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8 甘いものともふもふは正義なんです
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王宮で会議が行われるという日。
授業がないので、今日は街を散策することにした。お供はイリルさんと双子だ。肩にはもちろんセクアナも乗っている。
「今日は噴水広場に行きましょ!この間は行けなかったけど、あの周りには美味しいお店がたくさんあるのよ」
セクアナが意気揚々提案すると、双子も目を輝かせた。
「アイス!アイスがおいしいよ!」
「フリン、アイスはこないだ食べたから、今日はクレープ屋さんにしようよ!」
「え~~っ?今日はちがうの食べたかったのに~~」
「両方食べたらどうですか?俺は角のお菓子屋の新作ケーキが食いたいです」
食べることが大好きな双子の意見に、まさかのイリルさんが乗ってきた。それどころか新たにちゃっかり自分の要望もぶっ込んでくる。
「新作ケーキ?どんなの?」
「それも食べたい。おいしい?」
双子が早速食い付いている。
「美味しいらしいですよ。俺もまだ食べてないんですが、確か洋梨のロールケーキとコケモモと木苺のミルフィーユだとか。特にミルフィーユはフルーツの甘酸っぱさとカスタードクリーム、サクサクのパイ生地がまた絶妙なハーモニーで、とても美味しいらしいです」
双子の顔を見れば、まるで夢見るようにうっとりしている。イリルさんも自分で言ってるうちに想像したのだろう、今にもよだれが出そうだ。
そうだった。この人見かけによらず、甘いものが大好きなスイーツ男子、いやオヤジだった。
まあ俺も甘いものは嫌いじゃないので興味はある。けど、さすがにアイスにクレープ、ケーキ、それらを全部食べるのは無理そうだ。
「わたしはケーキだけにするわ。アイスとクレープは入りそうにないもの」
「わたしもケーキだけでいい。三人が食べてる間、噴水前で待ってましょ!」
セクアナもそう言ったので二人で噴水前で待つことにした。
「俺もそちらに……」
「いいからフラムたちと食べてきて。わたしならセクアナがいるから大丈夫よ」
渋るイリルさんを、そう言って送り出した。
噴水前は今日も人で溢れていた。ここは王都一の観光地なのだ。
王宮のより一回り小さいが、王宮の噴水にも引けを取らない、精緻な装飾が施されている。
「確かに凄い美人だなあ~」
女神ダーナの像を繁々と眺めてそう思う。金髪碧眼かは大理石で出来ているからわからないが、優しげな顔立ちは確かに変態王子に似ている気がする。
噴水の縁に手を着いて乗り出して見ていると、セクアナが像目掛けて飛んでいった。
どうやら友達がいたらしい。
中央にある、両手を広げたダーナの像。その周囲からは絶えず水が噴き上げられている。目を凝らすと、その水の中に、小さな妖精たちがいるのに気付いた。この間紹介してもらった水の妖精たちだ。
噴き上げられている水の中を、セクアナと他の妖精たちが飛び回っている。楽しそうだ。夏なら俺も混ざりたい。
ぼんやりと妖精たちが戯れる光景を見ていたら、足に何かふわふわした柔らかい物が当たった。足元を見れば、真っ白でもふもふの何やら丸い物体が……。
「うさぎ!?うわっ、もふもふだ~」
抱き上げてみると、それは普通のうさぎより一回り程大きかった。それに毛がふわふわしている。まるでぬいぐるみのようだ。体は真っ白で耳の先だけが黒い。目はルビーのような綺麗な赤だ。
「か、可愛いーーー!!もふもふ~」
思わず我を忘れて叫んでしまった。
だって仕方がないだろう。俺は動物、特にもふもふした生き物が大好きなのだ。何度犬や猫を飼いたいと両親に訴えたことか。
俺は思わずそのふわふわのお腹を撫でくりまわし、にんまりしてしまう。
その間、そのうさぎは逃げる素振りもなく、大人しくしていてくれる。これは野性じゃないな。誰かに飼われているやつだ。
「つーかお前どっから来たんだ?、迷子か?」
噴水の縁に下ろし、頭を撫でながら聞いてもうさぎは答えない。当たり前だ。
どうしようかと困っていると、それまで大人しかったうさぎが急に耳をピクリとさせ起き上がった。
「飼い主でも見付けたか?」
そう聞けば、まるでそうだと言わんばかりにぴょんと跳ね、手に頭を擦り付けてきた。そして名残惜しそうに振り向きながら駆けていく。
あ~あ、残念。もっと撫でていたかったのに。
それにしても心地好かった。あれは癖になる手触りだ。
手をグーパーしていたら、ぎゅむっと後ろから抱き着かれた。
「リオナ、アイス食べてきたよ!アイスもクレープもスッゴクおいしかった!」
「うん、おいしかった!今度はリオナも食べに行こうね!」
もう双子が帰ってきた。セクアナはまだ遊びたそうだが、仕方がないので呼び戻す。
今度は全員でイリルさんお薦めのお菓子屋に向かった。
そこは、予想通り、窓にはレースやリボン、黄色やピンクの花などが飾られたメルヘンで乙女チック、いかにも女の子が喜びそうな外観の店だった。元の姿ではとてもじゃないけど入れなかっただろう。
中に入ると内も想像通りだった。外からはわからなかったが、結構混んでいる。日本と違って普通に男性客もいた。
「奥の席にしましょう」
イリルさんがそう言うので、店の一番奥、窓際にソファがある、広めのテーブル席に座ることにした。
「何にしますか?俺は新作二つとりんごのタルトにしますけど」
イリルさんが嬉しそうにメニューを見せてくれた。自分はもう決めたらしい。さすがだ。しかも三つも頼むのか。もしやそのデカイ体は甘いもので構成されてるとか?
