68 / 68
第2章 色んな種族さん!こんにちは〜材料集め編ー空色の革布〜
間話 ツバルの過去
しおりを挟む
――――――――――――
間話 ツバルの過去
※ツバルside
――――――――――――
コンテスト開催が正式に決まった、その日の夜。部屋の灯りを落とし、僕は一人、窓辺に立っていた。
「今年の開催場所は……ブルガリ海岸……」
ぽつりと呟いた瞬間、胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「……僕の、故郷だ」
続けて思い浮かんだ名前に、息が詰まった。
「そして、海上レストラン《アサナ》は……アイツの……」
――そこまで言って、もう耐えられなかった。鍵をかけていた記憶が、堰を切ったように溢れ出す。
◆
僕は、ブルガリ海岸を治める貴族、ターバン家に生まれた。
生まれる前から、僕の価値は決められていた。
「女の子でなければならない」
理由は単純だ。 白鮫一族――ブルガリ海岸の実権を握る名家に、娘を嫁がせるため。
政略。権力。地位。 それらを得るための“駒”。
そして僕は、まだ産声も上げていない段階で、白鮫の魚人・シャーガスとの婚約者として名を刻まれていた。
だが――生まれてきた僕は、男だった。
本来なら、そこで婚約は白紙になる。 この世界では、同性同士の婚約は禁止されているからだ。
……普通なら。
ツバル父「この子を、女性として育てよう!」
父の声は、今でも耳にこびりついている。
ツバル父「服も作法も女物にすれば、ツバル自身が“女”だと認識するはずだ。」
母も、楽しそうにうなずいた。
ツバル母「そうね。顔も可愛いし、小柄だもの。この子のためよ!性別変換のお呪いを使えば……16年後には、本当の女の子になれるわ」
“この子のため”。
その言葉が、どれほど残酷だったか、あの人たちは気づいていない。
シャーガス父「交渉成立ですな」
シャーガスの父が満足げに笑う。
シャーガス父「末永く、よろしく頼みますぞ。ターバン夫妻」
その隣で、シャーガスの母だけが、言葉を失っていた。
シャーガス母「…………」 (この三人……正気なの……?普通は婚約破棄でしょう…同意もなく、子供の性別を変えるなんて……)
けれど、彼女の疑問は、誰にも届かなかった。
そうして―― 僕の“女性化”は、当然のように始まった。
男として生まれた僕は、抵抗した。 泣いて、叫んで、嫌だと訴えた。
でも、逆らうたびに―― 殴られ、叩かれ、食事を与えられず、暗い部屋に閉じ込められた。だから、従うしかなかった。
「……スカートなんて、履きたくない」
「“私”だなんて、言いたくない」
鏡に映る自分が、どんどん分からなくなる。
「自分を偽るのは……こんなにも、苦しいのに……」
いつ終わるのかも分からない地獄。 逃げ場は、どこにもなかった。
嫌々ながらドレスを纏い、 貴族女性としての作法を叩き込まれる日々。
そして、僕が10歳になった年。 ターバン家主催の舞踏会で、ついに“婚約者”と顔を合わせることになった。
シャーガス「へぇ……これが、俺の婚約者か」
低く、湿った声。
シャーガス「ちんまりしてて、可愛いな。六年後が、楽しみだな」
目の前に立つ、白い鱗を持つ魚人。 シャーガス。
「……は、初めまして……」 震える声で、頭を下げる。
「ツバル・ターバンです……」
手も、足も、止まらないほど震えていた。
――その瞬間、僕は理解した。
逃げられない。
同じ性別。 相手は僕を気に入った。
両家は、この関係を“成功”と呼んでいる。
あと、六年。
六年後、僕は“女”として完成し、シャーガスと結婚する。
……そう、決められていた。
◆
「……ブルガリ海岸……」
現実に戻り、僕は小さく息を吐いた。
ニャリンガさんの笑顔が、脳裏をよぎる。
彼女を守りたいと思う気持ちの奥に、こんな過去が、ずっと眠っていた。
――だからこそ。
もう、誰にも、奪わせない。 僕の人生は僕のものだ。今回のコンテストで優勝して、呪を解いてもらう。
そして…ニャリンガさんに…。
僕は、拳を静かに握りしめた。
コンテストまで―― そして、シャーガスと再び向き合うまで。
もう、僕は逃げない。
間話 ツバルの過去
※ツバルside
――――――――――――
コンテスト開催が正式に決まった、その日の夜。部屋の灯りを落とし、僕は一人、窓辺に立っていた。
「今年の開催場所は……ブルガリ海岸……」
ぽつりと呟いた瞬間、胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「……僕の、故郷だ」
続けて思い浮かんだ名前に、息が詰まった。
