森の、どーぶつさんたち。

らん

文字の大きさ
9 / 14
第6話

女の子はプリンセス! 後編

しおりを挟む
 ――シュッ。
 
 淡い青色のテーブルクロスが広がりました。
 続けて、スプーンとフォークにお皿が6枚きちんと並びます。
 切り分けられたミートパイ、ローストチキン、冷たいカボチャのスープ。サンドイッチはツナとハム。みずみずしいレタスとキュウリ。鮮やかなグリーンを、シュガーコーンの黄色とトマトの赤が引き立てたサラダ。
 
 まるで魔法のように、次から次へとおいしいものが並べられていきます。

「き、き!」
 ――すごいねえ、すごいねえ!
 
 お手伝いをしている女の子うさぎは大興奮!
 女おおかみのスカートの裾を、しきりにひっぱります。
 残念ながら、いまだ生ける屍と化し続けている女おおかみは、虚ろな瞳で「ああ、そうね……」と呟くのが精いっぱいですが。
 
 余談ではありますが、ほんの数年前まで家事に対してまったく無能だった女おおかみに家事を仕込んでくれたのは、うまのお母さんです。

「みんな、おまたせ」
 
 用意が整ったところで、ヒツジの神父様、登場です。
 おお! 若くてかっこいい神父様ですねえ! 
 プラチナ・ブロンドの短い髪を撫でつけ、瞳は柔らかなグリーン。
 このヒト目当ての女性信者は、けっこう多いんじゃないでしょうか?

「きっ!」
 
 女の子うさぎは、ちゃあんとぺこりと御挨拶しました。
 ――と。

「めっ」
 
 ヒツジの神父様の陰にから、恥ずかしそうに顔を出した女の子がいます。

「――きっ?」
「めえ」
 
 なんてかわいい女の子でしょう!
 
 くりんとした目は神父様と同じ緑。髪の色も神父様と同じで、ピンクのリボンつき、くるりんツインテール。真っ白なブラウスの袖はパブフリース。袖口には細いピンクのリボンがついています。そして、フリルがたくさんついた、袖口のリボンと同じ、淡いピンクのスカート。
 まるで生きているお人形さん。
 本当に。ため息がでそうなくらい、本当にかわいいのです。

「あら! かわいい!」
 
 女おおかみの口から思わず賞賛の声が飛び出しました。

「……きい」
 
 ああ! どうして女の子うさぎは平凡な茶ウサギさんなんでしょう!
 引け目を感じた女の子うさぎの足が、つい、一歩後ろに下がりました。

「めえ」
 
 女の子ひつじは、つかつか(小さいのに、いっぱしのレディ気取りです)女の子うさぎに歩み寄り、『ご機嫌よう』とにっこりしました。

「きっ!」
 
 女の子うさぎは、つんとそっぽを向きます。

「め?」
 
 驚いたのは女の子ひつじです。
 どうして、このコはこんなに冷たい態度を取るのでしょう?

「め、めっ、めっ」
 
 女の子ひつじは、かわいらしく鳴いて、女の子うさぎの注意を引こうとします。
 女おおかみもようやく、女の子うさぎの態度がいつもと違うことに気がつきました。

「ねえ、ララ……」
 女おおかみが女の子うさぎに声をかけようとした、その時。

「さあ、みんな。食べる前にお祈りをしよう」
 
 先にテーブルに着いたヒツジの神父様が、女おおかみの言葉を遮りました。
 女の子うさぎは、耳を傾げます。
「き?」
 隣の席についた女おおかみが教えてくれました。
「ヒツジの神父様と同じようにして、ヒツジの神父様の言葉を繰り返せばいいのよ」
「きぃ」
 女の子うさぎはうなずいて、言われたとおりにしました。

「天にまします、我らが父よ」
 
 子どもたちもオトナも神妙な顔で、お祈りをします。

「今日の恵みに感謝いたします。アーメン」
 
 とっても不思議な気持ちでした。こうやって両手を組んで、みんなして神妙な顔をしているだけなのに、女の子うさぎには、さっきまで和やかな仲間たちが、まったく別のヒト。
 
 そう、まるで神様みたいに思えました。
 
 決していやな気持ちではないのに、嬉しい気持ちでもない。その気持ちになるだけで、お腹が重くなって、針金が張り巡らされていくみたいに、体がぴん、となっていくのです。
 
 ――厳か。
 
 そういうのだと、女の子うさぎは後で知りました。

「さ、食べようか」
 
 うまのお母さんがそういうと、魔法が解けたみたいに体から力が抜けていきました。
 もう、みんな神様ではありません。
 女の子うさぎはちょっとの間ぼうっとしていて、女オオカミに

