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・屋敷編

Thuー12

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 そのとき、青年の耳をかすめたのは廊下から聞こえてくる微かな足音だった。その存在に気が付いた瞬間、青年は、ひやっとした。近くにひとが来ている、という事実に我に返る。
 しかも、だんだんとそれは大きくなっていく。まるでこちらに来るかのように。まずい。そう思った瞬間に、部屋の空気が入れ替わった。
 扉を開けた存在は、驚いた顔をした。普段なかなかそんな表情をとらない男が目を見開いて、青年を凝視した。
「……藤滝」
 ここで、自分が何をしていたのか、一目瞭然だ。男はすぐに普段の顔つきにもどった。あきれたような困ったような疲れたような顔で青年を見た。
「お前は神出鬼没か」
 どうしてここにいる?と、ここで何をしている?が同時にやってきた。
 青年は、はっとしてシーツを握りしめて我が身を隠そうとしたが、この男にはさんざん肉体を暴かれている。今更か、とため息をついた。
「おい、無視するなんていい度胸だと思うが?」
「してねえよ。それより、お前こそ、味見・・のしすぎじゃないか?」
「しない方だと思うがな」
 どの口で言うものか。ここでしていたことはすぐにわかるし、それに青年だってさんざんにむさぼられている。
「お前はどうしてここにいる? 何故だ?」
 そりゃ青年のような下級に朋華との縁はない。藤滝が疑うのもわけはない。
「……なんでだろうな」
「お前にはぐらかすことのできる権利があるとでも?」
「権利権利、権利もくそもねえだろ、ここには」
「そりゃそうだな。お前は権利もくそも全部、お前のすべては俺の手の中にあるからな」
「勝手に言ってろ」
 青年は藤滝を見据えた。男も彼を見返した。彼は何か言おうと唇を開きかけて、やめた。かわりに腕を伸ばして来た。
「っ! ……おい!」
 急に両手首を掴まれてシーツの上に押し倒される。逃れようと足をばたつかせ、男の腹を蹴った。一瞬、しかめた顔をした男だったが、構わずに自身の体重を使い青年をおしつぶすように身動きを封じた。
「お前なあ!」
「それはこっちの台詞だ。ここで何をしていた……?」
 
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