「そして、海上レストラン《アサナ》は……アイツの……」
――そこまで言って、もう耐えられなかった。鍵をかけていた記憶が、堰を切ったように溢れ出す。
◆
僕は、ブルガリ海岸を治める貴族、ターバン家に生まれた。
生まれる前から、僕の価値は決められていた。
「女の子でなければならない」
理由は単純だ。 白鮫一族――ブルガリ海岸の実権を握る名家に、娘を嫁がせるため。
政略。権力。地位。 それらを得るための“駒”。
そして僕は、まだ産声も上げていない段階で、白鮫の魚人・シャーガスとの婚約者として名を刻まれていた。
だが――生まれてきた僕は、男だった。
本来なら、そこで婚約は白紙になる。 この世界では、同性同士の婚約は禁止されているからだ。
……普通なら。
ツバル父「この子を、女性として育てよう!」
父の声は、今でも耳にこびりついている。
ツバル父「服も作法も女物にすれば、ツバル自身が“女”だと認識するはずだ。」
母も、楽しそうにうなずいた。
ツバル母「そうね。顔も可愛いし、小柄だもの。この子のためよ!性別変換のお呪いを使えば……16年後には、本当の女の子になれるわ」
“この子のため”。
その言葉が、どれほど残酷だったか、あの人たちは気づいていない。
シャーガス父「交渉成立ですな」
シャーガスの父が満足げに笑う。
シャーガス父「末永く、よろしく頼みますぞ。ターバン夫妻」
その隣で、シャーガスの母だけが、言葉を失っていた。
シャーガス母「…………」 (この三人……正気なの……?普通は婚約破棄でしょう…同意もなく、子供の性別を変えるなんて……)
けれど、彼女の疑問は、誰にも届かなかった。
そうして―― 僕の“女性化”は、当然のように始まった。
男として生まれた僕は、抵抗した。 泣いて、叫んで、嫌だと訴えた。
でも、逆らうたびに―― 殴られ、叩かれ、食事を与えられず、暗い部屋に閉じ込められた。だから、従うしかなかった。
「……スカートなんて、履きたくない」
「“私”だなんて、言いたくない」
鏡に映る自分が、どんどん分からなくなる。
「自分を偽るのは……こんなにも、苦しいのに……」
いつ終わるのかも分からない地獄。 逃げ場は、どこにもなかった。
嫌々ながらドレスを纏い、 貴族女性としての作法を叩き込まれる日々。
そして、僕が10歳になった年。 ターバン家主催の舞踏会で、ついに“婚約者”と顔を合わせることになった。
シャーガス「へぇ……これが、俺の婚約者か」
低く、湿った声。
シャーガス「ちんまりしてて、可愛いな。六年後が、楽しみだな」
目の前に立つ、白い鱗を持つ魚人。 シャーガス。
「……は、初めまして……」 震える声で、頭を下げる。
「ツバル・ターバンです……」
手も、足も、止まらないほど震えていた。
――その瞬間、僕は理解した。
逃げられない。
同じ性別。 相手は僕を気に入った。
両家は、この関係を“成功”と呼んでいる。
あと、六年。
六年後、僕は“女”として完成し、シャーガスと結婚する。
……そう、決められていた。
◆
「……ブルガリ海岸……」
現実に戻り、僕は小さく息を吐いた。
ニャリンガさんの笑顔が、脳裏をよぎる。
彼女を守りたいと思う気持ちの奥に、こんな過去が、ずっと眠っていた。
――だからこそ。
もう、誰にも、奪わせない。 僕の人生は僕のものだ。今回のコンテストで優勝して、呪を解いてもらう。
そして…ニャリンガさんに…。
僕は、拳を静かに握りしめた。
コンテストまで―― そして、シャーガスと再び向き合うまで。
もう、僕は逃げない。
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?
梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。
そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。
何で!?
しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に?
堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。

ご返信ありがとうございます。さっそくネタバレのイラストも探してみます。
こもれび様
この作品をお読みいただき、ありがとうございます!ツバルの過去は中々ヘビー級です。書いてる作者も「うっ」としながら、続きを書いてます。
引き続きよろしくお願いいたします。
それと1つネタバレです。現在のツバルは呪われた姿です。本来の姿はこの小説の何処かにイラストで描いています!