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・屋敷編

5.

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「どうだ? 彼の最近の様子は?」
 屋敷の奥――藤滝が自分の書斎として使っている部屋から彼の声がしている。話しかけられているのは、最古参の使用人だった。この男が、屋敷の実務の全ての顕現を担っている。
「このように」
 彼の果たした売りあげ・・・・をまとめた表を彼は用意してきていた。自分が絶対忠誠を誓っている主人にむかって、その紙をささげるように渡す。藤滝はうやうやしくかかげられたその書類にさっと目をとおすと、それを史机のうえに投げた。
「低級だな」
 藤滝が吐き捨てるように言った。
「はい」
 使用人が答える。
「下級の花だ」
「はい。――額面上では」
 あわてて「額面上」と付け加えたのは、彼なりの配慮だった。藤滝が、あの忌々しい野生の目付きをした男をいたく気に入っていることを思い出して、簡単に彼の言葉に同意する相槌をうってしまったことを取り消そうとした。
「まあ、そんなもんだろう、あれは」
 だが、当の本人は、そんな使用人の様子に無頓着だった。それ以上に、重大なものを彼の目は見据えていた。
「豚箱送り、でしょうか」
 使用人の声に、藤滝は一笑した。
「はっ、それもなかなかいいな」
 豚箱。
 そう屋敷のなかで呼ばれている、特別な場所がある。それは、こんな山奥にひっそりとたたずむ秘密のお座敷の外にあった。
 もっと喧騒激しい街中の、繁華街にひっそりと藤滝が用意した、小さな遊び場だ。
 もともと、この『屋敷』を建てるためのデモンストレーションとして、彼が最初にはじめたビジネス・・・・がそれなのだ。否。ビジネスといっていい代物しろものではない。
 それは、闇市ブラック・マーケットから仕入れて来た商品の墓場・・のような場所だ。
 実際に、『屋敷』を成立させ、不要となった豚箱は、この『屋敷』では稼げないような低級の花たちを落とすために機能している。低俗な、客たちの欲望をさっくりと満たすために機能している闇風俗店では、花としての魅力よりも、その肉体だけが重視される。
「あれに落とすのも、また面白そうだ」
 藤滝の凍り付いた目の奥にかすかに火がとともった。
 ああ、まただ、と使用人頭は、目を細める。
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