ハートやリボンで飾りたてられた可愛らしいメニュー表には、これまた可愛らしいケーキがたくさん載っていた。ざっと見たところ、三十種類ぐらいはありそうだ。
「どれも美味しそうで迷う……りんごのパイも美味しそうだし、このブルーベリーのかかったチーズケーキも美味しそう……。さくらんぼのゼリーも捨てがたいなあ。あ、苺のシフォンケーキもある。はあ~美味しそう……ああ、もう、選べないよ~~~」
ほんとに目移りしてしまう。
この世界の食べ物は、見た目も味も慣れ親しんだものとは違うが、どれもこれも凄く美味しい。もちろんりんごのように、見た目も味もそのままなものもある。特にフルーツは同じものが多かった。甘いものだけでなくフルーツも好きな俺には嬉しい一致だ。
そのフルーツを使ったケーキ。つまりは、どれを選んでも間違いなく美味しいってことなのだ。
「気になるの全部頼んだら?」
セクアナが事も無げに言う。
「そうだよ、そうすればいいよ!」
「そうそう!いっぱいたのもう!」
双子たちが同意する。
「でも……そんなに食べられないし……」
「大丈夫だよ!残ったらボクたちが食べるから!」
「うん、食べるー!食べるー!」
いやいや……君らそうは言ってもすでに自分の食べる分選んでんじゃん。八つも……。
しかし結局、双子に押し切られ、気になる四種類のケーキを頼んでしまった。全部食べたら太るな……。
そうは思っても、ケーキを目の前にすれば無理だった。
テーブルには載りきらないとのことで、二回に分けて持ってきてもらうことにしたが……
「美味しそう~~」
これならワゴンで一気に持ってきてもらえばよかった。あっという間に食べきってしまいそうだ。思わずうっとりしてしまう。
運ばれてきたケーキは、メニュー表に掲載されているものよりはるかに美味しそうだったのだ。
ちらりとみんなを見ると、すでに食べ始めていた。双子は顔を上げることなく、一心不乱にケーキにかぶりついている。イリルさんは、ゆっくり一口ずつ味わいながら、幸せそうに頬張っていた。セクアナも、ハーフサイズのりんごのタルトを一生懸命かじっている。
『あ、これちょっとちょーだーい』
『じゃあそっちの一口食べさせて』
『わたしのも食べてみてー』
……なんてワイワイ騒ぎながら女子みたいに一口ずつ食べっこする。そんなことを期待した俺がバカだった。分けるなんて、このメンバーでは有り得ない。
他のも食べてみたかった。がっくり。
仕方なく自分のを分を食べるのに専念した。
黙々と食べていたら、何やら急に、隣が騒がしくなった。ちらりとそちらを見れば、いつの間にかガラスの衝立で仕切られた向こうに客が着ていたらしい。
「だーかーら!残ったらエイラが食べたらいいって言ってるじゃない!」
「そんなっ!お嬢様が食べた残りをいただくなんて、そんなはしたない真似出来ません!」
「そんなこといまさら気にしないでよ。残すの勿体ないでしょ!まあ心配しなくてもたぶん完食出来るわよ」
「いけません。食べ過ぎです!お腹から溢れ出します」
「もー、エイラ堅すぎ!めったに来られないんだから今日くらい許してよ。ケーキならいくらでも入るし、色んな種類を食べてみたいのよ」
「ダメなものはダメです!」
フラムたちより少し上くらいだろうか。二人の少女が言い争っている。どちらも凄い美少女だ。
片方は腰まであるサラサラとした焦げ茶色の髪に明るい栗色の瞳が印象的な少女。もう一人は肩までのふわふわの真っ白な髪に、赤いの目の少女だった。
「エイラ、いい加減にして。たかがケーキ七つじゃない。余裕で食べられるわ」
焦げ茶色の髪の少女が得意気に言い放った。
ケーキ七つ?いやいやそれはたかがじゃない。白い髪の少女がいう通り、お腹がケーキで溢れてもまだ入りきらない量だ。
見たとこ二人しかいないみたいだし、聞こえた限りでは彼女一人で食べ切るつもりらしい……。もしやこの子、エルフなのか?
