塗装工物語

TERRA

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番外編/王子と野獣BEAUTY&DRAGON

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夜の街の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。
龍一は難波を背負うように抱え、マンションのエントランスに立っていた。
繁華街の一角にある、オートロック付きの新しい建物。
外観も内装も高級感が漂い、いかにもナンバーワンホストの住処といった趣だ。

「難波さん、着きましたよ。寝室は?」
「んー……。」

あいまいな返事のまま、鍵だけが手渡される。
龍一が先導してドアを開けると、目の前に広がったのはベッドがひとつ置かれているだけの、がらんとしたワンルームだった。

思わず足が止まる。
部屋そのものは新しく、立地も申し分ない。
だが生活感はほとんどなく、冷たい空気が支配している。
まるで誰のものでもない空間のように。

「……殺し屋のアジトみたいですね。」
ぽつりとつぶやき、龍一は難波をベッドに横たえた。
体がぐったりと沈み、寝返りを打ちながらかすかに声をもらす。

「んんー……。」
龍一はそっと声をかける。
「難波さん、上着脱ぎましょう。苦しいでしょ。」

「んー……。」
しぶしぶ体を起こした難波に、龍一が手を貸して脱がせようとしたその時。
不意に難波の目が開き、茶化すように笑う。

「あれぇ? どらごんじゃん。」

酔いのせいで少し焦点は甘いが、その口調はやけに冴えている。

「やっぱ俺のこと狙ってんの?」
唐突なその一言に、龍一は耳の奥まで熱くなるのを感じた。

「違います。上着のままだと寝苦しいでしょうから。」
「……ん。」

難波はおとなしく両腕を上げ、無防備な姿勢をとる。
その素直さに、龍一は胸が妙にざわつくのを感じながら、上着を脱がせた。

「水、いります?」
難波は無言でこくりと頷く。
龍一は冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを取り出すと、そっと手渡した。

「はい、ちゃんと持ってくださ——。」
「あっ……!」
手元が滑り、冷たい水が勢いよく胸元にこぼれる。

「ああ、もう……だからちゃんと持ってって……。」
濡れたシャツを見下ろし、難波は一瞬きょとんとした後、ふっと笑い声をこぼした。

「……あは、ウケる。」

龍一はため息をつき、部屋を見回す。
「着替え取ってくるんで、脱いでおいてください。」

「ん……。」
難波はゆっくりとシャツを脱ぎかけ、再びベッドに体を沈めた。
龍一はその様子にちらりと視線を落とし、改めて無機質なワンルームを見渡す。

静まり返った部屋の中に、ほのかな緊張が滲んでいた。
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