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7 精霊の召喚に成功しました
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こちらに着て、いや、目覚めてから二十日が過ぎた。
ルーイは朝から機嫌が悪かった。
「どうしたの?なんか怒ってる?」
珍しく朝から着てくれたと思ったら、口数も少ないし、笑顔がいつもと違っていた。だから聞いたのだが、ルーイは慌てていつもの笑顔を浮かべてしまう。
「何でもないよ。それより今日は湖に行かないかい?」
絶対そうは見えないけど、それ以上聞くのは恐いので、素直に話しに乗った。
「湖?行ってみたい」
「もしかして“湖の貴婦人”に会いに行くの?」
セクアナが嫌そうな顔をしてルーイに尋ねる。
「“湖の貴婦人”って?」
「湖の妖精のこと。あの人たち、綺麗だけどプライド高くて付き合いにくいの」
セクアナの言葉に、ルーイが苦笑し首を振った。
「違うよ。ちょっと用事があって。それに湖畔でゆっくりもしたいし」
「それってマククル湖?遠いんじゃないの?」
確かマククル湖は王都から馬で二日程かかる距離にあると聞いた。忙しい立場のルーイなのに、そんな遠出をして平気なのだろうか。
そういう意味もこめて聞いたのだが、ルーイは否定した。
「よく知ってるね。でも行くのはマククル湖じゃないよ。もっと近くの、サヴリナ湖っていう小さな湖なんだ。ここからだと二時間くらいで行けるよ」
「いつ出発するの?」
「朝食はもう食べたんだよね?なら着替えたら出よう。この時間なら昼には向こうに着く。昼食はあちらで食べよう」
「わかった」
頷いてすぐに準備を始める。まだ部屋着のままだったから確かに着替えは必要だ。ただどんな服に着替えたらいいのかわからない。
「セクアナ、服選ぶの手伝って」
「まっかせて!」
当然のことながら、始めのうち、俺にはこちらの女の子、特にこれくらいの幼女が着そうな服なんてわからなかった。まあ元の世界でもわからなかったが。とにかく、この世界の服なんてさっぱりわからない。服はほぼ毎日セクアナが選んでくれていた。最近はそろそろ慣れたのであんまり聞くこともなくなったいたのだが、今日は行ったことない場所に行くのだ。TPOに合った服を選ぶのはまだ難しい。こういうのは最初からセクアナに任せた方が早いのだ。
セクアナはルーイに近付くと、まず小声で何か聞いていた。一体何を聞いているのか不安になる。耳を澄ませば聞こえるかなっと思っていたら、二人の声が急に普通の大きさになった。
「馬車で行くのよね?」
「そうだよ。王宮魔法使い用だから、速いし快適なんだ」
「具体的にはサヴリナ湖のどの辺り?」
「ほんとにそばだよ。サブリナ湖の南側、うちが持ってる湖畔の別荘に行くんだ」
「客船やボートに乗ったりする?」
「今のとこその予定はないね。でももしかしたら必要かも」
矢継ぎ早に尋ねるセクアナに、ルーイもポンポンとテンポよく答えている。セクアナの求めている答えがルーイにはきちんとわかっているようだ。
「湖入ったりは?水の遊びとかはしないの?」
「ああ。でもできるだけ動きやすい服がいいと思う。装飾も少なめに。けどなるべく可愛いのにして欲しいな」
デートだからね、なんて冗談混じりに付け足すので、セクアナが思いっきり耳を引っ張った。
ちょっとあの変態王子に似てるな、なんて思ってしまった。
他にも二、三点程聞いていたが、俺にはどんな服を選べばいいかさっぱりわからなかった。えらく注文が多いような気もしたが、セクアナは迷わずに何点かの服を衣装ダンス――ワードロープというそうだ――から引っ張り出してくる。
「これはわりと動きやすいの。このウェストにリボンが素敵だと思わない?こっちはシンプルに見えてお洒落なデザインでしょ?胸元にもさりげなくビジューが付いてるし。あとこっちも可愛いと思うの!このピンクと水色の花柄が大人可愛いくてリオナに似合うと思うわ!」