「二人ともそのぐらいにして早く食ってくれ!俺は早くこの地獄から出たいんだ!」
「いいじゃない、好きなだけやりあえば」
どこからからか二つの声が聞こえた。人間は二人しか言えないように見えるけど……。
「可愛い!」
「かわいい!」
双子が何かに気付いて声を上げる。
「あっ……!」
その声が聞こえたのだろう、二人の少女に見ていたのを気付かれてしまう。そしてその内の一人、白い髪の少女が俺を見て驚いた。
なんだ?
俯いて赤くなった彼女。なんだか酷く恥ずかしそうだ。
俺、この子に何かしたっけ?初対面なはずなんだけど。
「もう俺は外に出る!いつまでもこんなとこにいてられるかよ!!」
俺が白い髪の少女に気を取られていると、また声が聞こえた。
声のした方、彼女たちの足から現れたのは、ぬいぐるみ、ならぬ、もこもこふわふわの、薄いグレーの毛並みの犬だった。
「まさか……この犬がしゃべったの!?」
「失礼な嬢ちゃんだな。俺は由緒正しきのマーナガルムの精霊だ!」
犬が人間の言葉で吠える。
「マーナガルム?」
それが何かわからなくて疑問に思っていたら、フリンがツンツンと引っ張って説明してくれる。
「狼の精霊だよ。プライドが高くて有名なんだ」
「オオカミだ、オオカミ!!ハジメテみたー」
お、狼!?どう見ても愛玩犬にしか見えないぞ!?
「あはははー。犬だって!おっかしぃーの!」
今度は焦げ茶色の髪の少女の隣、椅子から聞こえてきた。おかしくてたまらない、といった感じだ。
少女の隣、そこに置いてあった鞄の中から出てきたのはリスだった。てっきりぬいぐるみを入れてるんだと思ったのに。
「なんなの、あなたたち。邪魔しないでくれる?」
焦げ茶色の髪の少女が不快そうに顔をしかめる。
「あ、ごめんなさい」
俺が素直に謝ると、少女は気が済んだのか、今度は下を向いて犬…じゃなくて狼の精霊に言い放った。
「コナン!あんたも私を置いて出てったらお父様に言いつけるわよ!」
「だったらさっさとしろよ!もう全部食ってさ、またキリン様に叱られりゃあいいんだよ!」
コナンと呼ばれた狼は負けじと言い返す。あれ?今なんか……聞き覚えのある名前が……。
「そんなあ。そしたら私までキリン様に怒られるじゃないですか」
やっぱりキリン様って言った?もしかして、キリン先生のことか?
じゃあこの子は……。
「あの……お話中にごめんなさい。もしかして大司教のキリン・オサリバン様のお嬢様でらっしゃいますか?」
「そうよ。キリンは私の父よ。あなたは?」
「わたし、今キリン、いや、オサリバン様にこの国のことを色々教えていただいてるんです。リオナと言います」
「リオナって確か王宮の……」
少女は口元に手をあて何か考えた後、服を整え軽く髪をすくとると……
「失礼しました、リオナ様。わたくしは大司教キリン・オサリバンの娘、ケイトリン・オサリバンと申します。ケイトリンとお呼び下さい」
いきなり立ち上がって、まるで淑女のような一礼をした。少女――ケイトリンのその豹変ぶりに呆気にとられる。
「あ、あの……普通に喋ってくれませんか?」
「ええ。よかった!私も堅苦しいのは苦手よ。あなた話わかるわね!」
「ケ、ケイトリン様!せめてもう少し丁寧な、おしとやかとは申しませんから、良家のお嬢様として節度ある振る舞いをなさって下さい!」
急に砕けた態度に、向かいに座る少女がさすがに慌てている。エイラって言ったっけ?ケイトリンのお目付け役の使用人ってところか?中々大変そうなだ。
そんなエイラを無視して、ケイトリンはマイペースに続ける。
「ねえ?リオナ、もう食べてたわよね?美味しかった?」
いきなり呼び捨てか。まあいいけど。
「ええと、美味しかったです。りんごのパイを食べたんですけど、冷たいアイスとあったかいパイの感じがまたたまらなくて……」
「りんごのタルトも美味しいよー」
セクアナがタルトにかじりついたまま話す。妖精の姿が見えない人が見たら、ホラーだな。タルトが空中に浮かんでいて、しかもどんどん減っていくんだから。
「セクアナ、ちゃんとテーブルで食べてよね。お行儀悪いわよ」
テーブルを示せば、新しいケーキが増えている。二回目が運ばれてきたようだ。双子はすでに二皿目を完食しかけている。
「妖精がそこにいるのね。あの子たちはエルフよね?」
「ええ」
「よく食べるわね……」
ケイトリンがさすがに呆れたように呟く。同意だ。あっという間に完食してしまった。
「ねえねえ、食べ終わったし、その子さわってもいい?」
「フリンもー。フリンもリスさんとンオオカミさんにさわりたい」
フリーダムな双子の言葉に力が抜けそうになる。けど……俺ももふもふしたい……。
「いいわよ。コナン!そんな嫌そうな顔しない!」
顔をしかめている狼を、ケイトリンがよいしょと抱き上げてフリンに差し出す。そして鞄の奥深くに逃げようとしていたリスの方も捕まえてフラムに渡してくれた。
「この子はラタトスクの……リスの精霊なの。名前はニーヴ。私の契約精霊よ」
