継ぐマホウ 〜曇り所により片頭痛、気がついたら異世界〜

パキ・パキ

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動いた運命、王都までの道程

12話 初陣

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 暗かった思考に光が差す。少しずつ意識が覚醒していく。薄くけた瞼の間に、まだ日が昇りきっていない空が映っていた。

「朝か……」

 コウトが呟くと頭上から「おはよう」と声がかかる。

「鏡君。おはよう」
「よく眠れたみたいだな。俺は一睡もできなかった」

 彼はため息をつきながら言うと、コウトに何枚かのメモを渡した。メモにははじめから印刷されていた罫線けいせんに沿って文字がびっしりと書き込まれている。

「なにこれ? ドッピア・オン――」
「読み上げなくていい」

 書かれていた文字のうち1つを読み上げたコウトの声を遮った鏡は少し頬を赤らめながら言う。

「一睡もできなかったと言っただろう。気を紛らすために1人、技名を考えていたんだ」
「貰っちゃっていいの?」
「勿論。深夜テンションで書いてしまったものだからな。こういうの・・・・・が好きなのならば貰ってくれ。自分で持っていても恥ずかしいだけだからな」

 コウトは何か誤解が生じていることに気づいたが、ひとまず素直に受け取ることにした。

「さて、皆のもとに行こう。もう起きている頃だろうからな」
「そうだね。今日中にはコールンに着ける。早く柳葉君をちゃんとしたところで休ませてあげよう」

 寝ているマナオオカミに背中をあずける形で座っていたコウトが、いまだ起きる様子のないその生き物を起こしてしまわないようにゆっくりと立ち上がったその時、地面に赤い光を発しながら魔法陣が浮かび上がった。

「この魔法陣、あの時と同じだ!」

 鏡が叫ぶ。コウトたちの足元に浮かんでいる魔法陣は、連合軍に攻め込まれ崩壊したサーク王国にてノン・フォンジーナが現れる直前に出現したものと同じであった。魔法陣はコウトたちのいる辺り一帯の地面を包み込むように広がる。
 やがて拡大が止まり、魔法陣から緑色をしていて半透明な、泥のような生き物が何体も這い出てくる。

「なんだよアレ……」
「気持ち悪いな」

 突如現れた半固形の生き物に対して2人が困惑していると魔力に反応したのだろうか、先程まで眠っていたマナオオカミがのそりと起き上がってガウ、と鳴く。

「なにをする! うわっ!」

 マナオオカミが鏡をくわえて背に乗せ、コウトの目を見つめる。

「乗れってことだな」

 コウトを気遣ってだろうか、マナオオカミが屈む。コウトが乗ると先にある森に向かって走り出した。
 
 しばしの間俊足にその身を預けていたコウトだったが、やはり七篠さんや森立、トイルがどうしているのかを確認できていないことが気掛かりで、マナオオカミに呼びかけた。

「待った、まだ他の人の状況が分からない。引き返してくれ!」
「落ち着くんだ。むこうには騎士であるトイルもいる。それに彼に止まる気は無いみたいだぞ」
「でも――ッ⁉」

 鏡がコウトをなだめる。納得していないコウトがまだ何かを言おうとしたとき、突然マナオオカミが走りを止め、その赤い目を動かし周囲を警戒しだした。コウトたちが不思議に思っていると木々の陰から黒いアーマーと籠手で武装した男たちが姿を現す。

「チィッ! バレたか。野生の感ってやつかァ?」
「早速本日2回目の狩りですか。こいつらはサーク王国に現れたって言うノン・フォンジオーナの見物でもしていたんですかね」
「マナオオカミかよ……どこかの騎士か? かしら、見張りさせてたやつも呼んできやすかい?」

 集団はマナオオカミを警戒してか距離を置いている。中でも一際奥のほうにいる、かしらと呼ばれた大柄な男が言った。

「そんなことしねぇでいい」
「お前ら、そいつから降りて手を頭の後ろで組め。妙な事すんなよ、マナオオカミぐらいなら俺一人でもれるからな」

 そう言って睨むとマナオオカミはひるんだように一歩後ずさる。相手は8人。戦力差を悟った鏡がコウトに耳打ちをした。

「彼らは野盗や盗賊の類だろう。トイルに聞いた。この世界にはそういう人間たちもいるそうだ。今は言うとおりにして隙を見て逃げ出そう」

 うなずいたコウトはマナオオカミに声を掛けた。
 2人が降りると男は満足したようにフッと笑う。それを見て調子の上がった取り巻きが言う。

「にしてもお前ら変な恰好だな。何も着ないほうがいいんじゃねぇのか?」

 コウトのワイシャツや鏡のブレザー姿を集団の中では比較的若く見える男が笑い、周りの男たちも下品な笑いをあげる。
 鏡はその瞬間を好機とみて、頭の後ろで組みかけていた手を地面に向けて伸ばす。

「ハァァァァッ!」

 鏡の手から炎が吹き出し、辺り一面が包まれる。炎は盗賊のうち3人を完全に取り込み、危機一髪逃れたうちの2人の衣服に燃え移った。コウトたちを脅した大柄な男が―場慣れしているのだろう―冷静な様子で鏡に向かって魔法を発動しようとしている。

「めんどくせぇことしやがって!!」
「させるか!」

 コウトが大柄な男めがけて右腕を伸ばし手をかざし、伸ばした腕に左手を添え足を開く。イメージするのは吹き荒れる強風。右掌みぎてのひらに薄緑の球体が生成され、そこから放たれた強風が男を木に叩きつけた。男はそれきり白目を向いて動かなくなってしまう。

「かしら!! ぐぁぁッ」

 装備に燃え移った火を消すために地面を転がりまわっていた男たちが叫んだ。それと同時にマナオオカミが飛びかかり、彼らをかみ砕いて蹂躙していく。

 残りは2人だ。1人だけロングソードを腰に帯びていた男が間一髪マナオオカミの鋭い狼爪ろうそうによる攻撃を躱して鏡に襲いかかる。
 鏡は自分に向かって伸びてくる突きを受け止めるため、焦げた死体から短剣を剥ぎ取る。短剣はかろうじてロングソードによる攻撃を反らして鏡を守ったが、その後すぐ首に手をかけられてしまう。

「死ねぇッ‼」

 喉を締める手に込められる力が強くなる。動揺によるものか、魔法を使うことはせず、爪を立てることしかできていない。

「うぉぉぉ!」

 コウトが叫びとともに体当たりをする。男の手が鏡の首から離れ、剣を落としてよろめく。が、全体重をのせたがむしゃらなものだったためコウトも肩から転倒してしまう。

「クソッ、クソッ‼」

 怒り狂った様子を見せる男は落とした剣を取って振り上げる。コウトは地面に倒れたまま手を伸ばし、周囲に浮かぶマナのありったけを意識して魔法を放つ。
 剣がコウトめがけて振り下ろされるより一瞬早く放たれた魔法が男の体を攫って森の中に消えていく。

「ゲホ、ッ」

 横を見やると鏡が膝に手をついて咳き込んでいる。痛む肩をさすりながら起き上がると、怯えた声が聞こえてきた。

「くそぅ、こいつらなんでったってこんなに魔法を使えるんだ!?」
「グルルルゥ」
「ヒィィッ! く、来るな! あ」

 しかしそのやかましい声もすぐに止む。

 やがて炎の中に立つ者がコウトたちだけになると、マナオオカミは煙が立ち昇る空に大きく吠えた。

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