セクアナが捲し立てるが俺にはさっぱりわからない。服なんてどれでも着られればいいと思っているからだ。まあそれを口に出せば、セクアナが烈火の如く怒るだろうけど。でもどれがいいのか、ほんとにわからないのだ。
「ど、どれも素敵ね。ルーイはどれがいいと思う?」
卑怯だがルーイに丸投げすることにした。
「そうだな。俺はこの白と水色のがいいと思う。セクアナのいう通り、リボンが素敵だね。ウェストにリボンを巻くのも今流行ってるみたいだし」
実に爽やかに宣った。イケメンは女の子の服の流行りにまで詳しいらしい。
イケメンってすげえな。
――と、いうことで、出掛けるまでに精神的に疲労した俺を乗せ、馬車はサヴリナ湖に向かった。
王宮魔法使い用という馬車は、中の装飾はそれほど華美ではないが、横に三人掛けてもまだ広い大層立派な馬車だった。座席も軟らかく、寝っ転がってもいいと言われたので、苦痛を受けることもなく寛ぐことができた。それに魔法を掛けてあるため、ほとんど揺れることもない。おまけに速い。魔法ってやっぱ便利だ。
結局二時間もたたずに到着した。
「すげえ……」
思わず素で言ってしまう。それぐらいサヴリナ湖はでかかった。
想像以上の大きさに口を開けていると、ルーイとセクアナが笑った。
「そう?これぐらいの湖、この国にはたくさんあるわよ?」
「そうそう。これでもまだ小さい方だよ。マククル湖はこの五倍以上あるからね」
この五倍?それってもう海なんじゃ……。あ、でも琵琶湖も結構でかいしな……。
湖には巨大な船が何隻か浮かんでいる。向こう側は遠すぎて全然見えない。
「さあて、そろそろ別荘に向かおうか。ここからすぐだよ。たぶんもうお昼の準備は出来てるはずだから」
辿り着いたルーイの別荘は……まあ別荘なんだろうけど、俺が想像する別荘とは違った。丸太で出来たログハウス風を想像していた訳じゃない。訳じゃないけど……。
「これは別荘レベルじゃねえよ!」
部屋に案内してもらって、一人になったところで、脱力感に襲われながらも俺は叫んだ。
どう見ても邸宅だ。お金持ちのお屋敷だ。
ここはルーイの父親、ケリー辺境伯が治める領地の一部で、飛び地らしい。他にもたくさん領地を持っているため、管理は町長とこの別荘の使用人頭がしているそうだ。それでも月に一度は家族の誰かが見に来るらしい。そのために広いのだとか。
だからなのか、俺が考える別荘にはお手伝いさんはあんなにたくさんいない。迎えてくれた人たちの数を思い出してひいたのだ。メイドさんだけで十人はいただろうか。
別荘は五階建てで、主寝室やルーイたち用の私室、その他に客室が十部屋もあるなんて信じられない。ましてやダンスが出来る広間があるとか……。
王宮の生活で慣れてきたと思ったが、まだまだだ。ブルジョワジーめ。
ふぅとため息を吐いて、自分にあてがわれた部屋をぐるりと眺める。さすがに王宮の俺の部屋より小さいが、それでも十分広い。十畳以上はありそうだ。
「ベッドもふかふかだ~」
ベッドに座って跳ねていたら、ドアをノックされた。
「食事の用意が出来たから降りておいで」
「はいよー」
あ、思わず素で返しちまった。焦ったが、ルーイは聞こえなかったのか、気にせず降りていった。
「リオナ~。早く下に行こう!いい匂いだよー」
今度はセクアナが入ってきた。開けた窓から。
「わかったわ」
一階に降りると、イーヴィンさんが待っていた。
「来てたの?」
「ええ。朝一番に。さ、食堂までご案内いたします」
案内された食堂には、すでにルーイが座って待っていた。
「さ、席に着いて。昼からはリオナにしてもらいたいことがあるんだ。だからしっかり食べておいてね」
「わたしが?何かやるの?」
「そう」
「一体何をすればいいの?」
「まあそれは後のお楽しみ。今は食べよう」
そう言われてもな……。一体何をやらされるんだ?もしかしていよいよ使命か?
