裏切られた英雄を救うのは俺な件

七曜

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43.「言葉」

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 ある意味、話が一段落してからはパクスの町を少し彷徨くことになった。普通にマーレスと買い物したりするだけなんだが、それだけで楽しい。露店を冷やかしたり、小さな雑貨屋で情報紙を買ったり、旅に必要な道具を一通り補充してから目についた酒場に入った。

 目的はどちらかと言うと昼食で、ボアの肉を焼いたのと黒パン、後はマーレスに野菜炒めも頼んでエールも頼んだ。一杯だけなんで二人分にしたものの、ついつい酔っ払わないか見てたら笑われた。味は大丈夫なようなんで、適量ならば良い酒飲み相手だなと暢気に食事をしてから買った情報紙を見てるとどうやら魔王が倒されたのではないかと書かれていたのでマーレスに記事を見せながら首を傾げる。

「情報が出回ってるみたいだな。思ったよりも早い。」

「そうなのか?」

「ああ、間者でも潜り込んでたら早いんだが、それは無いだろう。」

「確かに…。」

 魔物で溢れ返っていたあの時、実際に目にした情報と推測を合わせても可能性は無いと少ないながらも人の気配を気にして視線で問うとマーレスも納得してくれた。
 しかも、魔素が乱れてる土地だから円鏡板カスレフティスでも見透せるか微妙なんだよな。まぁ、経験則で分かる人もいるみたいだからそれが一番可能性が高いか。

 因みに円鏡板カスレフティスは遠視の出来る魔道具だ。めちゃくちゃ高いんで大体は国が所持してる上に見たい物の媒体が必要だったり場所の条件があったり、それなりの魔力を持った術者が必要だったりと管理が実に面倒だ。よっぽどの事でもない限りは使われないだろうし、使ったとしても魔大陸カサルティリオだと厳しい。主な原因としては魔素が濃すぎて、霧が掛かったと度々表現されるんだが、とにかく見通せないらしい。

「まあ、特に問題も無いか…。」

 今の所はと視線をマーレスに向けると頷いてくれる。余り不審に思われないようにと視線を落としてからエールを軽く飲みつつ肉をかじる。俺からすると少し焼き過ぎだったが厚みがそれなりにあって美味いなとか思ってたらマーレスがめちゃくちゃこっちを見てた。いや、なんか恥ずかしいんですがとか能天気なことを考えてたら脚と脚が机の下で触れ合う。
 初めは軽くだったんで偶然かとも思ったんだが、二回、三回と触れあって挙げ句に脚の間に脚が入ってくると態とってのは分かる。

マーレスメンシス?」

「うん。」

 何処でそんな技をと少し目を細めて見ちまったが、そんな筈は無いか。冷静になりつつも脚が触れたり絡むのに気恥ずかしさを感じる。
 机の下で人知れずじゃれ合うってなんかこう、恋人みたいってか、完全に恋人だな。

マーレスメンシス、降参だ。」

「ん?」

 心音が煩いし、おまけになんか宜しくない感覚が渦巻きそうで。マーレスの片脚を両脚で緩く挟んでから視線を落として咳払う。

「抑えらんなくなる…。」

 小声で呟くとマーレスの動きが固まったんで良かったが、空気は甘くなった。

「とりあえず、食べようぜ…。」

 つい視線を逸らして皿を押したのは仕方なかったと思う。
 てか、これって逢い引きだな。あんまり意識して無かったが、意識したらもう普通に買い物とか町歩きって感覚じゃ無くなった。
 今更、もっと気の利いた店にとも言い出せないし、いきなり行動を変えるのもおかしな話だなとマーレスが口を動かすのを何となく眺めてたんだが、不意に匙を置いたんでどうしたのかと視線を上げると気恥ずかしそうな瞳と目が合った。

「すまない、ソルウェル。そんなに見られてると食べ辛い…。」

「お、おう…、悪い。」

 こっちまで気恥ずかしくなりながら視線を逸らしたものの、俺たちにあんまり場所は関係ねぇのかもと思った。

 食事を済ませた後はどちらからともなく宿へ戻ろうとなり、荷物を整頓した後はベッドに並んで座ってからマーレスに贈った地図を広げて貰った。行き先の確認と、後はまぁ互いに近くにいたかったからなんだが。
 若干、意識しながら少し規模の大きな町、マグニフィクスで例の物を買おうと言う話になった…。

「ここなら、売ってる店がある可能性が高い…。」

「ああ、分かった。」

 なんなんだろうか、自分でそういう物を買う案内をしている状態に物凄く頭を抱えたくなる。
 思うんだが、もっと雰囲気のある物を最初は買った方が良いんじゃないだろうか…。

「マーレス、言っててなんだが、もっと情緒のある物を先に見に行かないか?」

「情緒のある物?」

「例えば、装飾品だとか、仕立ての良い衣類だとか、後は男同士で花ってのはあれかもだが、最初なんだから即物的なもんよりかは遥かに良いってか…意味伝わるかな?」

「つまり、相手に贈る心情的な意味で大切な物、愛情を示す物…ってことで合っているか?」

「そう!そういう事だ!あんまり欲しい物が前に無いって言ってたが、何か少しでも欲しい物ってあるか?もし、無ければ何か考えるから先に贈らせてくれ。」

「ソルからは既に朝焼けを贈られている気もするが、気持ちは嬉しいし俺も何か贈りたいと思う。でも…そうだな、欲しい物はある。」

「おお!なんだ?」

「その、物では無いし無理にとは言わないが好意の言葉を沢山、ソルから聞きたい。」

「え…、つまり、好き、とかそういう言葉を何度もか?」

「ああ。凄く聞きたい。」

 不覚にも胸がキュンとしてしまった。いや、欲しい物可愛い過ぎないか?

「勿論、良いぜ。」

 幾らでもとマーレスの方を向いて瞳を見つめる。

「マーレス、好きだ。」

「うん。」

 心なしか黒い瞳が輝いて、無いはずの尻尾が揺れているように見える。
 思わず手を伸ばして頭を撫でてから言葉を続けた。

「大好きだ、マーレス。俺の大切な人。好きで好きで堪らない。んで、内緒だがすげぇ可愛いなって思ってる。」

 末尾がちょっと笑っちまったがよしよしと頭を撫でるとマーレスも小さく笑ってくれる。
 一通り髪の感触を楽しんでから片手を取って少し持ち上げた。指先に軽く口付けて、ぎゅっと指の間に指を通して握りしめる。

「愛してる…。」

 うん、言ってから結構、自分の心臓にクるなと思う。
 マーレスもなんか微動だにしないし、と、再起動する前に口付ける。軽く吸って離すと流石に瞬きしてたんで、笑いかけながらまた、好意の言葉の続きを口にした。
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