森の、どーぶつさんたち。

らん

文字の大きさ
2 / 14
第1話

「お腹をすかせた狼さんと、一人ぼっちの子兎さん」その2

しおりを挟む
 一方。
 むかしむかしあるところに、おじいさんもおばあさんもいなくて。お父さんとお母さんもいなくて。姉妹もイトコもハトコもいなくて。あげくにおともだちもいない、とってもかわいい、でも色は平凡な茶色の女の子うさぎがおりました(童話にありがちな反復ですよ! ギャグも繰り返すから、おもしろいんですよ!)。
 身長96.5㎝、体重14.3kg。ギンガムチェックのワンピースに白いエプロン。
 スカートから時々のぞく白いカボチャパンツはご愛嬌。
「きっ!」
 あ、ごっめーん。見られるのヤだった? だって、見えちゃったんだもーん。
「きぃっ!」
 はいはい。……さて、女の子うさぎはケーキを焼いておりました。これは『いつかきっと現れる運命のおともだち』のためのケーキなのです。先ほども書いたとおり、女の子うさぎには、まだおともだちがいませんので。
 にしても、おともだちに『運命』って……。
 ちなみに、その『運命のおともだち』は、こんな方を希望だそうです。

・身長170センチ以上
・体重55~80キロ
・年齢は十八歳~三十歳くらい(ちょっと年上が理想だそうです)。
・何より大事なのは、価値観が合うこと

 おともだちっつーより、交際相手の条件みたいですね。
 この条件に合う方は、花束と白馬のご用意を。かわいい女の子うさぎが、心よりお待ちいたしております。
 さて、そんな夢見る女の子うさぎにも、運命の時が迫っておりました。
 そう、ノックです!
 
 ――コンコン。

 「きっ?」
 女の子うさぎは、むっちりした短い二の腕を腕組みして考えました(悩めるあたしって、セクシー? きゃっ! と女の子うさぎは、自分に酔っていたのです)。
 女の子うさぎに、おともだちはおりません。
 では、いまノックをしているのは?
 女の子うさぎは、ぴんときました!
「きっ!」
 待った甲斐があったわ! ようこそ運命のおともだち!
 女の子うさぎは、いそいそドアを開けました。
 
 果たしてそこにいたのは――。

「あ、こ、こんにちは」
 身長はクリア。体重は……そうですね、六十二、三キロといったところでしょうか。年齢は二十歳くらい。価値観は……。まだわかりません。これからゆっくり確かめることにいたしましょう。
 女の子うさぎは、女おおかみを見上げて呟きました。
「きぃ」、その心は。
 
 ――おっぱい、大きいわ。
 
 見るとこ、そこかい!
 ……しかし、本当に大きなおっぱいが、林檎のようにたわわに実っております。 ぷるぷる揺れているそれを、女の子うさぎはじっとみつめました。
「ん? なに?」
 いきなり開いてしまったドアにいささか戸惑い気味の女おおかみ。
 とりあえず屈んで女の子うさぎと目線を合わせようとします。
「きっ!」

 大変! おっぱいが落ちちゃう! 
 
 女の子うさぎはおっぱいを受け止めようと、あわてて駆け出しました。
「ききっ!」
 ナイス……キャッチ?
 はたから見れば、おっぱいに埋もれたようにしか思えませんが、女の子うさぎがほっとしているようなので、ま、よしとしましょう。これでひと安心の女の子うさぎと違い、女おおかみはびっくりです。
 なんてったって、どうぞ食べてくださいとばかりに、いきなり獲物が胸に飛び込んできたのですから。
 びっくりしすぎた女おおかみ、こうなると断然、びびりが入ります。

(ま、まさか、猟師が潜んでいて、いきなりずどんとか……)
 
 あのテーブルクロスの下が怪しい……。
 女おおかみ、テーブルの足にまじって、にょっきり別の足が生えていないかと、目をこらします。もちろん、そんなものはありません。
 大体、猟師がいたら、先に女の子うさぎを撃っていることでしょう。こんなにおいしそうだし。
 ところで話は逸れますが、童話の中で狼を食べるシーンがないのはなぜなのでしょう? 狼の肉っておいしくないんですかね?
 脇道にそれている間に、女おおかみの恐怖心は、えー感じに盛り上がって参りました。
 大きなおっぱいに、なぜか女の子うさぎを押しつけたまま、あっちをきょろきょろ、こっちをきょろきょろ。めっちゃ挙動不審です。ここがお外なら職務質問でもされて、一晩ブタ箱に入れられそうないきおいの怪しさ、満載です。
 もっともそこに本当のブタさんがいれば、そこは女おおかみにとって、パラダイスにも等しき場所かもしれませんね。
 