そんなことを考えていたら味なんてわからなかった。せっかく美味しそうな料理をたくさん運んでもらったのに……。どうせなら食べ終わってから言って欲しかったな、なんて……。
食事の後、別荘の敷地内にある、ボート乗り場に向かった。個人用なのか、手こぎボートが数隻、桟橋に横付けされている。
「ここを見ればよくわかると思うんだけど……」
ルーイにそう示され、水面を見る。
あれ?浅い?桟橋からボートって普通こんなに高さに差があるものか?
「浅いだろう?」
「うん」
「ここ最近、この辺りでは雨が降っていないんだ。だから水量が減ってしまってね」
「??????」
あれ?俺が記憶している限り、確か毎日降っていたけど。スコールみたいな雨が。綺麗な虹も見たし……。王都からそれほど離れていないのに、天気がそれほど違うものなのか?
それに……確かこないだキリン先生が言っていたよな?この国では気象変化が激しく、突然の雨が、国のどこでも毎日一回は降るって……。
「ほんとに降ってないの?」
「そうなんだ。だから君に、水量を元の状態に戻してもらおうと思って」
「わ、わたしに!?」
「そう。水の精霊を呼び出してもらってね」
「そんなこと、わざわざ精霊を呼び出さなくてもわたしがするののに」
「それじゃあ訓練にならないだろう?」
用事って……俺のやることって、そういうことだったのか。俺の魔法の訓練のためだったんだ。なんか重大な使命とかじゃなくてよかった。
「水の精霊の召喚魔法は、おととい教えたよね?」
不満顔のセクアナをスルーして、ルーイがにこにこと笑う。
「う~ん自信はないけど……」
「大丈夫。リオナならきっと出来るよ。失敗なんてする訳ない」
その根拠のない確信はどこからくるのか。まだ魔法なんて実際使ったことないのに……。初めてがいきなり召喚魔法かよ!
「ルーイって意外とスパルタね」
「そう?確実に出来ると思ったからここに来たんだよ。自信を持って」
そう言われてもな……。
「リオナ、大丈夫!リオナなら簡単に出来るわ!ちょっと嫌だけど……もし失敗してもわたしがやってあげるから、安心して!」
セクアナにもそう言われ、俺は仕方なく魔法を使うことにした。自信は全くないけどやるしかない!失敗してもセクアナがいるんだ!
えーーーと……っと、確か水の精霊の呼び出し方は……。
「清らかなる水に住まいし水の精霊よ。我の呼びかけに応え、その姿を現し、我に力を貸したまえ」
水が増えるイメージを思い浮かべ、俺がそう唱えると、桟橋の向こうに輝くような長い髪の、人間離れした美しい女性が現れた。まるで女神のような彼女は、水面に浮かんでいる。
「いや……、まさかウンディーネとはね……」
ルーイが呆れたように俺を見る。
「えと…なんかまずかった?」
「まずくなんかないよ。ただ単純に驚いただけ……はは、リオナ、君はほんと凄いね」
その美しく麗しい精霊は、俺を見て微笑む。俺の命令を待っているようだ。
「あの……お願いできますか?この湖を元の水量に戻して欲しいんです」
「お安いご用でございます」
精霊がにこりと笑う。そして目を瞑ったと思ったら、あっという間に水が増えていた。
「凄い……ありがとうございます」
「いいえ。ですが……あなた様にはすでに水の眷属がついていらっしゃるご様子。わたくしの手など必要なかったのでは?」
「実はこの子、召喚したのは初めてなんだ。魔法もまだ使ったことなくて。だから腕試しのつもりで……失礼なことして申し訳なかったよ」
「いいえ。お呼びいただいて光栄ですわ。ぜひまたお呼び下さいさい」
そう言って、彼女は優雅にお辞儀し、突然発生した霧の中へと消える。
「よかった……出来た……」
へなへなと地面に座り込むと、ルーイが苦笑しながら手を貸してくれた。
「最初からまさかウンディーネとはね……。さすがに驚いたよ」
「ウンディーネって?」
「高位の水の精霊だよ。サラマンダー――ブリギッドと同じ、かなり高位の、上級者しか呼び出せない精霊なんだけど……はあ~」
