森の、どーぶつさんたち。

らん

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第1話

「お腹をすかせた狼さんと、一人ぼっちの子兎さん」その3

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 さて、チキンの男オオカミがお留守にしている間に、彼の(お粗末な)お家ではちょっとした変化が起こっておりました。
 
 ガサゴソ、ガサゴソ……。
 
 おっきな赤と緑のチロル帽が、ごそごそ揺れています。
「なんもないなー」
「なんもないねー」
 大変! 森のいたずらっ子、双子の子リスです。
 この二人、いたずらもさることながら、おいしいものに目がありません。
 どうやら男オオカミのお家にごちそうを物色しに来た模様(立派な犯罪です。よい子は真似しないよーに!)。
 ところが、ごちそうはおろか、ろくな食べ物がありません。
 お腹がすいている子リスたちは頭を寄せ合い、相談を始めました。
「なんもないな」
「なんもないね」
「どうする?」
「どうする?」
「お腹すいたな」
「お腹すいたね」
 
 ぐきゅるる。
 
 子リスたちのお腹が、高らかに鳴いています。
「ぼく、お腹すいた」
「ぼくもお腹がすいた」
 二人合わせて大合唱。
「ららら~。お・な・か・が・すいた~」
 なぜ歌うのか。意味は定かではありませんが、二人のデュエットは続きます。
「な~の~に」
「な~の~に」
 お手てをつないで、くーるくる。
「ここにはなんにもなーい」
 子リスたち、ワルツをやめ、お祈りのポーズ。
「というわけで」
「というわけで」
「と・い・う・わ・け・で~」
 一旦ブレス。揃ってハミング。

「いたずらし・よ・う~」
 
 子リスたち、勝手に泥棒に入っておきながら、ろくな食べ物がないことに腹を立てた模様。家中にあるものをこれまた勝手に拝借して、ここの主人、すなわち男オオカミに仕返ししようと企みます。
 まずノコギリを使って、大黒柱をギコギコ。ある程度切れ目を入れたら、ロープをぐるぐる。そのロープの端っこをドアノブに結びつけます。
 
 ちなみに、ドアは外開きです。
 
 どういう結果になるかは、火を見るより明らかですね。
 二人は互いに顔を見合わせ、にっこり。一目散に窓から逃げ出しました。
「ん?」
 まったく、タイミングのよろしいことで。
(いま、なにかいたような……)
 子リスたち、危機一髪です。もう少し長くいたら首根っこをつかまれて、明日の朝ごはんにされていたかもしれません。
(ま、いっか。それにしても……)
 男オオカミ、こきこきと首を鳴らし、肩をとんとん叩きます。
(あー、ひどい目にあった)
 あれから男の子ウサギのもてなしようときたら。
 次から次へと料理が出てくるうえ、ぜひ泊まっていってくれ、枕元で絵本を読んでさしあげますとの、ありがたーいお申し出。
 さすがの男オオカミも、もうお休み前の絵本をありがたがるような子どもではありません。
 意味もなく疲れ果て、帰ってきたときにはへとへとになっておりました。
(しばらくウサギはいいや……)
 
 とにかく白いシーツとベッドがたまらなく恋しい。
 
 男オオカミはドアノブに手をかけ、ぐいっと力強くドアを引きました。
(ん?)
 変です。
 いつもはすんなり開くドアが、重くて開きません。
 男オオカミはもう一度ドアを引きました。
 
 やっぱり開きません。
 
 男オオカミ、ドアノブを両手で握り、ぐぎぎぎ、とドアを引っぱります。
「何で開かないんだよ!」
 こうなりゃ意地です。
 男オオカミは壁に足をついて、万感の意を込めて(たかがドア、されどドアですからね!)ドアを力強く引っぱりました!
 