「な、なんか嫌がってるし、申し訳ないわ」
本音はもちろん、俺もふわふわもふもふの生き物たちを思う存分撫でくり回したい。むしろあのもふもふに埋もれたい思うけど……。
「いいのよ。それよりケーキの続き食べたら?あれ、リオナのでしょ?」
ケイトリンがそう言って俺のケーキの示す。精霊よりもケーキの方が気になるようだ。
「あの……よかったらケイトリンさんも一緒に食べませんか?わたしのを半分ずつ食べたら、色んな種類食べれるでしょう?半分ならエイラさんも許して下さるでしょうし」
キラリン、とケイトリンの瞳が輝いた。
りんごのパイは食べきってしまったが、さくらんぼのゼリーはまだ半分以上残っているし、後から来た二つはまだ丸々残っている。全部食べたら太りそうだったので調度よかった。あ……双子が不満そうな顔をしてる。
「エイラ!聞いたわよね!七つは諦めて四つにするわ。だからリオナと一緒に食べていい?いいでしょ?いいわよね?」
鬼気迫る勢いのケイトリンに、エイラさんは折れた。はあとため息を吐いて頷く。
「じゃありんごのパイとタルト。それからモンブランとショートケーキを頼んでおいて!!」
目をケーキにロックオンしたまま、それだけ一気に捲し立て、ケイトリンは俺の席の隣へ移動してきた。
「リオナ!私のことはケイトリンって呼んで!それから敬語なんていいわ!さ、どれから食べる?」
「どれからでも。ケ、ケイトリンの好きなのから食べて」
ラッキー!と言わんばかりにケイトリンは苺のシフォンを引き寄せた。
「さくらんぼのゼリーはわたしはもう食べたから全部食べてね」
「ありがとう」
「あと……ケーキも私は一口ずつでいいから」
エイラさんに聞こえないように小声で言うと、ケイトリンは物凄くいい笑顔で笑った。フォークをくわえたまま。
ほんと言うと今はケーキよりもふもふを愛でたい。思う存分撫で回している双子が羨ましい。イリルさんまでちゃっかりコナンの頭を撫でている。イリルさん……もふもふももイケるんだ。
ああ、俺も触りてぇ。
その願いが通じたのか、リスのニーヴが俺の肩に乗り移ってきた。
「もう!レディをそんなに撫で回さないでよ!」
どうやらフラムがあんまり撫で回すので逃げてきたらしい。
いや、俺も撫で回したいんだけど……いいかな?いいよね?こんなに近くにいるんだもんね。
俺は肩からリスを下ろし、ムギューと腕の中に抱き締めた。
柔らかい……ふわふわもふもふだ。
セクアナが苦々しい目で見ているが、止められない。
背中もだが、巻いている尻尾の感触が特にたまらない。
「リオナ?ケーキ食べないの?」
悦に入っているとケイトリンがケーキの皿を差し出してくる。
「もう全部……あ、いや、食べるわ」
名残惜しいと思いながらニーヴをケイトリンに渡そうとしたが、ニーヴはそれより早く逃げてしまう。そして鞄の中に入ってしまった。
「なんかごめんね。」
「いいのよ。うちの使用人たちにも散々最初されたからちょっとトラウマになってるだけだから」
「そうなんだ……でも可愛かったわ」
「あの……私ならお好きなだけ……」
隣の席で一人座って待っていたエイラが急に何か言い出した。
見ると顔を赤く染めながらモジモジ恥ずかしそうにしている。これを元の男の時にされていたら、絶対勘違いしていたと思う。まあロリコンではないので興味はないが。でも意外と胸ありそうなんだよな……年のわりに。もうちょっと成長すれば……いや、何でもありませんよ。
「何?エイラ今なんか言った?」
「い、いえ……何でもありません」
そう小さく言ってエイラはすぼまっていく。
「エイラかわいい!」
「カワイイ!カワイイ!」
双子がよしよしとエイラの頭を撫でに行く。
その隙に逃げようとしていたコナンを、俺は思わず掴んでしまった。そしてその感触にたまらず抱き上げて、思う存分もふもふしてしまったのは……まあ言うまでもないだろう。
とても幸せだ。
その後も少し話をした。なんだかんだ言ってもケイトリンはいい子だ。俺がこの国のことをあまり知らないのに気付いて、さりげなく教えてくれる。この辺り、やっぱりキリン先生の娘なんだと感じた。よく見たら髪の色も同じだし、笑うと似ている。
もふもふがまだいるとのことで、家にも遊びにに行くことになった。
美少女と仲良くなれるなんて、元の姿ではありえない。いや、むしろありえたら危険だったけど。とにかく、もふもふの飼い主?と仲良くなれてよかった。
俺も何か飼っていみたい。帰ったらルーイに聞いてみよう。もふもふの精霊……欲しいなあ。
授業がないので、今日は街を散策することにした。お供はイリルさんと双子だ。肩にはもちろんセクアナも乗っている。
「今日は噴水広場に行きましょ!この間は行けなかったけど、あの周りには美味しいお店がたくさんあるのよ」
セクアナが意気揚々提案すると、双子も目を輝かせた。
「アイス!アイスがおいしいよ!」