ルーイが深い息を吐いて、頭を掻く。なんだか困っているような、でも嬉しそうな、複雑な表情を浮かべている。
「そうなんだ。でも、あの変態……、ルーリー?殿下も初めて召喚したのがブリギッド姉さまだって」
「ああそうだね。バカだけど、魔力は強いからね。魔法の実力もあるし」
「あいつ、魔力強いんだ。意外」
思わずあいつと言ってしまった。ルーイはそれを笑って許してくれる。
「でも殿下は少し失敗したんだよ」
「あ、それ聞いた。なんかマククル湖に呼び出されたって」
「そうなんだ。だからリオナの方が凄いよ。全く、末恐ろしいね」
その後、ルーイが小声で呟いた言葉は、俺には聞こえなかった。
セクアナには聞こえたのか、微妙な表情を浮かべている。
「セクアナ?どうかした?」
「ううん。何でもない」
「じゃあ別荘に戻ろうか。町長たちに報告しておかないと」
ルーイが踵を返した。その後ろをセクアナがそわそわと落ち着かない様子でら飛んでいく。何か聞きたいが、聞けない。そんな感じだった。
セクアナは一体何を聞いたのだろう。
ただ、その時の俺は、召喚魔法に成功した喜びで、そんなセクアナを思いやる余裕はなかった。
また呼んでいいと言われた。しかも高位の精霊。
嬉しくない訳がない。
ウンディーネ……巨乳だったなあ、などとは少ししか、ほんとにほんの少ししか、思わなかった。
その日の夕方。
その喜びが一瞬にして消滅してしまう出来事が起きた。
王宮に戻った俺に、なんと新しい部屋が用意されていたのだ。
あの変態王子が住むオインガス宮の隣、アリアンロッド宮の宮殿ごと。
犯人はあの変態王子だ。ルーイに怒鳴られたあいつは、悪びれもせずこう言ったそうだ。
『やっとリオナの服が出来たんだ。でも持って行ったらいないし。仕方ないから服だけでも置いて帰ろうとしたら、部屋のワードロープには小さくて入らなかった。だったら、もっと広い、専用の衣装部屋がある部屋にしたらいいかなって……』
会わずに済んで助かっていたと思ったのに……これかよ!
あいつを始末する魔法を、次は覚えたい。
俺は心底そう思った。
すぐに部屋は戻してもらえたが、服は返せずじまい。置き場所がないので捨て……たかったが、それはあんまりなのでルーイに預かってもらった。
なんて迷惑なやつ!!
ルーイは朝から機嫌が悪かった。
「どうしたの?なんか怒ってる?」
珍しく朝から着てくれたと思ったら、口数も少ないし、笑顔がいつもと違っていた。だから聞いたのだが、ルーイは慌てていつもの笑顔を浮かべてしまう。
「何でもないよ。それより今日は湖に行かないかい?」
絶対そうは見えないけど、それ以上聞くのは恐いので、素直に話しに乗った。
「湖?行ってみたい」
「もしかして“湖の貴婦人”に会いに行くの?」
セクアナが嫌そうな顔をしてルーイに尋ねる。
「“湖の貴婦人”って?」
「湖の妖精のこと。あの人たち、綺麗だけどプライド高くて付き合いにくいの」
セクアナの言葉に、ルーイが苦笑し首を振った。
「違うよ。ちょっと用事があって。それに湖畔でゆっくりもしたいし」
「それってマククル湖?遠いんじゃないの?」
確かマククル湖は王都から馬で二日程かかる距離にあると聞いた。忙しい立場のルーイなのに、そんな遠出をして平気なのだろうか。
そういう意味もこめて聞いたのだが、ルーイは否定した。
「よく知ってるね。でも行くのはマククル湖じゃないよ。もっと近くの、サヴリナ湖っていう小さな湖なんだ。ここからだと二時間くらいで行けるよ」
「いつ出発するの?」
「朝食はもう食べたんだよね?なら着替えたら出よう。この時間なら昼には向こうに着く。昼食はあちらで食べよう」
「わかった」
頷いてすぐに準備を始める。まだ部屋着のままだったから確かに着替えは必要だ。ただどんな服に着替えたらいいのかわからない。
「セクアナ、服選ぶの手伝って」
「まっかせて!」
