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・屋敷編
Tue-01
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重力に引っ張られて、もう動けない。布団の中に沈んだ身体は重くて、瞼さえあけるのも、おっくうだ。
そんな自分を呼ぶ声がする。そして、自分を揺り動かす誰かが。
ぼんやりとかすんで聞こえたその声が、はっきりと明瞭になった途端、弥助はとびおきた。
「ここは!?」
はいだ布団の中から、白い腕がとびでた。着物の裾からのぞいたその手首に、大きな男の手の跡が、真っ赤に充血していた。力ずくで彼が抱かれた痕であった。
「あ、起きた!」
見慣れた顔に、青年は、ため息をついた。
「もう、どうしたの? 早く早く!」
芹那はあいかわらず、可憐な表情で、青年を見ている。何かあったのか――と問う前に、黒服に身を包んだ男たちがぞろぞろと現れた。
「遅い、もう待てないぞ」
とっさに身を固くした青年だったが、彼らに、身体を掴まれて、そのまま持ち上げられた。
「なっ、なんだよ! 急に!」
花たちの控える静かな部屋に、使用人たちの大きな足音と、青年のあげた声がこだまする。
「朝っぱらから、また何か企んでやがるのか! この悪趣味!」
「それをいうなら、ご主人さまにでも言え! 本当に言えるのならな!」
「は、はぁ!?」
意味がわからない。あっけにとられた青年は、使用人にかかげあげられた態勢のまま、芹那を見下ろした。
「おい、これって、一体……!?」
「さあ、ぼくもよくわからないけど、がんばってね、おにぃさん」
にこにこと微笑む少年はあてにならないと、青年が悟った瞬間に、部屋の扉が開かれた。
「おい、俺をどこに連れていく気なんだよ! くそが!」
「暴れるな! 落とされたくなかったら、静かにしていろ!」
暴れるもなにも、急にこういうことをしなければいい。こちらだって、昨夜の行為があとをひいて、体力がもどってきていない。なるべく安静に静かにしていたいというのに。
「早くしろ」
青年を担ぎあげている、使用人が他の使用人に指示をする。
「迅速に、ご主人さまがお待ちだ」
そのひとことに、青年はため息をついた。ああ、やっぱり、あいつだ。あいつ以外に誰がいる。あいつめ――。
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