを起こすべく声をかける。
里実さんがいるから、オレは必要ない? なんて後ろ向きなことは考えないことにしてる。
「ハル、おはよう」
数度声をかけた後、ハルのまぶたがふるりと震え、ハルはぱちっと目を開けた。
「……カナ?」
ハルは不思議そうにオレを見て、それから辺りの景色を確認した。
病院でだったり、自室でだったり、寝起きにオレがいるのにはハルは慣れている。だけど、旅館の一室という状況には一瞬、混乱したらしい。
ハルのじいちゃんちは完全に伝統的な日本建築だけど、ハルが泊まる部屋だけは洋風にしつらえてある。もちろん、寝るのは布団ではなくベッド。
「おはよう。修学旅行二日目だよ」
オレが言うと、昨日のことを思い出したようでハルはふわっと笑顔を見せた。
「おはよう」
それから、身体を起こそうとするので手を貸した。
「ありがとう」
にこりと笑うハルは、思っていたよりずっと元気そうで、オレはホッとして、ハルの頰におはようのキスを落とす。
そのまま、ハルをぎゅうっと抱きしめる。
うっとりとハルを堪能していると、後方からコホンと咳払いの音。
「あ」
忘れてた。
「朝から、見せつけてくれるわね~」
里実さんは爽やかに笑い、里美さんの存在をすっかり忘れていたらしいハルは、真っ赤になってうつむいた。
オレは
「貸しませんよ? 帰ってから旦那さんと楽しんでください」
と言って、ハルを抱く腕に力を入れる。
里実さんは爆笑、ハルからは「カナのバカァ」という不名誉な言葉を頂戴した。
その後、ハルはオレと一緒に食堂に行き、一人別メニューで用意してもらった卵がゆを食べた。
思いの外、元気そうなハルに、志穂と斎藤はもとよりクラス全員が喜んだ。
出発前には誰が提案したのか、うちのクラスだけが旅館前で記念撮影。
カメラの中身を確認して、「この写真全員に送るから!」のクラス委員のかけ声で、ようやく解散。
担任の「気をつけろよ! 羽目外しすぎるなよ!」の言葉に見送られ、他のクラスから少し遅れて出発した。
少しなら羽目を外しても良いんだろうか、と思ったのはオレだけじゃないに違いない。
◇ ◇ ◇
里実さんは旅館で待機。
ハルの体調次第では同行予定だったけど、
「絶対にムリしないこと。具合が悪くなったらすぐ帰ってくること」
という注意だけで、班行動がOKになった。
加えて、密かにオレは、もしもの時に駆け込む病院名と連絡先を聞かされている。
ハルは万全の体調ではないけど、四人だけで班行動ができるってのは、オレたちの中では最高に近い状況。
「じゃ、行こうか!」
志穂の元気な声で、自由行動がスタートした。
最初の移動は路面電車。
新幹線より揺れるのは間違いない電車という乗り物。それだけに心配していたけど、ハルはゆっくり流れる景色を楽しむ余裕すらあり、正直ホッとした。
数駅乗って、向かう場所は天主堂。ハルが一番行ってみたいと言っていた場所。
「え? わたし、斎藤くんと乗るの?」
志穂が指さす先には人力車。
坂道をハルが歩いて移動するのはムリってことで、予約済み。
「そうそう」
「えー。陽菜と女同士で……」
と志穂がハルの腕を取る。
「体重バランス考えろって」
オレがすかさず言うと、斎藤も「確かに」とうなずいた。
志穂はオレと斎藤、それからハルの三人の間に視線をさまよわせた後、唇をとがらせつつも、
「りょうかーい」
と言った。
何しろ、オレも斎藤も身長百八十センチ超。重さを考えても座席の広さを考えても、男女ペアにするのが道理だろう。
……本当はただオレがハルと乗りたいだけだけど。
だから男女でペアになると、左右のバランスが悪い気がするのは、気のせいって事にしておいた。
「すごいね、カナ」
人二人乗せて坂を登る車夫を見て、ハルが目を丸くする。
「すごい力だよな?」
「なんか……降りなきゃ申し訳ないみたい。車だけでも重いのに」
確かに、すごい筋肉使ってるの見えるし、かなり汗をかいてるのが分かる。
「けど、ハル、それを言ったら、人力車の需要なくなるから」
と思わず笑うと、ハルも「そっか」と笑った。
それを聞いた車夫のお兄さんも、
「そうそう! 気にせず、せっかくだから楽しんで!」
と声を上げた。
人力車は思いの外乗り心地が良く、見晴らしも良くて、頰をなでる風が気持ち良かった。
風のおかげかハルも酔うことなく、無事、目的地に到着。
「気持ちよかったねー!」
志穂がハルの手を取る。
だから、その手はオレのだって……と主張しようとしたところで、後ろから声をかけられた。
「あ、ずっりー、なに、叶太、人力車なんか乗ってるの」
同じクラスの別の班のヤツら。男ばかりの四人組、幸田和樹他3名。正直、ちょっとむさ苦しい。
クラスの雰囲気が良かったからか、自由にさせてもらえた班決め。