当然のことながら、始めのうち、俺にはこちらの女の子、特にこれくらいの幼女が着そうな服なんてわからなかった。まあ元の世界でもわからなかったが。とにかく、この世界の服なんてさっぱりわからない。服はほぼ毎日セクアナが選んでくれていた。最近はそろそろ慣れたのであんまり聞くこともなくなったいたのだが、今日は行ったことない場所に行くのだ。TPOに合った服を選ぶのはまだ難しい。こういうのは最初からセクアナに任せた方が早いのだ。
セクアナはルーイに近付くと、まず小声で何か聞いていた。一体何を聞いているのか不安になる。耳を澄ませば聞こえるかなっと思っていたら、二人の声が急に普通の大きさになった。
「馬車で行くのよね?」
「そうだよ。王宮魔法使い用だから、速いし快適なんだ」
「具体的にはサヴリナ湖のどの辺り?」
「ほんとにそばだよ。サブリナ湖の南側、うちが持ってる湖畔の別荘に行くんだ」
「客船やボートに乗ったりする?」
「今のとこその予定はないね。でももしかしたら必要かも」
矢継ぎ早に尋ねるセクアナに、ルーイもポンポンとテンポよく答えている。セクアナの求めている答えがルーイにはきちんとわかっているようだ。
「湖入ったりは?水の遊びとかはしないの?」
「ああ。でもできるだけ動きやすい服がいいと思う。装飾も少なめに。けどなるべく可愛いのにして欲しいな」
デートだからね、なんて冗談混じりに付け足すので、セクアナが思いっきり耳を引っ張った。
ちょっとあの変態王子に似てるな、なんて思ってしまった。
他にも二、三点程聞いていたが、俺にはどんな服を選べばいいかさっぱりわからなかった。えらく注文が多いような気もしたが、セクアナは迷わずに何点かの服を衣装ダンス――ワードロープというそうだ――から引っ張り出してくる。
「これはわりと動きやすいの。このウェストにリボンが素敵だと思わない?こっちはシンプルに見えてお洒落なデザインでしょ?胸元にもさりげなくビジューが付いてるし。あとこっちも可愛いと思うの!このピンクと水色の花柄が大人可愛いくてリオナに似合うと思うわ!」
セクアナが捲し立てるが俺にはさっぱりわからない。服なんてどれでも着られればいいと思っているからだ。まあそれを口に出せば、セクアナが烈火の如く怒るだろうけど。でもどれがいいのか、ほんとにわからないのだ。
「ど、どれも素敵ね。ルーイはどれがいいと思う?」
卑怯だがルーイに丸投げすることにした。
「そうだな。俺はこの白と水色のがいいと思う。セクアナのいう通り、リボンが素敵だね。ウェストにリボンを巻くのも今流行ってるみたいだし」
実に爽やかに宣った。イケメンは女の子の服の流行りにまで詳しいらしい。
イケメンってすげえな。
――と、いうことで、出掛けるまでに精神的に疲労した俺を乗せ、馬車はサヴリナ湖に向かった。
王宮魔法使い用という馬車は、中の装飾はそれほど華美ではないが、横に三人掛けてもまだ広い大層立派な馬車だった。座席も軟らかく、寝っ転がってもいいと言われたので、苦痛を受けることもなく寛ぐことができた。それに魔法を掛けてあるため、ほとんど揺れることもない。おまけに速い。魔法ってやっぱ便利だ。
結局二時間もたたずに到着した。
「すげえ……」
思わず素で言ってしまう。それぐらいサヴリナ湖はでかかった。
想像以上の大きさに口を開けていると、ルーイとセクアナが笑った。
「そう?これぐらいの湖、この国にはたくさんあるわよ?」
「そうそう。これでもまだ小さい方だよ。マククル湖はこの五倍以上あるからね」
この五倍?それってもう海なんじゃ……。あ、でも琵琶湖も結構でかいしな……。
湖には巨大な船が何隻か浮かんでいる。向こう側は遠すぎて全然見えない。
「さあて、そろそろ別荘に向かおうか。ここからすぐだよ。たぶんもうお昼の準備は出来てるはずだから」
辿り着いたルーイの別荘は……まあ別荘なんだろうけど、俺が想像する別荘とは違った。丸太で出来たログハウス風を想像していた訳じゃない。訳じゃないけど……。
「これは別荘レベルじゃねえよ!」
部屋に案内してもらって、一人になったところで、脱力感に襲われながらも俺は叫んだ。
どう見ても邸宅だ。お金持ちのお屋敷だ。
