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発覚し死罪を言い渡され
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翌朝、簡単な食事を済ませ家を出ようとすると、戸を叩く音がします。母上が戸を開けると慎之介様がいて
「御奉行様がこの村に来られた。村人皆を集めよとのことだ。すぐに来てくれ。」
慎之介様の隣に立つ立派な身なりのお侍様は
「この家で最後か」
「はい これで村人皆が揃います」
すでに慎之介様の後ろには村人たちが並んでいて、いったい何事だろうかとささやきながら広場まで歩きます。何人かの村人は悪い予感がしたのか暗い表情で、その中で楓が一番青ざめていました。まさか、私の十字架が見つかったのではないか・・・
悪い予感は当たりました。
ひれ伏す村人たちの前で御奉行様は十字架を掲げ
「これは誰のものか」
と声を張り上げます。
「昨日、行商人がこの村の街道で拾ったと申し出てきた。これは耶蘇教の神具であろう。持ち主は名乗り出よ。」
御奉行様が掲げる十字架は私の物に間違いありません。探し戻る前に拾われてしまったのです。
「いないのか。それでは村の家すべてを調べなければならぬ。」
村人たちは恐怖が顔に出るのをこらえながら互いの顔を見合わせます。調べられればあちこちの家で十字架やマリア像が出てくるでしょう。そうなれば持ち主は死罪。私の家にも父と母の十字架があります。観音様の像の裏側にはマリア様が彫られています。
御奉行様はお侍様たちに
「まずは北の集落から調べよ。徹底的にだ。畳の裏も仏壇の引き出しを外した中も残らず耶蘇教の証拠を探し出せ。」
このままでは村人は皆捕まって死罪。父上も母上も私も・・・ 今名乗り出れば死ぬのは私一人だけ・・・
瞳を潤ませながら震える声で
「御奉行様・・・・・」
「何だ、そこの娘」
「その十字架は・・・・・」
ぽろぽろと涙があふれ出てる楓。着物で涙を拭い意を決し
「その十字架は私の物でございます」
「では、お主は耶蘇の神を信じているのだな」
「はい・・・ 行商の方に教えてもらい、密かに祈っておりました」
父上と母上、そして村の人たちに処罰が及ばないよう偽りを口にします。
御奉行様はお侍様に命じます。
「その娘を捕らえよ」
お侍様に縄で縛られ連れて行かれます。父上と母上は何も言えずただ涙を流すだけ。村人たちはうつむきながら私を見送ります。慎之介様は暗い顔つきで列の最後をついてきます。
放り込まれた地下牢の地面は冷たく、天井の下の小さな天窓に差し込む赤い光が夕方であることを教えてくれます。
私はどうなるのでしょう。捕らえられた耶蘇教の信徒の運命は決まっています。十字架に磔にされ槍で身体を貫かれて殺されます。父上や母上、そして村の皆はどうなるのでしょう。御奉行様やお侍様たちは私とともに奉行所に戻ったのですぐに家を調べられることはなさそうです。拷問して聞き出すのでしょうか。私は耐えられるでしょうか。私の不注意のせいで父母や村人が処刑されることを思うと申し訳なくて涙が止まりません。
日も暮れようとした頃、私を捕らえたお侍様が地下牢に入り扉を開け
「出ろ」
静かに立ち上がり、両手を背中に縛り付けられ、薄暗い奉行所の庭に正座させられ、御奉行様が座敷に座り私を見下ろします。
「その者、名は何という」
「はい、楓でございます」
御奉行様は十字架を見せ
「改めて聞くが、この品はお主の物か」
「はい・・・ 私の十字架でございます」
「これは耶蘇教の祈りに使う品だな、お主は耶蘇教を信じているのだな」
これを認めると私は死罪。違うといえば・・・ いえ、今更言い逃れはできないでしょう。それに、自らの命を惜しみ神様を裏切る振る舞いはできず、
「はい・・・ 神様、そしてイエス様を信じております」
「では処罰を申し渡す。楓、お主を禁教の罪で磔刑に処す」
これで私の運命は決まりました。でも、私の心は穏やかです。父上や母上のことを追求されなかったことに安心する気持ちの方が死の恐怖より大きいです。そして、最期まで信仰を守ることができたことが嬉しいです。
また地下牢に放り込まれ、天窓から見える空は暗くなり、
「夕食だ」
と言われ焼いた唐芋が一本投げ込まれました。この地下牢には五つの牢がありますが、閉じこめられているのは私一人だけ。牢の出口にはお侍様が黙って見張りに立ち、静かな時間が流れています。
