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溺愛エルフの禁忌魔法
ハロウィンの館
しおりを挟むはじまりの街には、年に一度だけ少しだけ特別な雰囲気が流れる日がある。商店の軒先にはカボチャの飾りが置かれ、通りでは子供たちが色とりどりの仮装を楽しんでいる。広場では菓子屋が焼きたてのクッキーや甘いタルトを並べ、空気に漂う香ばしい香りが人々の足を留める。そう、今日はハロウィンだ。
「街がいつもよりにぎやかだなぁ…」
エイダンは楽しげな笑顔でケモミミを揺らしながら、店を出た。今日は配達の日だが、いつもより少しだけ気分が浮ついていた。
エイダンはまず顔なじみのエド爺さんの家を訪れた。漁に出ていた時に足を少し怪我してしまい、店まで来るのが難しいため、「セージ・オブ・ヒーリング」では特別に配達サービスを提供している。
「エド爺さん、薬のお届けに来ましたよ!」
「おお、エイダン坊や、ありがとうよ。これでしばらく安心して過ごせそうだ。」
軽くいたわりの言葉を交わし、エイダンは玄関の扉を閉めて次の配達先へと向かった。今日はもう一軒、初めて訪れる家があった。
手描きの地図を頼りに、エイダンは始まりの街の外れに向かった。そこは普段訪れないエリアで、小高い丘の周辺には寂れた雰囲気が漂っていた。
草木はまばらで、枯れた土地が続いている。なだらかな坂道を進むと、丘の上に古い洋館が佇んでいた。
「ここかぁ…。すごく大きな屋敷だけど、ちょっとさびれてる?」
大きな門を押し開くと、かすかに錆びた軋む音が響く。玄関の扉も分厚く重く、ノックするとゆっくりと開かれた。
そこに立っていたのは、白髪の老紳士だった。
「薬を届けに参りました!」
「お待ちしておりました。どうぞ、お入りください。」
古びた屋敷の外観とは裏腹に、中へ足を踏み入れると、そこは驚くほど豪華な空間だった。燭台のやわらかな灯りが照らし出す装飾は、どれも洗練されており、美しい絨毯が廊下に広がっていた。
老紳士に導かれ、エイダンは奥の寝室へと向かった。そこで、彼は一人の少女と出会った。
天蓋付きのベッドの上で、少女が静かに横たわっていた。透き通るような白い肌に、淡い金色の髪がふんわりと広がっている。その姿はまるで夢の中の姫君のようだった。
「…こんにちは。」少女はか細い声でエイダンに微笑んだ。
「こんにちは!配達に来たよ!」
エイダンは、彼女の寝台のそばへ近づき、薬をそっと置いた。
老紳士が紅茶を用意し、テーブルには可愛らしい形のお菓子が並べられる。
「よかったら、お茶を召し上がりながら、お嬢様のお相手をしていただけますか?」
「いいの?わぁ、ありがとう!」エイダンは嬉しそうに席に着いた。
少女は、珍しく体調が良いらしく、ほんのり顔に温かな色を帯びていた。彼女と過ごすひとときは穏やかで、不思議なほど心地よかった。
配達を終えたエイダンは、館を後にした。しかし、街に戻る途中、ふと奇妙な違和感がよぎった。
「そういえば、この配達って、誰の依頼だったんだっけ…?」
今日の配達伝票は、師匠が用意したものではないし、自分が店で依頼を受けた記憶もない。だが、なぜか当たり前のようにその館へ足を運んでいた。
帰宅後、師匠のオズリックに話をすると、彼はゆっくりと本を閉じ、考え込むように語った。
「その屋敷…過去に流行り病で亡くなった令嬢がいた館だよ。もう何十年も前から、誰も住んでいないはずだが。」
「えっ…!?」
エイダンの背筋が凍る。確かに、館の外観は古びていた。だが、中の豪華な装飾、老紳士の礼儀正しい振る舞い、そして微笑む令嬢…すべてがあまりにも鮮やかで、現実のものだった。
次の日、薬屋に訪れたのは街の最長老マリー婆さんだった。
「おや、あのお屋敷へ行ったのかい?あのお屋敷はねぇ、昔はハロウィンの日の、子供たちの憧れだったんだよ。」
彼女は懐かしそうに語る。
「お屋敷の主人は、ハロウィンの日が誕生日の娘さんのために、お屋敷をお化け屋敷にして、たくさんの人を招いてパーティーを開いていたんだよ。大きなお菓子の家や、魔法のような飾り付けで、街の子供たちに夢のような時間をくれていたんだ。」
エイダンは、はっとした。
昨日は——ハロウィンだった。
館の中で珍しく体調が良かったという令嬢。可愛らしいお菓子と紅茶。もしかすると、あの館は今でも街の子供たちに、ハロウィンの日になるとささやかなサプライズを提供し続けているのかもしれない。
ふと外を見上げると、どこか懐かしい気配が風に紛れて消えていった。
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