「フリン、アイスはこないだ食べたから、今日はクレープ屋さんにしようよ!」
「え~~っ?今日はちがうの食べたかったのに~~」
「両方食べたらどうですか?俺は角のお菓子屋の新作ケーキが食いたいです」
食べることが大好きな双子の意見に、まさかのイリルさんが乗ってきた。それどころか新たにちゃっかり自分の要望もぶっ込んでくる。
「新作ケーキ?どんなの?」
「それも食べたい。おいしい?」
双子が早速食い付いている。
「美味しいらしいですよ。俺もまだ食べてないんですが、確か洋梨のロールケーキとコケモモと木苺のミルフィーユだとか。特にミルフィーユはフルーツの甘酸っぱさとカスタードクリーム、サクサクのパイ生地がまた絶妙なハーモニーで、とても美味しいらしいです」
双子の顔を見れば、まるで夢見るようにうっとりしている。イリルさんも自分で言ってるうちに想像したのだろう、今にもよだれが出そうだ。
そうだった。この人見かけによらず、甘いものが大好きなスイーツ男子、いやオヤジだった。
まあ俺も甘いものは嫌いじゃないので興味はある。けど、さすがにアイスにクレープ、ケーキ、それらを全部食べるのは無理そうだ。
「わたしはケーキだけにするわ。アイスとクレープは入りそうにないもの」
「わたしもケーキだけでいい。三人が食べてる間、噴水前で待ってましょ!」
セクアナもそう言ったので二人で噴水前で待つことにした。
「俺もそちらに……」
「いいからフラムたちと食べてきて。わたしならセクアナがいるから大丈夫よ」
渋るイリルさんを、そう言って送り出した。
噴水前は今日も人で溢れていた。ここは王都一の観光地なのだ。
王宮のより一回り小さいが、王宮の噴水にも引けを取らない、精緻な装飾が施されている。
「確かに凄い美人だなあ~」
女神ダーナの像を繁々と眺めてそう思う。金髪碧眼かは大理石で出来ているからわからないが、優しげな顔立ちは確かに変態王子に似ている気がする。
噴水の縁に手を着いて乗り出して見ていると、セクアナが像目掛けて飛んでいった。
どうやら友達がいたらしい。
中央にある、両手を広げたダーナの像。その周囲からは絶えず水が噴き上げられている。目を凝らすと、その水の中に、小さな妖精たちがいるのに気付いた。この間紹介してもらった水の妖精たちだ。
噴き上げられている水の中を、セクアナと他の妖精たちが飛び回っている。楽しそうだ。夏なら俺も混ざりたい。
ぼんやりと妖精たちが戯れる光景を見ていたら、足に何かふわふわした柔らかい物が当たった。足元を見れば、真っ白でもふもふの何やら丸い物体が……。
「うさぎ!?うわっ、もふもふだ~」
抱き上げてみると、それは普通のうさぎより一回り程大きかった。それに毛がふわふわしている。まるでぬいぐるみのようだ。体は真っ白で耳の先だけが黒い。目はルビーのような綺麗な赤だ。
「か、可愛いーーー!!もふもふ~」
思わず我を忘れて叫んでしまった。
だって仕方がないだろう。俺は動物、特にもふもふした生き物が大好きなのだ。何度犬や猫を飼いたいと両親に訴えたことか。
俺は思わずそのふわふわのお腹を撫でくりまわし、にんまりしてしまう。
その間、そのうさぎは逃げる素振りもなく、大人しくしていてくれる。これは野性じゃないな。誰かに飼われているやつだ。
「つーかお前どっから来たんだ?、迷子か?」
噴水の縁に下ろし、頭を撫でながら聞いてもうさぎは答えない。当たり前だ。
どうしようかと困っていると、それまで大人しかったうさぎが急に耳をピクリとさせ起き上がった。
「飼い主でも見付けたか?」
そう聞けば、まるでそうだと言わんばかりにぴょんと跳ね、手に頭を擦り付けてきた。そして名残惜しそうに振り向きながら駆けていく。
あ~あ、残念。もっと撫でていたかったのに。
それにしても心地好かった。あれは癖になる手触りだ。
手をグーパーしていたら、ぎゅむっと後ろから抱き着かれた。
「リオナ、アイス食べてきたよ!アイスもクレープもスッゴクおいしかった!」
「うん、おいしかった!今度はリオナも食べに行こうね!」
もう双子が帰ってきた。セクアナはまだ遊びたそうだが、仕方がないので呼び戻す。
今度は全員でイリルさんお薦めのお菓子屋に向かった。
そこは、予想通り、窓にはレースやリボン、黄色やピンクの花などが飾られたメルヘンで乙女チック、いかにも女の子が喜びそうな外観の店だった。元の姿ではとてもじゃないけど入れなかっただろう。
中に入ると内も想像通りだった。外からはわからなかったが、結構混んでいる。日本と違って普通に男性客もいた。
「奥の席にしましょう」
イリルさんがそう言うので、店の一番奥、窓際にソファがある、広めのテーブル席に座ることにした。
「何にしますか?俺は新作二つとりんごのタルトにしますけど」
イリルさんが嬉しそうにメニューを見せてくれた。自分はもう決めたらしい。さすがだ。しかも三つも頼むのか。もしやそのデカイ体は甘いもので構成されてるとか?