 どんがらがっしゃーん。
 
 男オオカミの目の前で、すべてが崩れ去っていきます。
 木の家は、良く言えばログハウス風、悪く言えば掘っ立て小屋。
 その崩れゆくのの、早いこと早いこと。
 男オオカミがあれほど恋しいと思っていたベッド。一月かけて作ったタンス。
 安く手に入れたガラスを磨いてはめた、自慢の食器棚。
 その他拾い集めて作った家財道具もろもろ、すべて押し潰されていきます。
 ああ、お家は一日にして成らず! 
 しかし壊れるときはなんともろく、あっけないことでしょう! 
 すっかり平らになったお家を前に、男オオカミは絶叫しました。

「なんじゃこりゃあああ!」
 
 永遠の名ゼリフを。


 さて、ちびりの女おおかみ。ふらふらになりながら、ようやく帰って参りました。
(なんて悲惨な一日だったのかしら……)
 結局、猟師はいないとわかったものの、緊張しきっていた女おおかみは、もはや、うさぎどころではありません。仕方なく我が家への帰路に着くことにいたしました。
(こんな日は甘いデザートでも食べて、ゆっくり眠るのが一番……)
 女おおかみ、ドアを開けました。
 そこに広がっていた光景は――

「あー!」
 
 大絶叫です。
 女おおかみのキッチン兼リビングは、ぐっちゃぐちゃ。
 おいしいものがつまっていたはずの瓶は、すべて中身が空っぽです。
 女おおかみ自ら丹精込めて編んだレース、コサージュ、それらも全てジャムやらシロップやらにまみれ、汚くなっています。
(どうして? どうしてこんなことに?)
 ふらふらしながら寝室に入ると、ここも悲惨の一言に尽きます。
(お家が、わたしのお家が……)
 一瞬遠のいた意識をどうにか現実に戻し、女おおかみは考えます。
(落ち着いて、落ち着いて)
 そうです。お家が汚ければ、お掃除をすれば良いのです。
 女おおかみは倒れている箒を取り上げました。
 とりあえずゆっくり腰を落ち着けるスペースを作りましょう。話はそれからです。
 女おおかみはとりあえず、床を掃いてみることにしました。
 
 ――サッサッ。サッサッ。
 
 成功です。
 とりあえず、倒れていた椅子を起こせる程度のスペースができました。
 で、女おおかみはそうしました。で、腰掛けました。で、ゆっくり息を吐きました。あっつあっつの香り高い紅茶が欲しいところですが、あのガラクタのお山を正視する勇気はありません。あきらめましょう。
 
 息を吸っては吐き、吸っては吐き。
 
 気持ちを鎮めようとする女おおかみの努力とは裏腹に、勝手に目に涙が浮かんできます。
 おいしものがたくさんあって、小さなかわいいものづくしだった愛しの我が家。 それがどうしてこんなことに……。
 女おおかみはすんと鼻をすすり、もう一度初めから考えてみました。
(そもそもの始まりは……)
 そもそもの始まりは。
(うさぎを食べたいと思ったことよね)
 そうですね。食べ物なら、たくさんあったはずですから。
 
 ああ、どうしてそんなこと考えてしまったんでしょう!
 
 あの時お外に出なければ、お家はこんなことにならずにすんだはずです! 悔やんでも悔やみきれません!
 一体、犯人は誰なのか? 速やかに名乗り出ていただきたいものです。
 と、悲しみに暮れる女おおかみの後ろで、何かが、がさごそ動いております。
 女おおかみ、鼻をすんすん、耳をぴくぴくさせ、後ろを振り向きます。
 
 するとそこには。

「これ、おいしいね」
「これ、おいしいな」
 女おおかみが丹精込めて作ったあんずのシロップ漬け。
 その最後の一つがいま、目の前で消えました。
「もうないね」
「もうないよ」
 子リスは無造作に瓶を後ろに放り投げました。
 
 ポイッ。ひゅるる。ごんっ。
 
 瓶は見事に女おおかみの頭にヒットしました。
 子リスたち、ようやく後ろの異変に気がついた模様。
 赤と緑のおっきなお帽子がそろって振り向きます。
「……あんたたち」
 シロップ漬けって、どろどろしてますよね。漬けていた果実がなくなったとはいえ、それが頭に直撃したのだからたまりません。女おおかみの銀色の髪はべちゃっ。顔にも、シロップがとろとろ伝っていきます。