これからの自分を想像します。また縛られ、馬に乗せられ大勢の町人に見られながら河原の処刑場に連れて行かれるのでしょう。そして磔にされ槍でここを・・・ お腹や乳房に手を当てながら、その手は震えます。
「御奉行様がこの村に来られた。村人皆を集めよとのことだ。すぐに来てくれ。」
慎之介様の隣に立つ立派な身なりのお侍様は
「この家で最後か」
「はい これで村人皆が揃います」
すでに慎之介様の後ろには村人たちが並んでいて、いったい何事だろうかとささやきながら広場まで歩きます。何人かの村人は悪い予感がしたのか暗い表情で、その中で楓が一番青ざめていました。まさか、私の十字架が見つかったのではないか・・・
悪い予感は当たりました。
ひれ伏す村人たちの前で御奉行様は十字架を掲げ
「これは誰のものか」
と声を張り上げます。
「昨日、行商人がこの村の街道で拾ったと申し出てきた。これは耶蘇教の神具であろう。持ち主は名乗り出よ。」
御奉行様が掲げる十字架は私の物に間違いありません。探し戻る前に拾われてしまったのです。
「いないのか。それでは村の家すべてを調べなければならぬ。」
村人たちは恐怖が顔に出るのをこらえながら互いの顔を見合わせます。調べられればあちこちの家で十字架やマリア像が出てくるでしょう。そうなれば持ち主は死罪。私の家にも父と母の十字架があります。観音様の像の裏側にはマリア様が彫られています。
御奉行様はお侍様たちに
「まずは北の集落から調べよ。徹底的にだ。畳の裏も仏壇の引き出しを外した中も残らず耶蘇教の証拠を探し出せ。」
このままでは村人は皆捕まって死罪。父上も母上も私も・・・ 今名乗り出れば死ぬのは私一人だけ・・・
瞳を潤ませながら震える声で
「御奉行様・・・・・」
「何だ、そこの娘」
「その十字架は・・・・・」
ぽろぽろと涙があふれ出てる楓。着物で涙を拭い意を決し
「その十字架は私の物でございます」
「では、お主は耶蘇の神を信じているのだな」
「はい・・・ 行商の方に教えてもらい、密かに祈っておりました」
父上と母上、そして村の人たちに処罰が及ばないよう偽りを口にします。
御奉行様はお侍様に命じます。
「その娘を捕らえよ」
お侍様に縄で縛られ連れて行かれます。父上と母上は何も言えずただ涙を流すだけ。村人たちはうつむきながら私を見送ります。慎之介様は暗い顔つきで列の最後をついてきます。
放り込まれた地下牢の地面は冷たく、天井の下の小さな天窓に差し込む赤い光が夕方であることを教えてくれます。
私はどうなるのでしょう。捕らえられた耶蘇教の信徒の運命は決まっています。十字架に磔にされ槍で身体を貫かれて殺されます。父上や母上、そして村の皆はどうなるのでしょう。御奉行様やお侍様たちは私とともに奉行所に戻ったのですぐに家を調べられることはなさそうです。拷問して聞き出すのでしょうか。私は耐えられるでしょうか。私の不注意のせいで父母や村人が処刑されることを思うと申し訳なくて涙が止まりません。
日も暮れようとした頃、私を捕らえたお侍様が地下牢に入り扉を開け
「出ろ」
静かに立ち上がり、両手を背中に縛り付けられ、薄暗い奉行所の庭に正座させられ、御奉行様が座敷に座り私を見下ろします。
「その者、名は何という」
「はい、楓でございます」
御奉行様は十字架を見せ
「改めて聞くが、この品はお主の物か」
「はい・・・ 私の十字架でございます」
「これは耶蘇教の祈りに使う品だな、お主は耶蘇教を信じているのだな」
これを認めると私は死罪。違うといえば・・・ いえ、今更言い逃れはできないでしょう。それに、自らの命を惜しみ神様を裏切る振る舞いはできず、
「はい・・・ 神様、そしてイエス様を信じております」
「では処罰を申し渡す。楓、お主を禁教の罪で磔刑に処す」
これで私の運命は決まりました。でも、私の心は穏やかです。父上や母上のことを追求されなかったことに安心する気持ちの方が死の恐怖より大きいです。そして、最期まで信仰を守ることができたことが嬉しいです。
また地下牢に放り込まれ、天窓から見える空は暗くなり、
「夕食だ」
と言われ焼いた唐芋が一本投げ込まれました。この地下牢には五つの牢がありますが、閉じこめられているのは私一人だけ。牢の出口にはお侍様が黙って見張りに立ち、静かな時間が流れています。
これからの自分を想像します。また縛られ、馬に乗せられ大勢の町人に見られながら河原の処刑場に連れて行かれるのでしょう。そして磔にされ槍でここを・・・ お腹や乳房に手を当てながら、その手は震えます。
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