ハートやリボンで飾りたてられた可愛らしいメニュー表には、これまた可愛らしいケーキがたくさん載っていた。ざっと見たところ、三十種類ぐらいはありそうだ。
「どれも美味しそうで迷う……りんごのパイも美味しそうだし、このブルーベリーのかかったチーズケーキも美味しそう……。さくらんぼのゼリーも捨てがたいなあ。あ、苺のシフォンケーキもある。はあ~美味しそう……ああ、もう、選べないよ~~~」
ほんとに目移りしてしまう。
この世界の食べ物は、見た目も味も慣れ親しんだものとは違うが、どれもこれも凄く美味しい。もちろんりんごのように、見た目も味もそのままなものもある。特にフルーツは同じものが多かった。甘いものだけでなくフルーツも好きな俺には嬉しい一致だ。
そのフルーツを使ったケーキ。つまりは、どれを選んでも間違いなく美味しいってことなのだ。
「気になるの全部頼んだら?」
セクアナが事も無げに言う。
「そうだよ、そうすればいいよ!」
「そうそう!いっぱいたのもう!」
双子たちが同意する。
「でも……そんなに食べられないし……」
「大丈夫だよ!残ったらボクたちが食べるから!」
「うん、食べるー!食べるー!」
いやいや……君らそうは言ってもすでに自分の食べる分選んでんじゃん。八つも……。
しかし結局、双子に押し切られ、気になる四種類のケーキを頼んでしまった。全部食べたら太るな……。
そうは思っても、ケーキを目の前にすれば無理だった。
テーブルには載りきらないとのことで、二回に分けて持ってきてもらうことにしたが……
「美味しそう~~」
これならワゴンで一気に持ってきてもらえばよかった。あっという間に食べきってしまいそうだ。思わずうっとりしてしまう。
運ばれてきたケーキは、メニュー表に掲載されているものよりはるかに美味しそうだったのだ。
ちらりとみんなを見ると、すでに食べ始めていた。双子は顔を上げることなく、一心不乱にケーキにかぶりついている。イリルさんは、ゆっくり一口ずつ味わいながら、幸せそうに頬張っていた。セクアナも、ハーフサイズのりんごのタルトを一生懸命かじっている。
『あ、これちょっとちょーだーい』
『じゃあそっちの一口食べさせて』
『わたしのも食べてみてー』
……なんてワイワイ騒ぎながら女子みたいに一口ずつ食べっこする。そんなことを期待した俺がバカだった。分けるなんて、このメンバーでは有り得ない。
他のも食べてみたかった。がっくり。
仕方なく自分のを分を食べるのに専念した。
黙々と食べていたら、何やら急に、隣が騒がしくなった。ちらりとそちらを見れば、いつの間にかガラスの衝立で仕切られた向こうに客が着ていたらしい。
「だーかーら!残ったらエイラが食べたらいいって言ってるじゃない!」
「そんなっ!お嬢様が食べた残りをいただくなんて、そんなはしたない真似出来ません!」
「そんなこといまさら気にしないでよ。残すの勿体ないでしょ!まあ心配しなくてもたぶん完食出来るわよ」
「いけません。食べ過ぎです!お腹から溢れ出します」
「もー、エイラ堅すぎ!めったに来られないんだから今日くらい許してよ。ケーキならいくらでも入るし、色んな種類を食べてみたいのよ」
「ダメなものはダメです!」
フラムたちより少し上くらいだろうか。二人の少女が言い争っている。どちらも凄い美少女だ。
片方は腰まであるサラサラとした焦げ茶色の髪に明るい栗色の瞳が印象的な少女。もう一人は肩までのふわふわの真っ白な髪に、赤いの目の少女だった。
「エイラ、いい加減にして。たかがケーキ七つじゃない。余裕で食べられるわ」
焦げ茶色の髪の少女が得意気に言い放った。
ケーキ七つ?いやいやそれはたかがじゃない。白い髪の少女がいう通り、お腹がケーキで溢れてもまだ入りきらない量だ。
見たとこ二人しかいないみたいだし、聞こえた限りでは彼女一人で食べ切るつもりらしい……。もしやこの子、エルフなのか?
