夢の中で人狼ゲーム～負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが～

第８話 『きみの、きみたちの、いない世界で』

③

「わかってるんだ、ぜんぶに、バクストマック・ゲームそのものに勝つことができれば、ミアもホマレも、他のプレイヤーたちも全員、取り戻せるって……でも！」


　腕を掴む手に、ギュッと力がこもる。爪が食いこむけど、痛さを感じない――それくらい、ずっと、同じ考えが頭を支配している！


「俺、もう、いやだ！　今すぐミアとホマレに会いたい……あいつらがこの世界のどこにもいないなんて、そんなのたえられねぇ！　今すぐ、そんなこと、ウソにしちまいたい!!　もうそれ以外考えられないんだ……このままじゃ俺、ラッパ吹きの力をそのために使っちまう……でもそれじゃ、きっとジュースは倒せない……！　わかってる、だけど、けど……!!」


　この力を託された責任もすべて無視して、ふたりに会いたい！
　もうそれ以外のことを、考えられないんだ……！

　許されないってわかってる。だから踏みとどまっている。でも、本当は、今すぐ眠って――バクストマックに行きたい。

『ミアとホマレはこの世界に存在している』――
　そのウソになっちまっているホントを、ホントに戻したい……！


　もう、どうしたらいいかわからずに、俺はガキみたいに泣くばかりだった。
だけど、そのとき……ふと、ぬくもりが身体を包みこんだ。


「せん、せ……？」

「泣いていい、蒲帆フウキ」


　気づけば先生は、ベッドのヘリに座っていた。
　そして、壊れものを守るように優しく、俺を抱きしめてくれた。


「君は今、ただ、泣いていい。君の世界をかたどっていた存在を、ふたりも失ったのだ。その痛みのまま、泣きなさい。他のことは考えないでいい」


　……怒られるかと思った。

　失望した、そんなふうに言われるかと。

　でも、先生は――それ以上、なにも言わなかった。
　ただ、抱きしめて――そこに、いてくれた。


「う……うぁっ、うああああああ！　あっ、あああああああああああ!!」


　なにも考えないでいい――その言葉は、俺の頭をぎゅうぎゅうに押えつけていた罪悪感や自己嫌悪を、取り払ってくれた。

　これまでのことも、これからのことも、今は考えない。
　ひたすらに――かなしい。くるしい。さみしい。せつない。


　ミアがいない……！　ホマレがいない……！


　心にぽっかりと空いた穴を満たすように、とめどなく泣いた。

　その間、本間先生は抱きしめて、そこにいて……
　やさしく背中をさすってくれた。