 冗談はさておき、本編に戻りましょう。
 
 女おおかみは汗をかきかき、考えました。
 狼は兎を始め、すべての動物の天敵→なのに、女の子うさぎはウェルカムムードで抱きついてきた→これは猟師の罠? だとしたら、自分は危険!
 女おおかみの頭の中ではすでに、撃たれて皮を剥がれ、のしいかのように干された自分の姿が出来上がっています。
 毛皮になった(女おおかみの毛は、上質のシルクみたいに、つやっつやっなんですよ)女おおかみが、高値で取引されることはまちがいありません。
 女おおかみは滝のような汗を、だらだら流し始めました。
「きっ?」
 女おおかみの腕の中の女の子うさぎは、首を傾げました。
 この運命のおともだち、ずいぶん具合が悪そうです。
 おともだちなら、ここはぜひ、手厚い看護を施さなくてはなりません。
 女の子うさぎは「きっ!」と力強くうなずいて、小さな両こぶしをぎゅっと固めました。
「きっ」
 女おおかみの腕から抜け出し、その手をぐいぐいひっぱります。
「え、な、なに?」
 女おおかみ、完全に腰が引けております。
 できれば今すぐお家に帰ってベッドに潜り込み、頭からシーツを被ってぶるぶる震えたいところ! 
 
 しかし、そうは問屋が卸しません。
 
 女の子うさぎ、がんばります。
 何としても運命のおともだちに元気になってもらわなければなりませんからね!
「す、すみません、本当にすみません。今日はこれで失礼させていただきます。女の子うさぎさん、いえ、女の子うさぎさま!」
 女おおかみ、完全に戦意喪失です。ちっちゃな女の子うさぎを『さま』扱いです。が、女の子うさぎ“さま”は大変お優しくていらっしゃるので、たとえそれが自分を食べに着た不埒者であったとしても、それが『運命のおともだち』である以上、ご自分のベッドをお貸しになるくらい、どうってことないのでございましてございます。
 女の子うさぎ“さま”、もったいなくも、自らの御手でもって、女おおかみを、二階にあるご自分の御寝所にご案内なさいます。
 一方、身分卑しい女おおかみ。もはや生ける屍と化しております。
 フリルのレースがあしらわれたシーツと、同じくレースで縁取られたハート形枕はいかにも女の子うさぎ“さま”仕様の愛らしいデザインとサイズですが、この中には鉄砲持った猟師がおってさ、撃ってさ、と東洋の手鞠唄が頭を流れている始末(ちなみに、このとき撃たれたのは熊のはずですが……)。顔はあおあお。体はぶるぶる。熱が出そうどころの話ではありません。
 とその時、白目をむいていた女おおかみの目に、シーツの端っこ、レースの小さなほつれが飛び込んできました。
(ん……?)
 目を凝らして、よーく見ます。やっぱりほつれています。注意しなければ気がつかない、小さな小さなほつれではありますが。
 女おおかみ、思わず駆け寄ってシーツの端を持ち上げます。
「きっ?」
「ここ」
 女おおかみは、ほつれを見せながら、女の子うさぎに尋ねました。
「何かに引っ掛けたの?」
 女の子うさぎは首ならぬ、耳を傾げています。特に身に覚えはないようです。
「こんなきれいなレースなのにもったいない。編み棒は?」
「きっ」
 女の子うさぎ、サイドテーブルの引き出しを開け、小さな木の編み棒を取り出します。
「貸して」
 ひったくるようにして編み棒を受け取り、女おおかみは近くにあった椅子を引き寄せ、レースのほつれを直し始めます。その早いこと早いこと。
 女おおかみの熱心な様子を、じっと見ていた女の子うさぎの愛くるしい茶色の瞳に、ふと涙が浮かびました。
「きぃ……」
 病気で亡くなったお母さんも、それはそれはレース編みが上手でした。
 今よりさらにちっちゃかった女の子うさぎは、お母さんのお膝のうえ、お母さんが次々編み出す美しいレースを、うっとりながめながら育ったのです。
 
 ああ、なつかしいお母さん! 
 お母さんは、きっと天国で、今も美しいレースを編んでいることでしょう!

「これでいいわ!」
 女の子うさぎのうるうるにも気づかず、女おおかみ、編みなおしたレースにご満悦。
(だって気になるじゃない、こういうの)
 目がきらん&きゅぴーん。
 女おおかみ、意外と繊細です。
 ……ところでさ、猟師はいいの?
(……はっ!)
 あ、やっと思い出したみたいです。シーツを手放し、わたわたと立ち上がります。
「じゃ、じゃあ、わたくしめはこれにて……」
 見下ろした先には、女の子うさぎ。どういうわけか目をうるうるさせております。
(ん?)
「きっ!」
 女の子うさぎは感極まって、女おおかみに抱きつきました。
 びっくりしたのは、女おおかみです。尻尾をぶるぶる、今にもちびりそうになりながら、心の中で大絶叫。
 
 早く帰らせてえええ!
 
 もちろん、帰れないのでありました。

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...