「二人ともそのぐらいにして早く食ってくれ!俺は早くこの地獄から出たいんだ!」
「いいじゃない、好きなだけやりあえば」
どこからからか二つの声が聞こえた。人間は二人しか言えないように見えるけど……。
「可愛い!」
「かわいい!」
双子が何かに気付いて声を上げる。
「あっ……!」
その声が聞こえたのだろう、二人の少女に見ていたのを気付かれてしまう。そしてその内の一人、白い髪の少女が俺を見て驚いた。
なんだ?
俯いて赤くなった彼女。なんだか酷く恥ずかしそうだ。
俺、この子に何かしたっけ?初対面なはずなんだけど。
「もう俺は外に出る!いつまでもこんなとこにいてられるかよ!!」
俺が白い髪の少女に気を取られていると、また声が聞こえた。
声のした方、彼女たちの足から現れたのは、ぬいぐるみ、ならぬ、もこもこふわふわの、薄いグレーの毛並みの犬だった。
「まさか……この犬がしゃべったの!?」
「失礼な嬢ちゃんだな。俺は由緒正しきのマーナガルムの精霊だ!」
犬が人間の言葉で吠える。
「マーナガルム?」
それが何かわからなくて疑問に思っていたら、フリンがツンツンと引っ張って説明してくれる。
「狼の精霊だよ。プライドが高くて有名なんだ」
「オオカミだ、オオカミ!!ハジメテみたー」
お、狼!?どう見ても愛玩犬にしか見えないぞ!?
「あはははー。犬だって!おっかしぃーの!」
今度は焦げ茶色の髪の少女の隣、椅子から聞こえてきた。おかしくてたまらない、といった感じだ。
少女の隣、そこに置いてあった鞄の中から出てきたのはリスだった。てっきりぬいぐるみを入れてるんだと思ったのに。
「なんなの、あなたたち。邪魔しないでくれる?」
焦げ茶色の髪の少女が不快そうに顔をしかめる。
「あ、ごめんなさい」
俺が素直に謝ると、少女は気が済んだのか、今度は下を向いて犬…じゃなくて狼の精霊に言い放った。
「コナン!あんたも私を置いて出てったらお父様に言いつけるわよ!」
「だったらさっさとしろよ!もう全部食ってさ、またキリン様に叱られりゃあいいんだよ!」
コナンと呼ばれた狼は負けじと言い返す。あれ?今なんか……聞き覚えのある名前が……。
「そんなあ。そしたら私までキリン様に怒られるじゃないですか」
やっぱりキリン様って言った?もしかして、キリン先生のことか?
じゃあこの子は……。
「あの……お話中にごめんなさい。もしかして大司教のキリン・オサリバン様のお嬢様でらっしゃいますか?」
「そうよ。キリンは私の父よ。あなたは?」
「わたし、今キリン、いや、オサリバン様にこの国のことを色々教えていただいてるんです。リオナと言います」
「リオナって確か王宮の……」
少女は口元に手をあて何か考えた後、服を整え軽く髪をすくとると……
「失礼しました、リオナ様。わたくしは大司教キリン・オサリバンの娘、ケイトリン・オサリバンと申します。ケイトリンとお呼び下さい」
いきなり立ち上がって、まるで淑女のような一礼をした。少女――ケイトリンのその豹変ぶりに呆気にとられる。
「あ、あの……普通に喋ってくれませんか?」
「ええ。よかった!私も堅苦しいのは苦手よ。あなた話わかるわね!」
「ケ、ケイトリン様!せめてもう少し丁寧な、おしとやかとは申しませんから、良家のお嬢様として節度ある振る舞いをなさって下さい!」
急に砕けた態度に、向かいに座る少女がさすがに慌てている。エイラって言ったっけ?ケイトリンのお目付け役の使用人ってところか?中々大変そうなだ。
そんなエイラを無視して、ケイトリンはマイペースに続ける。
「ねえ?リオナ、もう食べてたわよね?美味しかった?」
いきなり呼び捨てか。まあいいけど。
「ええと、美味しかったです。りんごのパイを食べたんですけど、冷たいアイスとあったかいパイの感じがまたたまらなくて……」
「りんごのタルトも美味しいよー」
セクアナがタルトにかじりついたまま話す。妖精の姿が見えない人が見たら、ホラーだな。タルトが空中に浮かんでいて、しかもどんどん減っていくんだから。
「セクアナ、ちゃんとテーブルで食べてよね。お行儀悪いわよ」
テーブルを示せば、新しいケーキが増えている。二回目が運ばれてきたようだ。双子はすでに二皿目を完食しかけている。
「妖精がそこにいるのね。あの子たちはエルフよね?」
「ええ」
「よく食べるわね……」
ケイトリンがさすがに呆れたように呟く。同意だ。あっという間に完食してしまった。
「ねえねえ、食べ終わったし、その子さわってもいい?」
「フリンもー。フリンもリスさんとンオオカミさんにさわりたい」
フリーダムな双子の言葉に力が抜けそうになる。けど……俺ももふもふしたい……。