「どうしたの?」
 
 と声をかけられるまで、フォークを手にとるのを忘れていたほどでした。

「き!」
 
 そう、ごちそうを食べなくては!
 女の子うさぎは、急いでフォークを手に取りました。女の子うさぎが真っ先に手を伸ばしたのは、サラダです。

「きー!」
 
 女の子うさぎは思わずほっぺを抑えました。
 このドレッシング、なんておいしいのでしょう。
 まさしく、ほっぺたが落っこちそうです!
 女おおかみはローストビーフを心ゆくまで味わっています。
「これ、おいしい」
「レベッカ、君のミートパイもおいしいよ」
 ヒツジの神父様が、意味ありげな視線を女おおかみに送ります。
「腕、あげたね」
「……ありがと」
 女おおかみ、そっけないふりを装いながらも、嬉しそうです。
「本当においしいよ。それに、あのワンピースもよくできてたね」
「まあね」
 女おおかみ、今度は素直に喜びを露にしました。
「うちも女の子がいればね……」
 うまのお母さん、ちらりと男の子ライオンを見つめます。
 男の子ライオンは、聞こえないふりをしました。だって、お母さんたら、男の子ライオンにかわいい服ばかり着せたがるんですもの。男の子ライオンは、男の子なんですからね。フリルの服なんか、絶対にごめんです!

「……き」
 
 おやおや、女の子うさぎ。ごちそうですっかり忘れていたのに、女の子ひつじのことを思い出してしまったようです。

「ソフィア、おいしいね」
「めえ」
 
 いやだ。目が合っちゃいました。
 女の子ひつじは、かわいい女の子特有の、愛嬌たっぷりの笑顔で、にっこりと微笑んでみせます。

「きっ!」
 
 女の子うさぎは、ぷいと顔を背けました。
 女おおかみ、料理をかみかみ、女の子うさぎの様子を観察します。
 女の子うさぎは、女おおかみに見られているとも知らず、相変わらずそっぽを向いています。

(どうしたのかしら?)
 
 サンドイッチを手にとり、お口に放り込みます。
(からっ……)
 からしの濃いところに当たってしまったようです。目に涙をためた女おおかみ。いきなり、ぴんと閃きました。

(はっはーん)
 
 女の子うさぎは、自分よりかわいい(と思う)格好をしている女の子ひつじが、羨ましくなったのでしょう。いま着ている服は、あのワンピースではありませんものね。
 女おおかみは、女の子うさぎの耳に、そっと囁きました。

「ララ。わたしは、あのワンピースを着たララのほうが、あの子よりずっとずっと、かわいいと思うわよ」

「……き」
 おせじを言われても、ちっとも嬉しくありません。女の子ウサギはふくれっつらをしたまま、次の料理に手をつけます。
 女オオカミは、もちっとしたほっぺを、ちょんとつつきました。

「きっ!」
 
 ああ、本当にかわいい。
 横目でこちらをにらむふくれっ面が、こんなにかわいいなんて。
 
 女おおかみ、気分はすでに母。
 
 うまのお母さんは、二人のそんな様子を、目をすがめて眺めています。
 本当は、うまのお母さんはちょっぴり心配だったのです。あのおてんば女の子おおかみが、小さな女の子うさぎと一緒に暮らすだなんて。

(でも)
 
 女の子おおかみは、女の子うさぎのほっぺについている食べかすをとって、何気なくそれを自分のお口に運びました。

(取り越し苦労だったみたいだね)
 
 さて、楽しいランチの時間は、あっという間に過ぎてしまいました。
「そろそろワンピースが乾いているはずだよ」
 片づけを終えた、うまのお母さんが言いました。

「き?」
 
 嬉しそうな女の子うさぎの脇から、女おおかみが言いました。
「この服、洗って返すわね」
「いいよ」
「けど」
「いいんだよ」
 うまのお母さんは、やんわりと、でも、有無を言わせぬ口調で言いました。

(レベッカが大丈夫ってわかったから、そのお礼)
 
 うまのお母さんの視線の先には、女の子うさぎがいます。女おおかみは、訝しげな顔をしましたが、詮索はしないことにしました。
「ありがとう」
「どういたしまして」

「きー!」
 
 女の子うさぎ、お着替え終了です。
「あら~、かわいい」
 女おおかみは、女の子うさぎを抱き上げて、これ見よがしにほおずりします。
 その様子を見ていた女の子ひつじが、ヒツジの神父様の服の裾をつかんで、めっめっ、と何やら訴えました。
「ソフィアちゃん、なんて?」
 まあ、女おおかみたら。ちょっと意地悪ですよ。
 ヒツジの神父様は困った顔で言いました。
「ララちゃんと同じワンピースが欲しいって」
 女おおかみは、女の子うさぎに向かって、にっこり微笑みました。
「わたしの言ったとおりでしょう?」
「きい」
 女の子うさぎも、にっこり微笑みました。
 地面に降りた女の子うさぎ、ワンピースの端っこを、ちょいとつまんでお辞儀をしました。

「きっき」
 
 ――それではみなさま、ご機嫌よう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...