ここはルーイの父親、ケリー辺境伯が治める領地の一部で、飛び地らしい。他にもたくさん領地を持っているため、管理は町長とこの別荘の使用人頭がしているそうだ。それでも月に一度は家族の誰かが見に来るらしい。そのために広いのだとか。
だからなのか、俺が考える別荘にはお手伝いさんはあんなにたくさんいない。迎えてくれた人たちの数を思い出してひいたのだ。メイドさんだけで十人はいただろうか。
別荘は五階建てで、主寝室やルーイたち用の私室、その他に客室が十部屋もあるなんて信じられない。ましてやダンスが出来る広間があるとか……。
王宮の生活で慣れてきたと思ったが、まだまだだ。ブルジョワジーめ。
ふぅとため息を吐いて、自分にあてがわれた部屋をぐるりと眺める。さすがに王宮の俺の部屋より小さいが、それでも十分広い。十畳以上はありそうだ。
「ベッドもふかふかだ~」
ベッドに座って跳ねていたら、ドアをノックされた。
「食事の用意が出来たから降りておいで」
「はいよー」
あ、思わず素で返しちまった。焦ったが、ルーイは聞こえなかったのか、気にせず降りていった。
「リオナ~。早く下に行こう!いい匂いだよー」
今度はセクアナが入ってきた。開けた窓から。
「わかったわ」
一階に降りると、イーヴィンさんが待っていた。
「来てたの?」
「ええ。朝一番に。さ、食堂までご案内いたします」
案内された食堂には、すでにルーイが座って待っていた。
「さ、席に着いて。昼からはリオナにしてもらいたいことがあるんだ。だからしっかり食べておいてね」
「わたしが?何かやるの?」
「そう」
「一体何をすればいいの?」
「まあそれは後のお楽しみ。今は食べよう」
そう言われてもな……。一体何をやらされるんだ?もしかしていよいよ使命か?
そんなことを考えていたら味なんてわからなかった。せっかく美味しそうな料理をたくさん運んでもらったのに……。どうせなら食べ終わってから言って欲しかったな、なんて……。
食事の後、別荘の敷地内にある、ボート乗り場に向かった。個人用なのか、手こぎボートが数隻、桟橋に横付けされている。
「ここを見ればよくわかると思うんだけど……」
ルーイにそう示され、水面を見る。
あれ?浅い?桟橋からボートって普通こんなに高さに差があるものか?
「浅いだろう?」
「うん」
「ここ最近、この辺りでは雨が降っていないんだ。だから水量が減ってしまってね」
「??????」
あれ?俺が記憶している限り、確か毎日降っていたけど。スコールみたいな雨が。綺麗な虹も見たし……。王都からそれほど離れていないのに、天気がそれほど違うものなのか?
それに……確かこないだキリン先生が言っていたよな?この国では気象変化が激しく、突然の雨が、国のどこでも毎日一回は降るって……。
「ほんとに降ってないの?」
「そうなんだ。だから君に、水量を元の状態に戻してもらおうと思って」
「わ、わたしに!?」
「そう。水の精霊を呼び出してもらってね」
「そんなこと、わざわざ精霊を呼び出さなくてもわたしがするののに」
「それじゃあ訓練にならないだろう?」
用事って……俺のやることって、そういうことだったのか。俺の魔法の訓練のためだったんだ。なんか重大な使命とかじゃなくてよかった。
「水の精霊の召喚魔法は、おととい教えたよね?」
不満顔のセクアナをスルーして、ルーイがにこにこと笑う。
「う~ん自信はないけど……」
「大丈夫。リオナならきっと出来るよ。失敗なんてする訳ない」
その根拠のない確信はどこからくるのか。まだ魔法なんて実際使ったことないのに……。初めてがいきなり召喚魔法かよ!
「ルーイって意外とスパルタね」
「そう?確実に出来ると思ったからここに来たんだよ。自信を持って」
そう言われてもな……。
「リオナ、大丈夫!リオナなら簡単に出来るわ!ちょっと嫌だけど……もし失敗してもわたしがやってあげるから、安心して!」
セクアナにもそう言われ、俺は仕方なく魔法を使うことにした。自信は全くないけどやるしかない!失敗してもセクアナがいるんだ!
