裏切られた英雄を救うのは俺な件

七曜

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48.「発情」※

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 傍から見れば冬籠りでもするのかと言わんばかりの食料の調達と、部屋に安易に近づかないでくれって意味と口止めも含めた宿への長期間の滞在費の支払いは既に済ませてある。
 本来ならば孕んだ時点で発情は落ち着くんだが、一族の同性同士の場合を知らないんで、どうなるか分からない。
 部屋に備え付けの簡易の風呂で全身を清めながら一抹の不安を覚えたものの、明らかに早い心音と呼吸。渦巻く何ともな感覚と期待してしまう心。今更、この発情の予兆を自分だけでどうこう出来る訳もない。

「それに、マーレスが欲しい…。」

 理屈抜きでと深い溜息と共に吐き出すと部屋の方からゴンッ!と、何故か鈍い音がした。
 いや、まさか聞こえた筈は無いだろう。凄い偶然だなと思いながらも先に風呂に入って部屋でゆっくりで良いと待ってくれているマーレスの事を思うと胸の中が暖かい。自然と笑みが浮かび、なるようになるかと随分落ち着いて戻る決心がついた。

 脱衣所で体と髪を拭いて簡易な下着と部屋着に袖を通し、もっと色気がある衣装を準備した方が良かったかと少し思考に余裕を持たせながら部屋へ繋がる扉を開けると同じく黒い部屋着を着たマーレスがベッドに腰掛けて此方を見ていた。少し落ち着かなさそうな雰囲気はあるものの、余り普段と変わりが無いように見える。

「何か落としたのか?」

「ああ、魔法薬の瓶を床に…。」

 なるほど。瓶だから結構重さがあるもんなと納得しながら近づいて、隣に腰掛けるとわざと片方の肩と腕をくっつけた。

「待たせた…。」

「いや、早いぐらいだ。本当に良いのか?」

「ああ、もちろん。寧ろ、マーレスがしないんなら俺が襲うけど?」

「ソル…。」

 冗談半分、本気半分で笑うとマーレスが何とも照れたようにはにかんだ。

「ソルには敵わない。」

 それが合図だったように顔が近づいて来て、唇が重なる。もう、何回したのかも分からない口付け。でも、この先、何回だってしたいそれ。
 迎え入れるように口を開くとマーレスの舌が入って来て絡め取られる。それだけで、身体が反応し出して自分の余裕の無さを感じる。

 ちゅっと、マーレスの唇を吸い、背中に腕を回すと心得たように優しくベッドに押し倒され、手が確かめるように上から下へと下りて行き下着ごと下衣を脱がせようと動いたんで自分からも指を引っ掛け、最後は足も使って脱ぎ捨てる。
 少し驚かれたんだが直ぐに目を細めたマーレスが洗浄の魔法薬アポスティロシの丸薬を取り出して、慣れて来た手つきで後ろに宛てがい、入れて来る。

「ん…ッ」

 相変わらず、直ぐに指を抜いてくれるのとこっちも感覚に慣れて来たのもあって、初回よりかなり衝撃は少ない。効果が出る少しの間にそんな事を考えてると珍しくマーレスが上衣を脱ぎ出したんで思わず見つめちまう。鍛え抜かれた体はある意味芸術品足り得るってか、見惚れるのも仕方ない。でも、今までする時は着衣が多かったんで素直に珍しいなと思ってると上服を脱いで適当に捨てたマーレスが、俺の上衣の裾を掴んで脱がせに掛かって来た。

「マーレス?」

 これも珍しいんで驚いてると眉を少し寄せたマーレスが何処かギラついた視線を向けて来た。

「我慢、出来そうに無いから…。」

 いや、ごめん。我慢させまくってた。
 考えなくても分かれよなと納得しか出来ずに服なんか幾らでも脱ぐよとばかり、俺からも率先して脱ぐ。
 着る意味あったかとの脱衣を済ませる頃には魔法薬が効いて、腹の中が温かく、充分に後ろも濡れたようだ。
 マーレスの様子から直ぐに指を入れられるのかと思ったものの、塞がれたのは唇で、そして、触れたかったとでも言う風に右手が胸元から腹へ、腰や背中の肌を何度も撫でるんで心地良さが広がる。
 俺もとマーレスの背中の地肌を撫でてると感極まると言うか、愛しさが溢れた。

「んっ…愛し合うって、こういう感じなんだな…。」

 相手を慈しむ。
 そんな穏やかな感情が胸一杯に広がって溶けてしまいそうだ。

「ソルは…良く、そういう目を俺に向けてくれてた…。」

「ああ、妹と少し重ねてたんだが…今はさ…。」

 過去を思い出し、今、目の前にいるマーレスを見つめる。

 そこには、大切な、愛しい人が微笑んでて…。

 思わず、涙がぽろりと溢れた。

「好きだ…、マーレス…っ。」

 もう、大事な人は出来ないと思っていた。
 弔いと言う名を背に、あの村で朽ちようと思ってたから…。

 ぼろぼろと感情のままに涙を零す俺の頭をマーレスが何度も撫でてくれ、それが余計に俺を無防備にさせる。
 本当に隠すものなんて無いんじゃないかってぐらいに心を曝け出して泣き、泣き止んだ頃にマーレスが心底嬉しそうに、そして愛しそうに笑ってくれた。







