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動いた運命、王都までの道程
17話 異世界人と人柱
しおりを挟む―現在―
七篠が魔物を倒していく様子を興奮気味に話していたトイルとは裏腹に七篠は居心地の悪そうな表情を浮かべている。コウトは彼女へ視線を向けたが顔を逸らされてしまう。
葬った魔物への多少の罪悪感と、元の世界ではまずありえない光景。
七篠は、この惨状を作った自身をコウトが受け入れてくれるのか不安だった。転がる魔物達を見て幻滅されたら、よくもこんな酷いことを、などと言われたら――。
コウトはそんな七篠の態度に何かを感じたのか自分も、と笑って話す。
「実は僕と鏡君もさっき武装した人達に襲われたんだ。なんとか、その……倒したけど。死ぬ思いもしたし、それでもみんなが心配だったから無理を言って来たんだ。だから七篠さんが無事なら今はそれでいいと思うよ」
「倒した」の部分だけ魔物だったものを見ながら弱い声で言う。七篠はそれを見て、彼自身あまり言葉にしたい様子ではないが、自分と同じようなことをしたのかもしれないと思った。
七篠の不安が消える。コウトも自分と同じことをしたと考えると少しだけ誇らしい気分になる。
「襲われたというのは本当ですか!? そういえばここ最近、コールンの周辺で野盗グループの出現報告がいくつか上がっていました」
トイルが聞き返す。森立を守れなかった事や谷嶋の事もあってか本当に悔しそうだ。このままではトイルが再び自責の念を口に出すことになってしまうと考えたコウトは慌てて話を進める。
「その野盗に捕まっていた人を助けたんです。コールンに住んでいるらしいのでついでに送り届けたい。それもなるべく早く」
「……助けた人の人数を教えて下さい。それと野盗の人数も」
「助けた人は2人で、40代ほどの夫婦。今はぼくが戻るまで鏡君と待機してもらっています。野盗は9人でした」
コウトの説明にトイルは納得した様子だ。報告のあった野盗は全部で9人。コウトと鏡を襲ったのは彼らで間違いないだろう。
「わかりました。私が今あるすべての力を使い1頭だけマナオオカミを召喚します。今の私では1頭が限界なので、コウトさん達は柳葉さんを連れて先にコールンへ向かっていてください」
トイルはマナオオカミを召喚すると同時にフラフラと尻餅をついた。
「残った我々3人は再びマナオオカミを召喚できるようになるまで歩いてコールンを目指します。もう他の野盗に出くわす心配はないはずですので、心配はいりません」
お礼を言って鏡達の下へと戻ろうとしたコウトを、苦しそうに腰を下ろしていたトイルが引き止める。
「それともうひとつ。コウトさん、今のあなた自身についてのことです」
「僕自身について?」
「鏡さんから聞きました。使える魔法がわからないと。この話はあなたが魔法を使えるようになるための一助になるかもしれません」
苦しそうに息を吐きながら途切れ途切れに話し出した。トイルは連合軍の調査で判明した異世界人召喚についての極秘内容を語った。
「異世界人召喚のシステムは人柱……生贄を必要とするんです。そして、人柱となった人が使うことのできる魔法を転移者に移植し、作り変えられた肉体とともに、この世界で強大な力を振るえるよう、調整されるのです」
今回の召喚で人柱にされた人間は5人。
齢16にして人々のために生涯を捧げることを誓った聖女、未来を見ることができる盲目の魔女、百戦錬磨と謳われる傭兵隊長、すべてを拘束する鎖を生み出せる錠前師、そして世界を敵に回した暗殺者。
「皆さんはそれぞれ、この5人の人柱のうち1人が使っていた魔法を扱えるということです」
「僕が使える魔法……。じゃあ、その5人について調べられれば」
トイルは首を横に振る。
「正確には3人です。戦いを見てわかりました。七篠さん、あなたは聖女の魔法を、谷嶋さんは錠前師の魔法を使うことができます」
七篠が先の戦いで繰り出した魔法の数々は聖女のものだった。かの少女は争いを好まなかったがそれでも、その短い生涯で3度だけ敵を屠るために魔法を使ったことがあったのだそう。七篠の魔法はその時の記録と一致する。
谷嶋はトイルとともに追ってきた魔物を倒すときに鎖のようなもので魔物達を拘束した。トイルは錠前師の魔法を過去に一度見ているため、間違えることはないだろうと考えていた。
「そういえば鏡君は行動予見と予知夢が使えると言っていたな。それと襲われたとき、炎の魔法を使っていた」
「それは……おそらく魔女の魔法だと思います。残すは傭兵隊長と暗殺者ですが……」
「風の魔法を使えるのはどちらですか?」
しばしの沈黙の後、トイルはおそらく傭兵隊長ではないだろうと言った。
「我が騎士団は彼ら傭兵部隊と戦ったことがありますが、彼が風魔法を使ったところは見たことがありません」
「じゃあ残るのは!」
合点がいったようなコウトだったが、トイルは浮かない顔をしている。
「それが暗殺者についての情報が少なくどのような魔法を使うのかまではわからないのです」
それだけではない。柳葉が使った召喚魔法だが、あれは誰の魔法を移植されたのかわからない。人柱にされた人間の中で召喚魔法を使う者はいなかったのだ。
「ゲホッ、ゲホッ」
「トイルさんっ! 大丈夫ですか!?」
「話はわかりましたから、少し休んで下さい」
咳き込みだしたトイルだが、コウトや七篠からかけられる声を無視して強引に話し出す。
「この話はまだ、あなた方異世界人には伝えないというのが連合軍の決定でした。にもかかわらず、エウレナ様は私の判断で話すよう言われました。
そして私はあなた方に話した。これがどういう意味かわかりますね?」
トイルは一息にまくし立てた。声には徐々に潤みが混ざる。
「エウレナ様、そして我々を救ったのはあなた方だということです。我々はあなた方に最大限の敬意を払います。そして、あなた方に謝罪させてください……」
トイルは居住まいを正す。
「あなた方の仲間を、森立さんを守ることができなかった」
泣き出すトイル。後悔や責任、無念などすべてを爆発させているかのようだ。
そんな彼にコウトは温かな声で話す。
「トイルさん。僕らはまだ出逢って数日ぐらいしか経ってなくて、お互いに深い関係ではないけれど仲間を諦めるつもりはありません。彼女はまだ生きてると信じます」
さっきの話では彼女も魔法を移植されているようだし、魔物なんか返り討ちにしちゃっているかも、と言って笑った。
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