召喚されたら幼女になってしまいました

くろねこ

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6  なんと神様だったのです

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あれから一週間。変態王子には会わずに済んでいる。

女の子口調も違和感なく使えるようになってきた。文字や魔法の勉強も少しずつ始めている。

俺の情報が全く集まらないので、ライアンはやきもきしているようだ。そのせいかあまり部屋に来てくれなくなった。ちょっと寂しいけど仕方ない。

騙している気分にもなるが、これもどうしようもない。今だに自分の状況も元の名前も、リオナと言う名前以外、何一つわからないのだから。

一体なぜこの世界にいるのか。ライトノベルにありがちなファンタジーなこの異世界に、俺は召喚されたのか。はたまた転生したのか。

これで俺が何の能力も持っていなければ、きっと何も考えず、のほほんと過ごしていただろう。

なのに『妖精と契約できる程強い魔力を持っている』というチートな能力を持ってしまった。持っていることに気付いてしまった。

この能力を使って何をなすべきなのか。何をしたらいいのか。それとも元の世界での知識を生かして何かしろってことなのか。名前を思い出せないのは何か意味があるのか。

そんなことをぐるぐる考えてしまう。何度考えてもわからない。

王宮の外に出てみても、何の手かがりも見付けらなかった。

なんとな~く、この国やこの世界に関する何かだと思うんだけどな……。

俺はそう考えて、この世界やこの国のことを知ろうと、それとなく勉強を始めた。

しかしこれが中々難しい。何しろろくに文字も読めないのだ。

精霊や妖精については、ブリギッド姉さまと双子に聞くことができた。特にブリギッド姉さまは、お詫びのつもりか変態王子に対する牽制か、あれ以降よく来てくれる。その度に絵本を読みながらわかりやすく教えてくれた。おかげで精霊や妖精については段々とわかってきた。

けど三人は、この国のことについてはあまり知らないと言う。

ルーイに聞こうとしたが、何しろ彼は王宮魔法使いで何かと忙しい。その忙しい合間を縫って、文字と魔法を教えに来てくれるので、彼との時間はほぼそれで潰れてしまう。余計なことを教えてもらう余裕なんてなかった。

一体いつになったらわかるんだろう。こんな調子でほんとにわかる日が来るんだろうか。

そんな焦燥感に駆られていたら、不意にルーイがこんなことを言い出してきた。

「リオナにはちゃんとした先生が必要だね。このままじゃ勉強も中々進まないし、他にも知りたいことがあるんだろう?」

コクコクと頷く。

「わかった。リオナに最適な先生を手配しておくよ」

それがついおとといのこと。すぐにルーイは先生を見付けてくれたようだ。ほんとライアンの言う通り、仕事が早い。

早速今日から新しい先生が来てくれることになった。

一体どんな先生なんだろう。ワクワクして待っていたら、朝食後、イリルさんが連れて来てくれた。

ちなみにイリルさんは俺の護衛をしてくれる、近衛騎士団に所属する騎士の一人だ。ライアンを凌ぐ、背も肩幅も立派な、筋骨粒々の大柄な体躯に、顔も厳ついおっさんだ。初めて紹介された時は少し恐かった。

でも双子にも優しいし、セクアナの無茶ぶりにも嫌がらず応えてくれる。見た目に反して凄くいい人なのである。人って見かけなよらないな。

そんなイリルさんの後ろから、白髪混じりの焦げ茶色の髪に、片方は薄いグレー、もう片方は赤みがかったオレンジ色の、神秘的なオッドアイを持つナイスミドルが入ってきた。

「リオナ様、今日から来て下さるキリン・オサリバン様でらっしゃいます」

「今日からこちらでリオナ様の勉強を見させてさせていただきます、キリン・オサリバンと申します。よろしくお願いいたします」

そう言いながらナイスミドルが片膝を着いて頭を垂れる。まるで王様に対するような挨拶だ。身の丈に合わない扱いは居心地が悪い。

「あ、あの……立って下さい。わたし、ただの子供です。こちらがお世話になるんですから普通にして下さい」

「そうは言われましても。この国にとって、とても大切な方だから失礼のないようにと申し付けられましたので」

一体どんな紹介してんだよ、この野郎!誰だよ、そんな御大層な説明したやつは!まあルーイなんだろうけど。ほんとになんか、俺が想像したより大変な使命があるんじゃないか。そんな考えが思い浮かび、ビビってしまった。

「ほんとに困ります、オサリバン様。わたし、そんな大層な身分じゃありません。それにわたしが教えていただく側なんですから」

「わかりました。では極力そのように。それから私のことはキリンとお呼び下さい」

「わかりました、キリン様」

「様はいりません」

そうは言われてもな……。こんなナイスミドルを呼び捨てになんてできねぇよ。

「えっと……じゃあ、キリン先生とお呼びしてもいいですか?」

「先生……まあ仕方ないですね。恥ずかしいですけど、そう呼んでいただいて構いませんよ」

「え?いつもは先生って呼ばれてないんですか?」

「はい。私は教会の仕事に従事しておりますので」

イリルさんが後ろでコホンと咳払いする。

「オサリバン様は王都の大司教でいらっしゃいますよ」

「大司教!?」

それってめちゃくちゃ偉い人なんじゃ……!?そんな人に教えてもらうなんて、すげえ畏れ多いんですけど!

