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32.「明滅」
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最初こそ気にはなったが、違和感は体に溶け込むように時間を掛けて消えて行った。
消えてしまえば痛みと同じで気にならなくなり、それよりも酔いが醒めて判断力が帰ってきたマーレスに安心してどうでも良くなる。
本当に、不用意に、マーレスを酔わせないように今後は気をつけようと思う。
本人は記憶が曖昧なのか、不思議そうに腕の中の俺を見てたがこっちは必死な時間だったし、戦闘で活かせそうな程に無の境地を開いた。
休暇になったかはともかく、酒も手伝ってかマーレスの機嫌は良く、今日また出掛けようとは俺の方がならなかったものの、宿で食事を貰いながらその後はゆっくりと過ごせた。
「そう言えば明日は商談だが、了承して貰えた時の依頼金は共同金から出そうと思ってる。」
その場でマーレスに反対されないように寝る前にと話を持ち掛けるとやっぱり少し困ったような顔をされる。
「ソル、それは…。」
「仲間なんだから二人の問題だと思ってる。本当は全額でも良いんだが、それはそれでマーレスに言った自分の言葉が返って来るしで、せめて半金は出させてくれ。その代わりに俺が困ったときに助けて欲しい。良いか?」
「ソルが困ってたら助けるのは当たり前だ。でも、有り難う。今回はソルの気持ちを受け取る。だから、これが逆の立場になった時はソルも気兼ねなく受け取って欲しい。」
「ああ、もちろんだ。ありがとな。」
納得して貰えたようで安心した。結構な額にはなるだろうが、問題は無い。
話しも一段落したんで寝ようかと横になろうとして、近づいて来たマーレスに気がつき一旦止まると素早く額に口付けられた…。
「おやすみ、ソル。」
「おお…いや、なんで口付けた?てか、最近本当にどうした?」
思えば何回されたんだかって感じで…。
いい加減、理由を聞いて良いだろうと大分真面目な顔をして尋ねたら首を傾げられた。
「好きだから…。嫌だった?」
幻覚かもしれないが天気の悪い日に捨てられた子狼のようにマーレスが見える。疲れてんのかもしれねぇ。
「うん、いや、嫌では無いが…あんま、仲間同士で口付けはやらないからさ…。」
「そうか…。」
幻覚かもしれないが子狼に見えるマーレスの背後が暴風雨になった気がする。これは疲れてんな。
「分かった…。したいならすれば良いけど…、人前は駄目だ…。」
「そうか!」
幻覚なんだが大型の獣に見えるマーレスの背後で黄色い花が乱舞したように見えた。これは早めに寝た方が良いな。
満足して今日は自分の寝台に戻って行ったマーレスを見送ってからベッドに沈んだ。
なんか、本当に疲れたなー…と、直ぐに眠りの中へと落ちて行った。
翌日、約束の時間にリートゥス支店を訪ねるとクルクスが良い笑顔で出迎えてくれた。
マーレスが言ってた通りに好感触だなと思いながら密談部屋に早速とばかり案内され、前回と同じようにソファーに座るように促されて落ち着いた所でダンジョン産の魔紙で作られた契約書をテーブルに出されたんで内容を確認したんだが…。
「いや、金貨五十枚って…依頼金額間違ってないか?」
危険度を抜いて、相場から考えてもかなり安い数字に訝しんでクルクスを見ると、それはもう良い笑顔をされた。
「カーリタース様がそのようにと。ですが、割り引く代わりに自分の元を訪れて欲しいそうです。久しぶりに呑もうと。」
「なるほど…。何となく分かったが、それにしても安すぎる。普通なら桁がもう一つは増えるだろう。」
「それに関して質問がございましたらカーリタース様にお願い致します。この金額で無ければ依頼を受けないようにとの指示です。と、申しますか…もっと引き下げようとなさってましたので、それは流石にとお止めして粘った次第です。」
「ああ、それは流石にな…助かった。依頼する気が逆に失せるってか、怪しすぎるわ。」
「ですので、今回は私の顔を立てるとお思い頂いてさくっと血判をお願い致します。」
「クルクス、あんた良い性格してるな。言い方悪いが、割りと好きだわ。」
「お褒め頂き、ありがとうございます。では、どうぞ。」
何処から出したのか銀製の植物の模様が装飾された小型ナイフの柄を差し出され、値段以外に契約内容は希望通りだったんで受け取ろうとすると横から拐われた。
「契約は俺がする。」
あ、と思った時にはマーレスが素早く自分の親指の腹をナイフで切って、魔紙に血判を押すと緑の魔方陣が浮き上がりクルクスとマーレスに契約の印が飛び、体に吸い込まれるように消えた。
無事に契約は終了なんだが、まさかとクルクスの方を見ると物凄く良い笑顔を向けられた。
「契約は確かに。私が責任を持って依頼をお引き受け致しますので、朗報をお待ち下さいますようお願い致します。」