大半は男だけ、女だけで、男女混合になったのは数班だけだった。
「サイコーに気持ちいいぞー。お前も後で乗ったら?」
「そんなに? じゃあ、帰り便で乗せてもらおうかな……」
「あ、これはダメ。貸し切り中。別の頼んで」
「うわ、ムカツク。なに、それ」
和樹が笑いながら、オレをこづいた。
確かに高校生が人力車貸し切りって、結構リッチだ。だけど本気で怒ってる訳じゃない、ただの冗談なのに、ハルが隣で申し訳なさそうな顔をして、口を挟んだ。
「ごめんね」
ハルの言葉と申し訳なさそうな表情に、ようやく人力車の理由を悟ったらしい。
和樹はしまったという顔をした。
「あー、なるほど。ハルちゃん、歩くの苦手だもんな」
「うん。……この坂はちょっとムリそう。人力車お願いしておいて良かった」
「だよな。うん、しっかり活用して。ムリすんなよ?」
和樹がハルの頭に手を伸ばし、髪に触れる前に、オレがぺしんとはたき落とした。
それを見て、ギャラリーは、
「幸田、おまえ、分かっててわざとやってるだろ」
と吹き出した。
「叶太も相手にすんなよ」
「なあ? 少しくらい触らせてくれたって、良いよな? 減るもんじゃなし」
「……減るし」
「え! 叶太の愛情が!?」
わざとらしく、和樹が大げさに驚いた顔をする。
「それは1ミリたりとも減らないからっ!」
オレが速攻言い返すと、ハルを除く全員が大笑い。
「も……やだ」
ハルだけがオレの背中にしがみついて、顔を隠した。
そう言えば……、と他三名のうちの一人が後ろを振り返り、指さした。
「牧村、この階段もかなりキツイけど、……大丈夫?」
指の先には、長い長い石造りの階段。それに目をやり、ハルは眉根を潜めた。
「三階分、くらい……かなぁ? が、学校で一年の教室に行くと……思ったら、何とか」
うちの高校の校舎は古くてエレベータが設置されていない。一年生の教室は三階にあり、去年一年間、ハルは毎朝、毎夕、途中で何度か休みつつ、その階段を上り下りしていた。三階分を一気に上がりきれず、途中で休むハルの姿は、割と良く目撃されていた。
「あ、階段はオレがおぶってくから大丈夫」
「え?」
三階だろうが二階だろうが、ハルの具合が悪い時には、オレが保健室まで抱いて運んでいる。今日もお姫様抱っこでもかまわないけど、それも微妙かなと思って、おんぶを提案。
はなから、こんなキツイ階段をハルに上らせる気はない。
学校でだって、毎日オレが抱いて上りたいくらいだけど、ハルが嫌がるからしないだけだ。
「でも、ゆっくりなら、自分で上れるよ?」
ハルは驚いたようにオレを見上げて言う。
けど、オレが日々身体を鍛えてるのは、こんな時のためと言っても良いくらいだ。
この腕力を今使わなくて、いつ使う?
「まだ最初の観光地だろ? 体力温存しとけよ」
「路面電車も、人力車も乗ったし……」
「ハルー、それも確かに観光名物だけど、移動手段でしょ?」
ってか、それも観光として、ここで階段登って、バテて観光終了って選択肢はないと思う。
恥ずかしさと申し訳なさから、遠慮しようとするハル。
それを見て、和樹がハルの耳元に小声で一言。
「ありがとう、大好き、ちゅっ……で、叶太はここ十往復でも軽くすると思うよ」
その言葉に真っ赤になったハル。
うん、確かに、おんぶした背中ごしにハルがそんなことしてくれたなら、どこまででも行ける気がする。
……つーか、和樹、ハルに近寄りすぎだっつーの。
オレの剣呑な表情を見て、和樹はクスクス笑いながらハルから離れ、手を振った。
「じゃ、また宿で!」
「ああ、夜にな!」
ハルをおんぶして長い階段を上り終えると、さすがに少し汗をかいた。
日頃、部活で鍛えている志穂も斎藤も、オレたちの荷物を持って余裕で登る。
「カナ、ありがとう。……大丈夫?」
ハルはポケットからハンカチを出して、オレの額に手を伸ばした。
「大丈夫、大丈夫」
「ごめんね?」
ハルが謝るもんだから、つい、
「オレ、それよりお礼が欲しいな」
と、ぎゅうっとハルに抱きついて、ちゅっと、頰にキスをした。
「カ、……カナ!?」
突然、何するのと言うように、ハルは慌ててオレから離れる。
ハルの目はまん丸で、頰は真っ赤。
「あはは。和樹が言ってたお礼はハルにはハードル高いと思って。だから、オレの方からもらいに行くことにした」
天主堂内に入るべく、ハルの手を取り、
「愛してるよ、大好き」
と、ささやくとハルは更に赤くなった。
オレがハルを堪能していると、
「はーい、そこー、イチャつかなーい」
と、志穂乱入。
ハルを志穂に取られ、仕方なく二人の後ろから斎藤と堂内に入った。
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