ルーイってば、なんて人に頼んでくれてんの!?今すぐ抗議に行きたくなった。

でも耐える。せっかくこんなに早く要望に応えてくれたのだ。わがままを言ってはいけない。

テーブルに着くと、何故かキリン先生は部屋をぐるりと見渡した。

「広い部屋ですよね。正直わたしにはもったいな過ぎます」

「ああ、そうではないんです。その……リオナ様は妖精と契約なさっているとお聞きしたのですが、今日はいらっしゃらないようですね」

「え?先生も妖精が見えるんですか?」

「ええ。お声を聞くことはできませんが、お姿なら……」

「そうなんですか……。あの、今日は勉強するから出掛けてもらったんです。メローの友達に会いに行くと言ってました」

そうなのだ。今日の勉強は一日かけてしてもらう。そう言ったらセクアナは「わかった!」と言って、早くから出ていったしまった。

魔法以外の勉強をしている時は、構ってあげられないのでちょうどよかった。

「ほう……では今日はお会いできませんね」

「そうなんですか?」

てっきり昼には帰ってくるものと思っていた。

「メローは海の妖精です。ここから海岸まではかなりあるので、今日は夕方まで戻ってこられないでしょうね」

夕方まで帰ってこない……と、いうことは、今日は男になっていい時間があるということだ。

ラッキー!

実は二十四時間セクアナがいるので、ずっと少女を演じていなければならず、ちょっと疲れていたのだ。これで気兼ねなく足を広げて座ったり、男言葉で独り言が言える。授業が終わったら部屋でゆっくり……いや、どうせなら今日は夕食までブリギッド姉さまと過ごそうかな?

あの巨乳を思う存分眺められる。ピッタリくっついてても文句を言われる心配もない。

うん!そうしよう!

そう思い付いたところで、キリン先生が授業を開始する。

「さて、では授業を始めましょう」

「はい、よろしくお願いします」

「まず今日は神々のお話からしましょうか」

興味はなかったが一応頷く。

「リオナ様は街の噴水広場にはもう行かれましたか?」

「ええ」

「あの噴水の中央に石像がございましたでしょう?あの方が我々が崇める大地母神、女神ダーナ様です。すべての生命の源で、神々や動物、人間も、すべてダーナ様から生まれたと言われています」

金髪碧眼の、美しい女神だったらしい。

「ダーナ様から産まれた神々の一族は、やがて異界の神に負け、この地にやってきました。妖精の一部はこの過程で神々が卑小していった姿だと言われています」

「妖精が元は神様……」

「一部ですよ。ほとんどは土地や自然に宿った妖精なのです。神々がお逃げになったこの地には、元々妖精が住んでいましたから」

セクアナはここ住んでいた妖精だろうか。なんとなく神って感じがしないのでそう思う。

「ダーナ様はたくさんの神々を生み出しましたが、最初に生み出された神、それがダクザ様です。そのダクザ様とダーナ様の間に産まれた神の直系の子孫が、この国の初代の王なのです。まあ他にも諸説ございますが、我々のような神に仕える者などは、それを特に強く信じております」

初代はまさかの神でしたか!驚きの事実だ。

「ですからこの国の歴代の王族の方々には金髪碧眼の方が多いのですよ」

「あれ?でも変た…いえ、ルーリー殿下は違いますよね?」

「ええ。王太子殿下はお父様、ティアナン陛下と同じ銀髪です。ティアナン様の又従妹のリアンノン様が金髪なのですがで、王家に金髪を、と求める周囲に推され、陛下とご結婚されたのです。まあ周囲の思惑通りにならず、殿下は陛下そっくり銀髪でしたが、ティアナン陛下の妹君は金髪ですし、そのお子様方も金髪ですよ」

髪の色一つで馬鹿馬鹿しい。そう思うが、神の子孫であると言う説を信じる者にとっては、きっと大事なことなのだろう。

「この地に逃げた神々は妖精と共に楽園を造り、人間に力を分け与え、妖精や人と交わり、弱体化していったのです」

「だから昔はみんな妖精が見えていたんですね」

「ええ、そうです」

その後はたくさんの神々やその神々と人間との話を聞いた。

「王家の方々の宮殿は、一部の神々の名前からいただいたんですよ」

なるほど…。道理で聞き覚えがある名前があるはずだ。

しかし神かあ~。魔法が使えるのはその神々の力なんだろうな……。

あれ?でもそうすると、もし俺が召喚されたんだとしたら、神々の力なんてひいている訳がない。だとしたら魔法も使えないんじゃ……?じゃあ転生か?