えーーーと……っと、確か水の精霊の呼び出し方は……。
「清らかなる水に住まいし水の精霊よ。我の呼びかけに応え、その姿を現し、我に力を貸したまえ」
水が増えるイメージを思い浮かべ、俺がそう唱えると、桟橋の向こうに輝くような長い髪の、人間離れした美しい女性が現れた。まるで女神のような彼女は、水面に浮かんでいる。
「いや……、まさかウンディーネとはね……」
ルーイが呆れたように俺を見る。
「えと…なんかまずかった?」
「まずくなんかないよ。ただ単純に驚いただけ……はは、リオナ、君はほんと凄いね」
その美しく麗しい精霊は、俺を見て微笑む。俺の命令を待っているようだ。
「あの……お願いできますか?この湖を元の水量に戻して欲しいんです」
「お安いご用でございます」
精霊がにこりと笑う。そして目を瞑ったと思ったら、あっという間に水が増えていた。
「凄い……ありがとうございます」
「いいえ。ですが……あなた様にはすでに水の眷属がついていらっしゃるご様子。わたくしの手など必要なかったのでは?」
「実はこの子、召喚したのは初めてなんだ。魔法もまだ使ったことなくて。だから腕試しのつもりで……失礼なことして申し訳なかったよ」
「いいえ。お呼びいただいて光栄ですわ。ぜひまたお呼び下さいさい」
そう言って、彼女は優雅にお辞儀し、突然発生した霧の中へと消える。
「よかった……出来た……」
へなへなと地面に座り込むと、ルーイが苦笑しながら手を貸してくれた。
「最初からまさかウンディーネとはね……。さすがに驚いたよ」
「ウンディーネって?」
「高位の水の精霊だよ。サラマンダー――ブリギッドと同じ、かなり高位の、上級者しか呼び出せない精霊なんだけど……はあ~」
ルーイが深い息を吐いて、頭を掻く。なんだか困っているような、でも嬉しそうな、複雑な表情を浮かべている。
「そうなんだ。でも、あの変態……、ルーリー?殿下も初めて召喚したのがブリギッド姉さまだって」
「ああそうだね。バカだけど、魔力は強いからね。魔法の実力もあるし」
「あいつ、魔力強いんだ。意外」
思わずあいつと言ってしまった。ルーイはそれを笑って許してくれる。
「でも殿下は少し失敗したんだよ」
「あ、それ聞いた。なんかマククル湖に呼び出されたって」
「そうなんだ。だからリオナの方が凄いよ。全く、末恐ろしいね」
その後、ルーイが小声で呟いた言葉は、俺には聞こえなかった。
セクアナには聞こえたのか、微妙な表情を浮かべている。
「セクアナ?どうかした?」
「ううん。何でもない」
「じゃあ別荘に戻ろうか。町長たちに報告しておかないと」
ルーイが踵を返した。その後ろをセクアナがそわそわと落ち着かない様子でら飛んでいく。何か聞きたいが、聞けない。そんな感じだった。
セクアナは一体何を聞いたのだろう。
ただ、その時の俺は、召喚魔法に成功した喜びで、そんなセクアナを思いやる余裕はなかった。
また呼んでいいと言われた。しかも高位の精霊。
嬉しくない訳がない。
ウンディーネ……巨乳だったなあ、などとは少ししか、ほんとにほんの少ししか、思わなかった。
その日の夕方。
その喜びが一瞬にして消滅してしまう出来事が起きた。
王宮に戻った俺に、なんと新しい部屋が用意されていたのだ。
あの変態王子が住むオインガス宮の隣、アリアンロッド宮の宮殿ごと。
犯人はあの変態王子だ。ルーイに怒鳴られたあいつは、悪びれもせずこう言ったそうだ。
『やっとリオナの服が出来たんだ。でも持って行ったらいないし。仕方ないから服だけでも置いて帰ろうとしたら、部屋のワードロープには小さくて入らなかった。だったら、もっと広い、専用の衣装部屋がある部屋にしたらいいかなって……』
会わずに済んで助かっていたと思ったのに……これかよ!
あいつを始末する魔法を、次は覚えたい。
俺は心底そう思った。
すぐに部屋は戻してもらえたが、服は返せずじまい。置き場所がないので捨て……たかったが、それはあんまりなのでルーイに預かってもらった。
なんて迷惑なやつ!!
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5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
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