「いいわよ。コナン!そんな嫌そうな顔しない!」
顔をしかめている狼を、ケイトリンがよいしょと抱き上げてフリンに差し出す。そして鞄の奥深くに逃げようとしていたリスの方も捕まえてフラムに渡してくれた。
「この子はラタトスクの……リスの精霊なの。名前はニーヴ。私の契約精霊よ」
「な、なんか嫌がってるし、申し訳ないわ」
本音はもちろん、俺もふわふわもふもふの生き物たちを思う存分撫でくり回したい。むしろあのもふもふに埋もれたい思うけど……。
「いいのよ。それよりケーキの続き食べたら?あれ、リオナのでしょ?」
ケイトリンがそう言って俺のケーキの示す。精霊よりもケーキの方が気になるようだ。
「あの……よかったらケイトリンさんも一緒に食べませんか?わたしのを半分ずつ食べたら、色んな種類食べれるでしょう?半分ならエイラさんも許して下さるでしょうし」
キラリン、とケイトリンの瞳が輝いた。
りんごのパイは食べきってしまったが、さくらんぼのゼリーはまだ半分以上残っているし、後から来た二つはまだ丸々残っている。全部食べたら太りそうだったので調度よかった。あ……双子が不満そうな顔をしてる。
「エイラ!聞いたわよね!七つは諦めて四つにするわ。だからリオナと一緒に食べていい?いいでしょ?いいわよね?」
鬼気迫る勢いのケイトリンに、エイラさんは折れた。はあとため息を吐いて頷く。
「じゃありんごのパイとタルト。それからモンブランとショートケーキを頼んでおいて!!」
目をケーキにロックオンしたまま、それだけ一気に捲し立て、ケイトリンは俺の席の隣へ移動してきた。
「リオナ!私のことはケイトリンって呼んで!それから敬語なんていいわ!さ、どれから食べる?」
「どれからでも。ケ、ケイトリンの好きなのから食べて」
ラッキー!と言わんばかりにケイトリンは苺のシフォンを引き寄せた。
「さくらんぼのゼリーはわたしはもう食べたから全部食べてね」
「ありがとう」
「あと……ケーキも私は一口ずつでいいから」
エイラさんに聞こえないように小声で言うと、ケイトリンは物凄くいい笑顔で笑った。フォークをくわえたまま。
ほんと言うと今はケーキよりもふもふを愛でたい。思う存分撫で回している双子が羨ましい。イリルさんまでちゃっかりコナンの頭を撫でている。イリルさん……もふもふももイケるんだ。
ああ、俺も触りてぇ。
その願いが通じたのか、リスのニーヴが俺の肩に乗り移ってきた。
「もう!レディをそんなに撫で回さないでよ!」
どうやらフラムがあんまり撫で回すので逃げてきたらしい。
いや、俺も撫で回したいんだけど……いいかな?いいよね?こんなに近くにいるんだもんね。
俺は肩からリスを下ろし、ムギューと腕の中に抱き締めた。
柔らかい……ふわふわもふもふだ。
セクアナが苦々しい目で見ているが、止められない。
背中もだが、巻いている尻尾の感触が特にたまらない。
「リオナ?ケーキ食べないの?」
悦に入っているとケイトリンがケーキの皿を差し出してくる。
「もう全部……あ、いや、食べるわ」
名残惜しいと思いながらニーヴをケイトリンに渡そうとしたが、ニーヴはそれより早く逃げてしまう。そして鞄の中に入ってしまった。
「なんかごめんね。」
「いいのよ。うちの使用人たちにも散々最初されたからちょっとトラウマになってるだけだから」
「そうなんだ……でも可愛かったわ」
「あの……私ならお好きなだけ……」
隣の席で一人座って待っていたエイラが急に何か言い出した。
見ると顔を赤く染めながらモジモジ恥ずかしそうにしている。これを元の男の時にされていたら、絶対勘違いしていたと思う。まあロリコンではないので興味はないが。でも意外と胸ありそうなんだよな……年のわりに。もうちょっと成長すれば……いや、何でもありませんよ。
「何?エイラ今なんか言った?」
「い、いえ……何でもありません」
そう小さく言ってエイラはすぼまっていく。
「エイラかわいい!」
「カワイイ!カワイイ!」
双子がよしよしとエイラの頭を撫でに行く。
その隙に逃げようとしていたコナンを、俺は思わず掴んでしまった。そしてその感触にたまらず抱き上げて、思う存分もふもふしてしまったのは……まあ言うまでもないだろう。
とても幸せだ。
その後も少し話をした。なんだかんだ言ってもケイトリンはいい子だ。俺がこの国のことをあまり知らないのに気付いて、さりげなく教えてくれる。この辺り、やっぱりキリン先生の娘なんだと感じた。よく見たら髪の色も同じだし、笑うと似ている。
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