あ、うん、やっぱりクルクスが研究所に直接調べに行ってくれるんだなと、有り難いやら、この人も何者なんだろうなと遠くを見るような気持ちになった。
消えてしまえば痛みと同じで気にならなくなり、それよりも酔いが醒めて判断力が帰ってきたマーレスに安心してどうでも良くなる。
本当に、不用意に、マーレスを酔わせないように今後は気をつけようと思う。
本人は記憶が曖昧なのか、不思議そうに腕の中の俺を見てたがこっちは必死な時間だったし、戦闘で活かせそうな程に無の境地を開いた。
休暇になったかはともかく、酒も手伝ってかマーレスの機嫌は良く、今日また出掛けようとは俺の方がならなかったものの、宿で食事を貰いながらその後はゆっくりと過ごせた。
「そう言えば明日は商談だが、了承して貰えた時の依頼金は共同金から出そうと思ってる。」
その場でマーレスに反対されないように寝る前にと話を持ち掛けるとやっぱり少し困ったような顔をされる。
「ソル、それは…。」
「仲間なんだから二人の問題だと思ってる。本当は全額でも良いんだが、それはそれでマーレスに言った自分の言葉が返って来るしで、せめて半金は出させてくれ。その代わりに俺が困ったときに助けて欲しい。良いか?」
「ソルが困ってたら助けるのは当たり前だ。でも、有り難う。今回はソルの気持ちを受け取る。だから、これが逆の立場になった時はソルも気兼ねなく受け取って欲しい。」
「ああ、もちろんだ。ありがとな。」
納得して貰えたようで安心した。結構な額にはなるだろうが、問題は無い。
話しも一段落したんで寝ようかと横になろうとして、近づいて来たマーレスに気がつき一旦止まると素早く額に口付けられた…。
「おやすみ、ソル。」
「おお…いや、なんで口付けた?てか、最近本当にどうした?」
思えば何回されたんだかって感じで…。
いい加減、理由を聞いて良いだろうと大分真面目な顔をして尋ねたら首を傾げられた。
「好きだから…。嫌だった?」
幻覚かもしれないが天気の悪い日に捨てられた子狼のようにマーレスが見える。疲れてんのかもしれねぇ。
「うん、いや、嫌では無いが…あんま、仲間同士で口付けはやらないからさ…。」
「そうか…。」
幻覚かもしれないが子狼に見えるマーレスの背後が暴風雨になった気がする。これは疲れてんな。
「分かった…。したいならすれば良いけど…、人前は駄目だ…。」
「そうか!」
幻覚なんだが大型の獣に見えるマーレスの背後で黄色い花が乱舞したように見えた。これは早めに寝た方が良いな。
満足して今日は自分の寝台に戻って行ったマーレスを見送ってからベッドに沈んだ。
なんか、本当に疲れたなー…と、直ぐに眠りの中へと落ちて行った。
翌日、約束の時間にリートゥス支店を訪ねるとクルクスが良い笑顔で出迎えてくれた。
マーレスが言ってた通りに好感触だなと思いながら密談部屋に早速とばかり案内され、前回と同じようにソファーに座るように促されて落ち着いた所でダンジョン産の魔紙で作られた契約書をテーブルに出されたんで内容を確認したんだが…。
「いや、金貨五十枚って…依頼金額間違ってないか?」
危険度を抜いて、相場から考えてもかなり安い数字に訝しんでクルクスを見ると、それはもう良い笑顔をされた。
「カーリタース様がそのようにと。ですが、割り引く代わりに自分の元を訪れて欲しいそうです。久しぶりに呑もうと。」
「なるほど…。何となく分かったが、それにしても安すぎる。普通なら桁がもう一つは増えるだろう。」
「それに関して質問がございましたらカーリタース様にお願い致します。この金額で無ければ依頼を受けないようにとの指示です。と、申しますか…もっと引き下げようとなさってましたので、それは流石にとお止めして粘った次第です。」
「ああ、それは流石にな…助かった。依頼する気が逆に失せるってか、怪しすぎるわ。」
「ですので、今回は私の顔を立てるとお思い頂いてさくっと血判をお願い致します。」
「クルクス、あんた良い性格してるな。言い方悪いが、割りと好きだわ。」
「お褒め頂き、ありがとうございます。では、どうぞ。」
何処から出したのか銀製の植物の模様が装飾された小型ナイフの柄を差し出され、値段以外に契約内容は希望通りだったんで受け取ろうとすると横から拐われた。
「契約は俺がする。」
あ、と思った時にはマーレスが素早く自分の親指の腹をナイフで切って、魔紙に血判を押すと緑の魔方陣が浮き上がりクルクスとマーレスに契約の印が飛び、体に吸い込まれるように消えた。
無事に契約は終了なんだが、まさかとクルクスの方を見ると物凄く良い笑顔を向けられた。
「契約は確かに。私が責任を持って依頼をお引き受け致しますので、朗報をお待ち下さいますようお願い致します。」
あ、うん、やっぱりクルクスが研究所に直接調べに行ってくれるんだなと、有り難いやら、この人も何者なんだろうなと遠くを見るような気持ちになった。
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