「よくもー!!」

 妖怪大変化……違った、女おおかみ大変化。
 白狼の姿となった女おおかみは、子リスたちを追い回し始めました。
「きゃー♪」
「きゃー♪」
 黄色い声をあげて、子リスたちは女おおかみの牙や爪をかわしていきます。
 これが雪の上なら、さぞや美しいシュプールが描けたに違いありません。
 ところで、こんな調子で追いかけっこしているうちに、お家には重大な変化が起きておりました。
 女おおかみの体重は約六十キロ(六十キロを超えているかどうかは、みなさんのご想像にお任せします)。それが時速八十キロの速度をもって、お家のか弱い柱たちに、がしーん、がしーんとタックルするのですからたまりません。
 もし柱にお口があったなら、物凄い悲鳴をあげたことでしょう。
 柱は悲鳴の代わりに、こう叫んでおりました。
 
 ミシッ、ミシッ。
 
 子リスたちはそれぞれ手を打ち鳴らし、はやし立てます。
「オニさん、こちら!」
「手の鳴る方へ!」
「だれがオニよ!」
 すかさず合いの手が入りました。
「じゃ、おにババだ!」
「オニババ!」
 子どもは無邪気に残酷です。本当のことを言います。
「だれがオニババじゃ!」
 オニババではありませんが、ばばあみたいな言葉づかいです。
 こんなときでも女おおかみ、きっちり挑発に乗ってます。
 そんなことだから。

 ――ミシッ、ピシッ、ボキボキ。
 
 こんなことになるんですよ。
 お耳をピクピク。危機をすばやく察する子リスたち。
「それ逃げろ」
「やれ逃げろ」
 窓からぴょんとお外へ飛び出し、たっと着地、くるりとターン。
 ぺこりとお辞儀にご挨拶。
「ごちそーさまでした」
「待ちなさーい!」
 大きいってのは不便だねっ。
 女おおかみ、鼻面だけ窓の外に出し、爪でガリガリガラスを引っ掻くも、時すでに遅し。子リスたちは森の木々に紛れてあっという間に見えなくなってしまいました。
 残され、唸る女おおかみの耳に響くは、崩壊の音。
 
 ピシッ、ボキッ、ミシミシミシッ。

「なに?」
 女おおかみ、窓から離れてきょろきょろ辺りを見回します。
 直後響いた大騒音。
 
 どんがらがっしゃーん!!

「きゃあああ!」
 女おおかみ、白い手足であわてて頭をかばいます。
 お家は瞬く間に畳まれていきました。
 壊れたとか、崩れたとかじゃないですよ。
 几帳面に、折り紙みたいに、きっれーに畳まれていったんですよ。
 ペット同様、お家も主人に似るんでしょうかねえ。
 さて、すっかり平らになったお家。
 だるま落しの要領で、その上に、ミルクチョコレート色の三角形のお屋根がちょこんと載りました。
 ちょうどその真ん中。
 煉瓦がもぞもぞ動いたかと思うと、女おおかみが、ぴょっこり顔を出しました。 自慢の白い毛はほこりまみれですが、けがはない模様。
 女おおかみは、レンガを頭に乗っけたまま、きょろきょろと辺りを見回しました。そして顔を正面に向けると、ある一点を見つめたまま、動かなくなってしまいました。
 あぜん、ぼーぜん。
 そして、女おおかみも叫びます。

「なんじゃこりゃあああ!」
 
 永遠の名ゼリフを


 一時間後。
 
 ――コンコン。
 男の子ウサギのお家に、ノックの音が響きました。
「キ?」
 ドアを開けると、そこには男オオカミが。

 ほぼ同時刻。
 女の子うさぎのお家のドアも、ノックされておりました。
「き?」
 そこに立っていたのは、女おおかみです。

 男オオカミと女おおかみはそれぞれカバン一つでやって来て、腰を九十度に曲げました。
「しばらく、泊めてください」
 
 こうして、子兎と狼の奇妙な生活が幕を開けたのです。




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