裏切られた英雄を救うのは俺な件

七曜

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33.「振り子」

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「ところで、カーリタースは今何処にいるんだ?」

 契約を済ませ、お茶でもと誘われたので花の香りがする珍しい茶とほんのり甘い焼き菓子を口にしながら尋ねるとクルクスが嗚呼と頷いた。

「失念しておりました。」

「うん、いや、失念しちゃうと駄目な所だな。」

 一応、割り引いてくれた理由だからと合いの手を入れると少し首を傾げながら考える素振りを見せて軽く両手を叩いた。

「カーリタース様はあちこち移動されてしまいますので、宜しければソル様達の今後のご予定をお聞きしても宜しいですか?もし、長く滞在される先がございましたら、そちらに向かうように仕向けますので。」

「仕向けるんだな…。分かった、一応今は、プロエリウム聖国に向かってるのと、そこに比較的長く滞在する予定だ。」

「聖国ですか。あちらは治安も良いですしね。分かりました、お伝えして置きますと、聖国にもエチル商会がございますので宜しければ到着の際にでも一度顔を出して頂けましたら、そちらからもカーリタース様に連絡が行くように手配しておきます。」

「分かった。結局、会いに行くってより来て貰う感じになるが良いのか?」

「はい。恐らく先触れが参りますので、その後に訪ねて頂けましたらカーリタース様も満足されるかと。」

「そうか。色々と思う所はあるが、それでカーリタースが満足すれば良いか。」

「ええ、問題ないかと。」

 クルクスも満足そうに頷いたんでその話は打ち切り、早速、サルワトール帝国に向けて出発するというクルクスに心配から守衛には絶対に気をつけるようにと無理をして内部に侵入せずに自分の身を優先してくれと伝えると微笑まれた。

「分かっております。到着までに味方とも合流致しますし、決して無謀な事は致しませんのでご心配なさらないで下さい。」

「ああ、味方も増員されるのか、それなら良かった。」

 てっきり依頼金額からも考えて、単独かと思ってたんで安心した。
 まあ、カーリタースだからその辺はきっちりしてるかと思い直してマーレス共々に見送ってから宿へと戻った。







「さてと、勝手に話してたがプロエリウム聖国に少し長居したいって考えてたんだが、大丈夫そうか?」

「ああ、特に反対する理由がない。旅の経路的にも立ち寄ると聞いていたし、帝国との関係を考えると場所としても俺達には安全だと思う。」

「良かった。じゃあ、そのまま予定変更無しって感じで…そうだな、俺たちも明日には出発しようか。」

「分かった。割り引いてくれた人には俺も礼を言いたいし。」

「ああ、なんか理由は気になるが善意だとは思うから礼と何か、いや、旨い酒でも仕入れるか。」

 手土産をと自分のベッドに座ってうんうん悩んでると何故かマーレスが立ち上がって、こっちにってか隣に座った。
 何とか顔には出さなかったが、ぎしりとベッドが揺れたのと急接近に心臓が跳ねて動揺した。

「どうした…?」

「いや、近くにいたくて。」

「同じ部屋にいるだろ?」

「うん。でも、もっと近くにいたくなって…自分でも良く分からないんだが、無性に傍にいたい。」

「そうか…。」

 いやもう、何て返せば良いんだろうかと更に他意なく、くっついてくるマーレスに頭を抱えたくなる。嬉しいが、俺は何故か無性に距離を取りたくて仕方が無い。余り近づかれると、また妙な感覚が湧いて来そうで…。

「ソル。」

「お…おう、どした?」

「手を繋いでも良いか?」

「………………。」

「駄目か?」

「いや、うん…駄目では無いが…。」

 深く深呼吸をしてから右手を差し出すと上から握り込まれた。最初は包み込むような感じだったんでまだ良かったが、その内に指の間に指を絡められてどうしようかと思った。
 しかも、その頃にはまた違和感が体の中に渦巻き出して来た。
 その内消えるだろうが、余り何度も起こるようなら宜しく無いような気がするとそっちに少し意識を向けてマーレスが満足してくれないかとか、飯を取りに行こうかとか、明日の出発の準備をしようだとか、何か言い出そうと考えてると頬に柔らかい感触が触れて離れた。

「マーレス…。」

「うん。」

 何かが軽く外れたと言うか、一度マーレスはこっちの身になった方が良いと思う…。
 若干、目は据わってただろうし、後から考えると自分の馬鹿さ加減に思う所はあるが、この時は何も考えてなかった。

 手を此方から握り返し、直ぐに逃げられないようにしてから唇を狙って軽く啄む。
 一瞬だったが、完全にマーレスは驚いて固まり、俺の溜飲は一気に下がった。
 顔を離した後も微動だにしないマーレスに少し可笑しくなって笑い掛け、繋いでない左手で髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。

「少しはされる方の気持ちが分かったか?」

 まだ、反応が鈍いが視線が合ったまま小さく頷かれたんで伝わっただろう。んで、更にマーレスの真似をする。

「好きだから、したい。」

 殺し文句だよなと、口にした言葉に余計にマーレスが固まって大いに満足してしまった。
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