頭が痛くなってきた。癒してもらおう。

キリン先生が帰った後、俺はいそいそと図書室に本を借りに行った。ブリギッド姉さまに、夕食の時間まで読んでもらおうと思ったのだ。

ブリギッド姉さまの膝に座り、その豊満な胸の感触を味わいながら本を読んでもらう。

これを至福と言わずなんと呼ぶ!

セクアナがいないから、いくら鼻の下を伸ばしていようと気にしなくて済む。今日は存分に楽しんでやるぜ!!

ブリギッド姉さまは、呼ぶとすぐに着てくれた。

「あら……今日は絵本じゃないのね……どれ?ああ、エルフの本ね」

「この表紙に載っているのがなんか二人に見えて……」

本読んでもらってわかったのは、エルフは元々は神に近い妖精の一種であること。それから昔はこの土地ではエルフのことを妖精と言われていたということ。後はエルフにはライトエルフとダークエルフがいるそうで、この国のどこかの丘や洞窟の中に、それぞれのエルフたちが集団で暮らす里があり、成長すると出ていくこともある、なんてこともわかった。

「フラムたちも里から出てきた来たのかな?」

「違うと思うわ。フラムたちは私が拾ったのよ」

「拾った?」

「そう。そうねえ、あれは十年くらい前だったかしら?ルーリーが初めて召喚したのが私だったの。でも何故か王都とは遠いマククル湖の近くに呼び出されてて……きっと失敗したのね。その時湖畔でフリンたちを見付けたの」

十年くらい前ならまだ赤ちゃんってことだよな……。

「二人はなんでそんなとこにいたの?」

「わからないわ。まだよちよち歩きぐらいだったのに。エルフの里はその近くになかったし……ほんと今だに不思議なのよね~」

迷子になるような距離でもないってことか……。もしかして捨てられた?

ブリギッド姉さまもそう考えていたのか、切り換えるように殊更明るい声で話を続けた。

「で、とりあえず呼び出したルーリーのところまで連れて行って……そしたら育てようってなったの」

「二人の名前は誰が付けたの?まだ喋れない頃だったんでしょう?」

「そうよ。だから私とルーリーが名前を付けたの」

「二人で考えたの?」

「違うわ。フラムの方は私が付けたの。古い異国の言葉で“炎”という意味があるのよ」

「フリンは?」

「フリンはルーリーが付けたの。古代の英雄の名前から取ったらしいわよ。女の子なんだから、もっと可愛い名前にしたらよかったのにねえ。まあ、最初は二人とも男の子だと思ったから仕方ないかもしれないけど」

名前の話で思い出した。今日キリン先生から聞いた話だ。

「そういえば、ブリギッド姉さまって、女神さまの名前だったのね」

「ええ、そうよ。ルーリーが付けてくれたの。火の女神の名前よ。中々いい名前をくれたわ」

そう言いながら優しい表情で微笑む。

「バカだけど優しいし、いいとこもあるのよ。それに誰よりもこの国のことを考えているわ」

「あの変態が?」

俺が信じられない、と言外に匂わせると、ブリギッド姉さまも苦笑した。

「まあ、たまになんでこんなのと契約しちゃったのかって後悔することもあるけどね」

茶化すような調子でブリギッド姉さまは言った。ほんとはそんなこと思ってないんだろうなあ。羨ましい。

そんなことを話していたら、ようやくセクアナが帰ってきた。

「ただいま~」

「おかえり。楽しかった?」

「ええ!とっても楽しかったわ!」

確かに顔がイキイキしている。これから勉強している間は、ずっと外出させた方がいいかもしれない。

そう思い付いてセクアナを見ると、セクアナがにこにこしながら俺を見ていた。

「何?」

「はい!お土産!」

はいっと渡されたのは七色に光る何かの鱗のようなものだった。

「メローの鱗よ。幸運を運んでくれるの」

「ありがとう」

俺はそれを、フリンがくれた防御魔法の掛けられているペンダントのロケットに入れた。

「フリンがそれ渡したの見て、わたしも何かプレゼントしたかったの」

えへへ、とセクアナが照れながら言う。

「ありがとう!セクアナ、大好き!」

「わたしも!」

ひしっとセクアナに抱きつく。

「微笑ましいわねぇ」

ブリギッド姉さまに笑われ、俺たちは顔を見合わせ、照れ臭くなって笑った。

今日もなんだかんだで充実した楽しい一日だった。

俺はこの世界の人間ではない。だから魔法も使えない……かもしれない。

そんなこと……今は考えない。

セクアナがいるんだ。きっと心配いらない……はずだ。
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