「マー…ぁ…レ、ス…っ…!」

「ソル…。」

 体を開く前に心を開いたせいか、もう何をされても気持ちが良い、心地良い、何より愛しさで感覚が壊れたようだった。
 後孔に指は既に三本入ってて、ぐちゃぐちゃと抜き挿しされるだけで途方も無い快感が全身を襲う。
 昨日はここまでじゃ無かったと半泣きになりながらマーレスにしがみつき、止めて欲しくは無くて、股を出来るだけ開いて首だけを振って感覚をやり過ごす。

「ぁあっ…!あ、ッ…ア…ん…っ…!」

 もういっそ、早く挿れて欲しい。
 あられもない声は止まらないし、挿れられる前から愛撫で何度かイッてしまって、甘い違和感が荒れ狂うように身体を蝕んでいる気がする。
 無意識にマーレスの背中に常人よりは尖った爪を立ててしまい、しまったと力を緩めようとして急に指を引き抜かれた。

「かはッ…!」

 圧迫感が無くなって、酸素がいきなり肺に入って来る。ぜえぜえと肩で息をして、少し落ち着くとマーレスがこっちを静かに見ていた。

「ソル…。」

 囁くように名前を呼ばれ、後孔に熱いものが押し宛てられる。
 何かは分かるし、マーレスが顔を目の前まで近づけて来たんでいよいよかと喉が鳴った。

「愛してる。」

「俺も…ンッ…」

 控えめな、けれども、真摯な告白はマーレスらしくて。馬鹿みたいに鳴る心臓の音を聞きながら唇を受け入れると、ぐっと中へ熱が押し入って来る。
 動きは緩やかに、確かめるように小刻みに挿入されてるんだが、数日を掛けて解されたせいか身体は確実に作り変えられていたようだ。只でさえ、マーレスが愛しいのに発情の兆しと相まって快楽を強く伝えて来る。

「あう…っ…ン、んッあ、ハッ…ん、ぁあ、ひ…っん…!」

「ソ…ル…、っく…」

 マーレスも気持ち良いのか、眉間の皺が深まり、黒い瞳が淡い火を灯したように揺れ、頬も少し上気しているように見える。
 一瞬、自分の切羽詰まった快感を忘れて髪を撫で、背中を抱き寄せてしまう。

「か…わ、いっ…い…」

 狡く無いだろうか。男としても格好良いのに、可愛さも兼ね備えているなんてと大分、茹だった思考で考えてたせいかぐっと中に突き入れられて腰が跳ねた。

「あうっ…!」

 少し可笑しそうに、何処か悪戯っぽくマーレスが笑ってるんで怒った訳では無さそうなんだが、一定の間隔で、軽やかに、確実に、中を突き上げられると余裕が無くなる。

「ぁ、やっ…あ、アッ、あっ、う、あっ…あっ…アッ…あっ…?」

 目の前で星がぱちぱちと弾けているような幻が見えて、気づけば深い所を抉られている。
 混乱してると俺の左膝の裏に手を添え、更に押し広げたマーレスが腰をゆっくりと引いては中へ、引いては中へと繰り返しながら囁く。

「可愛いらしいのは…ソル…っ、貴方だ…。俺を…どこまでも…甘やかして、こんなに、深い場所まで…受け入れてくれて…。健気で…愛らしい、俺の大好きな…ソル。」

「マー…っ…あっ…アッ、あ、あ、あアッ…!」

「沢山、気持ち良く…なって…。」

 優しく、煮溶かすような言葉のままに絶妙な力加減で腰を何度も打ち付けられ、時折、甘えるように口付けられる。
 身体だけで無く、心も幸福感に包まれて、ある意味死にそうだ。

 何処で限界を迎えてもおかしく無い状態で、けれども全然足りないとばかりにマーレスを中で締め付けてると互いに限界が重なったようだ。

「ソ…ル…っ…」

「マー…レス…っ…」

 ぐっと奥まで性器を突き入れられて、強く抱き締められる。俺も抱き締め返しながら、自分がイってる感覚とマーレスが中に出してくれた陶酔感に浸り、何かがカチリと噛み合うのを感じる。
 何だと考えられたのは一瞬で、熱湯でも入れられたんじゃないかってぐらいに腹の中がカッと熱くなって、ぞわぞわと寒気にも似た快楽に飲み込まれていく。

 発情したんだと無意識に理解する傍ら、それとは全く違う強くて暖かな力を飲み込んでいるようで、大きな波に、理性が焼き切れる音を聞いた。
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